松沢呉一のビバノン・ライフ

在キエフのパルホメンコ・ボグダンさんが語るウクライナとロシア、そして日本-(松沢呉一)

ロシア戦車部隊の指揮官死亡のお知らせやジンジャーのウクライナ支援Tシャツ発売のお知らせ、など—ここまでの補足や追加」の続きです。

 

 

ボグダンさんが語るキエフのリアリティ、ロシアのリアリティ

 

vivanon_sentence毎日のように、日本のテレビ番組に出演しているウクライナ人のパルホメンコ・ボグダンさんは、毎度的確なレポートをキエフから送り続けてくれています。よくもあの状況でああも冷静沈着でいられるものだと感心しないではいられない。

とくに昨日のレポートでは大事なことがいっぱい語られていましたので紹介しておきます(昨日書いたまま、出しそびれていたものです。時制は昨日のままになってますので、「昨日」とあるのは一昨日です)。

 

 

 

ロシア軍はキエフから15キロの地点まで迫っていながら、ウクライナ軍はこの前日も撃退。これはロシアの戦車部隊指揮官が戦死した衝突の翌日のことと思われます。

キエフの人たちはいくらかの安寧を得られたわけですが、「ウクライナ二題—プッシー・ライオットのナディアが呼びかけたウクライナへの寄付/続・ロシア兵の死者数」で説明したように、ロシア軍は第二次世界大戦時の赤軍と大差ないと思われます。赤軍はドイツ軍の5倍近い戦死者を出しながらも勝ちました。

「どれだけ自国兵が死んでも勝てばいい」という戦法をプーチンは維持しているとしか思えず、圧倒的にウクライナ軍より強いと思われていたロシア軍が攻めあぐねているのも、この戦法があるかではなかろうか。ひたすら死にゆく人員をつぎ込んでキエフを陥落させればいいと考えているため、緻密な作戦を立てることもないし、丁寧なシミュレーションをすることもない。

この戦法においては、原発を爆破させることも有意義です。放射性物質が漏れてその場にいるロシア兵はもちろん、自国民が1億人くらい死んでも、ウクライナが降伏して支配できさえすればいいわけです。「自国兵も被害に遭う」と考えて使いにくい生物兵器も化学兵器もロシア軍は使える。

 

 

ソ連は今もプーチンの頭の中に生きている

 

vivanon_sentenceプーチンはサイコパスだ、強迫性障害だといった説が出ていて、それぞれあり得るとは思いますが、ソ連がやってきたことを忠実に引き継いでいるだけと考えるのがもっともスムーズかとも思います。

「ロシアはウクライナを攻撃していない」という嘘について、ボグダンさんは「ロシアは30年間ずっとそういうことをやっていた。ソ連の悪いところを引き継いだ」と言っていて、領土が少なくなっただけで「ロシア=ソ連」であり、だからその領土をどんな汚い手を使ってでも奪い返そうとしていますし、ポーランドであれ、チェコであれ、バルト三国であれ、かつて支配下にあった国々を再度支配下に置きたい。

「プーチンの考えていること、主張していることはソ連時代のまま」というのが今回の戦争を理解するキーだろうと思います。

現代のヒトラーとしか思えないプーチンが、ウクライナをネオナチ国家だとするのも、脱ナチしなければならないとして侵攻するのもすべてソ連時代の論理です。

この辺については「ビバノン」では、ベルント・ジーグラー著『いま、なぜネオナチか?』を元に、東ドイツで戦後ナチスはどう説明されてきたのを見てきました。それこそがドイツのネオナチを生み出していき、いまなおドイツに影を落とし、ネオナチの拠点は旧東ドイツの都市です。

 

 

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