松沢呉一のビバノン・ライフ

「有名人頭」の損得—「ラーメン頭」の考察[下]-[ビバノン循環湯 609] (松沢呉一)

「バカ頭」は迷惑な上に自分も損をする—「ラーメン頭」の考察[中]」の続きです。

図版は食い物に関するものを適当に撮ってきたもので、それぞれとくに深い意味はなし

 

 

 

風俗嬢にとって大事な情報

 

vivanon_sentence学歴を誇示したがる物書きがいるのに対して、風俗嬢は清々しい。偏差値の高い大学に在籍していたり、卒業していたりしても、そんなものをひけらかすことはまずない。

時々、雑誌向けに「お嬢様女子大生」「東大出身の風俗嬢」なんてことを売りにするのがいるが、だからといって人気が出るかというと、そういうもんでもない。メディア的には話題になるから、それに伴って客も増えるだろうが、そういう高学歴風俗嬢を敬遠するのもいるため、一般的には客にそんなことをひけらかすのはまずいない(身元がバレない対策の意味もあって)。

初めて会った風俗嬢のお決まりの質問は「おいくつですか」「お仕事は何をしているんですか」「どこに住んでいるんですか」「こういうところにはよく来るんですか」といったところ。それぞれさしたる意味があるわけでなく、話をもたせるためのきっかけみたいなもんだ。

実はこの中でもっとも意味があるのは「こういうところにはよく来るんですか」という質問かもしれない。これがわかっていると、サービスがしやすいからだ。

結果として客と結婚するのはいるとしても、風俗嬢たちは常々「結婚頭」になって「客と結婚したい」と思って接客しているわけじゃないのだから、そういった属性より、その客とこの時間を楽しく過ごせるかどうか、その客を満足させて帰させるかどうかこそが問題であって、「どんな大学を出ているか」よりも「素股とフェラとどっちが好きか」の方が大事だ。あるいは話を盛り上げるために、「どんなテレビ番組が好きか」「どんなタレントが好きか」「どんな音楽が好きか」「何に興味があるか」の方が大事なのだ。

その点では、年齢もあまり関係がない。一般社会では自分との距離を測るために、年齢は重要な属性だが、風俗嬢たちにとっては比較的どうでもいい情報で、自分自身、しばしば年齢はごまかしている。  事実、風俗店では年齢を聞かれないことが多くて、何度も会って初めて、「えっ、松沢さんはうちのお母さんと同い年なんだ」なんてことにもなる。

ということからするなら、「一部上場企業に勤めていること」よりも「自分と同じミュージシャンが好きであること」の方が彼女にとっては重要だし、客にとっても重要なものである。

ただし、広く風俗嬢に受ける属性がある。「有名であること」だ。「Jリーガーの××が来たよ」「お笑いタレントの××にフェラしちゃったよ」という話題はお店の同僚にしても、客にしても盛り上がる。「東大出身の一部上場企業の部長が来た」「ハーバード大学出身の外務省の官僚が来た」では盛り上がるまい。

そのような話題のためだけじゃなく、あるいは風俗嬢じゃなくても、有名人好きのコは多いものである。

※これは富士そばのサンプルなのですが、富士そばも値上げしました。この時はもうはがされてましたが、原料費と輸送費の値上がりが理由であると説明する張り紙が出てました。

 

 

テレビに出ているとモテるらしい

 

vivanon_sentence人を介してある漫画家と初めて会った時に、エロ話をしていたら、彼はムラムラしたようで、「したくなった」と言い出した。そこで私の案内で風俗店に行くことになった。

その道すがら、彼はこんなことを教えてくれた。

「1ヶ月くらい前に遊びに行った店で会ったコにメルアドを教えてあったんだけど、全然メールが送られてこない。そしたら、この間、ようやく来たんだよ。“また遊んでください”って」

これは営業メールではなく、デートの誘いだったそうだ。

「漫画家だとは教えてあったんだけど、彼女は僕のことは知らなくて、テレビを観ていたら、僕が出ていたので、メールをしたんだって」

詳しく説明すると誰だかわかってしまうが、彼は漫画好きなら知らない人はまずいないビッグネームで、テレビも時々出ており、羽振りがいいんである。

もちろん本人に魅力があって、ということもあるんだろうが、デートを誘ってきた直接のきっかけはテレビである。彼がテレビに出ていなければそれっきりだったに違いない。

私も深夜帯には出ているが、昼間の時間帯やゴールデンと深夜では印象がまったく違うし、私と彼では扱いも全然違い、そもそも収入も実績も知名度も全然違う。この差が、営業メールならもらえる私と、デートの誘いをしてもらえる彼との違いである。

まして、会うや否や「あっ、テレビでよく見る人だ」とわかるくらいの有名人ともなれば女のコのサービスも違ってくるってもんだし、キャバクラでも芸能人がキャバ嬢をお持ち帰りにする話をよく聞く。

※この時のことは「24時間営業の違法店舗型ヘルスに行った時の話—エロと照明[上]」を参照のこと。「明るみに出さない方がいいこともある—エロと照明[下]」の最後に、この時に接客したコから電話がかかってきたように書いてますが、これは私の記憶違いかと思います。今回書いているように、「前にそういうことがあった」というのが正しそう。

 

 

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