松沢呉一のビバノン・ライフ

オミクロン変異体と南アの研究者リチャード・レッセルズの仮説—新型コロナ対策に偏重した結果か?-(松沢呉一)

 

オミクロン変異体はどうして誕生したのか

 

vivanon_sentence世界のオミクロン変異体騒ぎはチラチラとは見ているのですが、病原性については「重症化しやすい」「死亡率が高い」なんてデータはまったく出てきておらず、むしろ逆の数字が次々と明らかになっています。つまりは「重症化しにくく、死ににくい」。

感染してから時間が経って重症化する分がまだ出揃っていないとは言えども、今までより時間差の重症化が多いってことはないでしょうから、「重症化しにくく、死ににくい」ってことでほぼ確定です。その意味ではそう恐れる必要はなさそうです。

それでも感染力が強いと重症化しやすい人々も感染しますし、医療機関の負担が高まるので避けた方がいいのは事実でしょう。私のように軽くても宿泊療養しようとするのも出てきますしね(私の場合は副鼻腔炎が案外厄介だったためですが、混み合っているんだったら利用しない)。また、オミクロンから次の変異体が生ずる可能性があるので要注意と言っている人たちもいますが、とくに日本では今まで通りの警戒でいいってことです。

むしろ、オミクロン変異体の登場は「新型コロナ対策に偏重すると、新たな変異体の登場を招く可能性」を示唆しています。

あくまで仮説レベルの話ではありますが。そこんところの仕組みを説明しておきます。

※この間、PCR検査したクリニックでくれた「新型コロナウイルス感染症の検査を受けた方へ」というガイドはここで読めます。宿泊療養は右側

 

 

レッセルズ仮説について

 

vivanon_sentenceなぜ南アでオミクロン変異体が発見されたのか。オミクロンに限らず、変異体はなぜ南アやインドで発見されやすいのか。オミクロン変異体の特殊性はどこでどうして生まれたのか。こういった疑問にきれいに答える仮説を出しているのは南アのクアズール・ナタール大学の感染症研究者であるリチャード・レッセルズです。彼はオミクロン変異体を発見したチームのメンバーで、このチームはオミクロン変異体がどのように生じたのかの調査研究を引き続きやっています。

オミクロン変異体のゲノム解析をやっていくと、奇妙な事実にぶち当たります。オミクロン変異体は多数の変異を起こしているのが特徴ですが、それらの変異は一度に獲得されたのではなく、時間をかけて少しずつ変異を起こして淘汰されていった結果とみなされます。

通常であれば、変異がここで起き、その次はここで起き、といったようにある程度軌跡を追えるのですが、オミクロンは昨年半ばを最後に追えないのです。1年以上の間、変異の過程が外に出ずに蓄積され、このたび披露の運びになりました。

これを説明する仮説はいくつかあって、まずはヒトは人ではない動物内で温存されていた説。ヒト以外の動物で感染する例はいままでにいくつか確認されています。ミンクがそれで大量に殺されたこともありました。

ヒトと隣接しながらもヒトに密接しない生物に感染し、その生物内で感染が拡大しつつ、変異が起きていたのが1年数ヶ月ぶりにヒトに戻されたという説です。

ふたつめは他のコミュニティとの接点があまりないヒトのグループ内で温存されていた説。閉鎖された環境にある集団がいて、一度ウイルスが持ち込まれたあと、外界と遮断された環境で感染しあい、そこで重症化しようと死のうと外に出なかったのが、ここに来てメンバーの誰かが外と接触したと。

みっつめは、これが個人の中で起きたという説です。長い間、一個人の体内で突然変異が繰り返されて来た。通常であれば、人間の免疫機能によって一定期間でウイルスは消えるわけですが、免疫機能が衰える感染症などによって、「生かさず殺さず」の状態が続いて、個人内で次々と変異を繰り返していった。これをレッセルズ仮説とします。

※2021年12月1日付「npr」 nprは米の非営利ラジオ局。早い段階でレッセルズ仮説をわかりやすく取り上げていました。以下、おもにこの記事を使っています。

 

 

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