松沢呉一のビバノン・ライフ

マリーナ・オヴシャンニコワさんの勇気ある決起に対して根拠なき陰謀論を語る人々—そんな可能性があるのかどうか考えてから発言しようぜよ-(松沢呉一)

なぜロシアの将官たちはそうも死ぬのか—名誉の死を利用して士気を上げることもできないロシアの現実」の続きです。

 

 

マリーナ・オヴシャンニコワさんのインタビュー

 

vivanon_sentence困ったな、このインタビュー。

 

 

せっかくマリナ・オヴシャニコワから、マリーナ・オヴシャンニコワに日本語表記を変更したのに、BBCの日本語版はどちらとも違ってマリナ・オフシャニコワです。英語経由なのでまた違う表記になったのか。まっ、どれでもいいってことで。困ったのはそこだけ。

マリーナ・オヴシャンニコワさんは違法デモへの参加呼びかけについては罰金刑になり、これからテレビ番組に乱入した方の裁判が始まります。

そうする必然性がないのに長期拘留が当たり前の日本からすると、懲役15年になるかもしれない重要犯罪の容疑者が、拘留されずに国外メディアの取材を受けているわけですから、「ロシアって寛大じゃな」と思ってしまいますが、日本がおかしいので誤解のないように。

第二弾、第三弾があるのかもしれないですが、このインタビューの主題は「私についていろいろな陰謀論がたくさん積み上がっています」という現実に対して、「自発的に決めたことである」と確認をすることにあります。大半がそこに費やされています。

ひでえなあ。もっと話すべきことがあるだろうに、こんなことで時間を潰すしかなくなるんですから、陰謀論を軽率に口にする連中の罪は重い。裁判の内容に影響しかねないので、容疑に関わることについては軽々しく話せないってこともあるのでしょうけど、彼女はロシア政府に対峙するためにあの行為をやった結果、陰謀論者たちとも対峙しなければならなくなりました。

 

 

根拠のない思いつきを公然と語るな

 

vivanon_sentence一方では「ロシア側のやらせだ」という陰謀論があり、一方では「米国が背景にいる」という陰謀論があり、米ソを手玉にとる極悪二重スパイみたいな(笑)。

勇気をもって決起した彼女に対して、こういう陰謀論は失礼ですし、いくら自分で決断して行動しても、こんなことを言われるなら、あとに続かなくなります。

どういう推測にしても、公然と人の行為の背後関係を決めつけるのであれば根拠が必要だと思うのですよ。

たとえば私で言えば、彼女があの行動を起こした時にアナウンサーがまるで動じていなかったことから、アナウンサーは何があるかまではわかっていなくても、何かがあることは知っていたのではないか。そのことからあの番組のスタッフにも協力者がいるのではないかと思いました。しかし、それだけでは根拠が薄いので、「聞き流してくれていい」という程度のものと書き添えて、有料部分にこっそり書きました

そのことから「ロシアのやらせだ」というところまではさらにさらに飛躍があって、ロシア連邦保安庁(FSB)が関与してくるような話です。一部部署の決定ではなく、幹部には稟議書が回ってましょう。数十人が知っている。陰謀は多くの人が知れば知るほど情報が漏れるものですから、どっかから漏れた情報を根拠にして「やらせだ」と言っているんですかね。そういう根拠があるんだったら教えてけろ。

 

 

女は単独では何もできないという決めつけから脱すべし

 

vivanon_sentence取り調べでも彼女が自分の判断でやったことを信じてもらえなかったそうです。

取り調べではさまざまな可能性を潰していかなければならないので、次々と「こうか?」「これはどうだ?」と突きつけられるのはおかしなことではないですけど、それをひとつひとつ否定してもなお取調官は背後関係を疑っているだろうと思います。

つまりは「女が自分の判断だけでこんな大それたことをするはずがない」という思い込みです。女は誰かの意思があって初めて行動することができるお人形ってわけです。西ヨーロッパ諸国だと、警察とて、こんなゲスい発想はしないかもしれないですが、ロシアですから。

日本でも、「私は私の意思でセックスワークをしています」と言うと、「そう思わされているだけだ」「社会に強いられているのだ」と言い出すのがいるのと同じ。それを自称フェミニストまでがやる。その決めつけが女という属性総体を貶めていることにも気づけないアホっぷり。自分自身がそういう存在であることだけが根拠で他人の行動までを決めつけるのです。

こういうところは日本とロシアは同レベルですかね。

 

 

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