松沢呉一のビバノン・ライフ

湯温の高すぎる銭湯・湯温の低すぎる銭湯を批判してはならない—私自身、大きな勘違いをしていました-(松沢呉一)

 

湯温の低さが惜しい銭湯

 

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都内の銭湯を制覇したあとも、リニューアルした場合は行くようにしています。前とたいして変わらないリニューアルもありますが、劇的に変化するのを見るのもまた楽し。

数日前もリニューアルした銭湯に行きました。リニューアルしたのは数ヶ月前です。

周辺のロケーションも建物もまるで記憶しておらず、入口の佇まいだけはわずかに記憶してました。中は全面改装されているので、覚えているはずもない。

建物を新築したわけではないので、以前もそうだったのだと思いますが、天井が低く、洗い場が狭い。あまり褒めるところのない銭湯だったのでしょうけど、照明効果によって雰囲気がムチャクチャよくなっています。ラブホの風呂場にも同様の照明がありますが、深海の風呂のよう。深海に風呂はないと思いますが、あの照明だと天井の低さや狭さも気にならない。むしろ効果がより一層高まりそうです。

ただひとつ難点がありまして、湯温が低いのです。もともとそうだったのか、リニューアルでそうなったのかわからないですが、リニューアルで湯温を下げるのはよくあることです。夏ならいいとして、厳寒にあの湯温は無理。

浴槽が3つあって、ひとつは水風呂、ひとつはぬる湯、ひとつは熱い湯で、熱い湯でも41度台。ぬる湯は体温くらいだと思います。熱い湯があれば、そのくらいのぬるい湯が気持ちよかったりもするのですが、41度の湯のあとで、あのぬるい湯に入ろうとは思いません。風邪ひきます。

熱い方の浴槽に入っていても寒気がしてきて、「これは辛いなあ」と思っていたのですが、見ていると、ぬる湯の方が人が多いではないですか。これももともとあったのか、リニューアルで作ったのかもわからないですが、サウナがありますから、サウナの客がぬる湯に入るのはわかります。しかし、サウナ利用客じゃないおじいちゃんでもぬる湯に入ってます。サウナに入らない人で、あのぬる湯に長い時間浸かっているのは理解できない。

一般には空いている時間帯である午後5時台だったわりに、客は入っていて、サウナを入れて常時10人以上いました。まだ冬休みなのか、あるいは学校のあとなのか、子どももいて、その子もずっとぬる湯に入ってました。

あの湯温では耐えられない人はもう来ないわけで、この近くには他にも銭湯がありますから、そちらに行くでしょう。私が近くに住んでいても、冬にはもう来ないです。

結果、こちらに来る人はあの湯温でいい人たちで、それがこうもいることに私は驚きました。

※写真は本文と関係ありません

 

 

冬は湯温が低すぎる銭湯を誰もが敬遠すると思い込んでいた

 

vivanon_sentence湯温の低い銭湯に冬に来てしまい、「冬はもう来るまい」と思ったことはこれまでにもあります。そんな時は、「ボイラーが老朽化して湯温を高くできないのだろう」と考えて納得します。実際、湯温が上がらない、あるいは高くなりすぎるという不調の話を聞きますから。

しかし、今回の銭湯はリニューアルしてから間もなくて、ボイラーが不調とは考えにくい。江戸時代に、この辺の土地をもっていた領主は熱い湯が好きだったのですが、一族がヒートショックで次々と早死したため、以来、熱い湯は禁止となり。この地の人々は子どもの頃からぬるい湯にしか入ったことがないため、今では熱い湯に入れない住民ばかりになった、なんてこともないでしょう。

東京のどこでもぬるい湯が好きな人の方がずっと多く、しかし、熱い湯が好きな人の方が声が大きいために、「東京の銭湯好きは江戸っ子の伝統で熱湯が好き」という思い込みが広がってしまっているのではなかろうか。

 

 

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