松沢呉一のビバノン・ライフ

ヨーロッパ各国は、そして日本はどうしてこうもウクライナ難民受け入れに積極的なのか—アフリカやアジアの難民との違い-(松沢呉一)

ウクライナ国防省がロシア連邦保安庁のスパイ620人分のリストを公開—ウクライナIT軍の仕業か?」の続きです。

 

 

 

キエフはキーウに

 

vivanon_sentence外務省が、ロシア語読みであるキエフをやめて、キーウとすると発表。

 

 

 

国名、地名、人名等をどう表記するのかは悩ましくて、原則、その言語でどう呼んでいるのかに合わせるのがいいとは言え、どのみち言語が違う以上、同じにはできず、たとえばウクライナだって、「ウクライーナ」がより近い。

とくにキエフのように長い長い間そう呼んできたものを変更するのは抵抗が生じます。ムソルグスキーの「展覧会の絵」内「キエフの大門」はこれからもキエフであり、「混乱を避ける」という意味では、キエフのままでいいという判断もあって、私自身、気になりつつも、キエフにしてきました。

チェルノブイリはソ連時代にできた原発であり、ソ連時代に事故を起こしているのですから、その時代の呼称としてはチェルノブイリですが、ウクライナ以降はチョルノービリとなります。複数の呼称が併用されるのは落ち着きが悪いですが、筋としては文脈に合わせて使い分けることになります。

上のプレスリリースでも、わざわざロシア批判を入れ込んでいて、無法な侵略者の呼称を使うのはウクライナに申し訳がないってことでしょうけど、今までそういう理由で日本語表記が変更された例ってあるんですかね。

ともあれ、これからはキーウという表記が一気に増えますから、私もそれに合わせます。

 

 

ウクライナ難民はこれまでの難民とどこが違うのか

 

vivanon_sentence歓迎すべきではありつつ、今まで難民や移民に厳しかった日本が、「今回なぜここまで」と思わないではいられない。

同様の疑問はヨーロッパ各地で出ていて、検索すると、いくらでも読むことができます。

一例として2022年3月25日付「ALJAZEERA」掲載「Why is Europe suddenly so interested in helping refugees?」を見てみましょう。筆者は英アストン大学の研究者であり難民に関する活動家でもあるキャロリーナ・アウガストヴァ。彼女はチェコ人です。

ウクライナ難民を手厚く保護することは当然であり、ヨーロッパの市民として誇らしく思いつつも、これまでさんざん難民が冷たい扱いを受けてきたことを知っているがために、「なぜ急に難民に関心を抱きだしたのか」を問う必要があるとしています。

ヨーロッパ全体の問題としているところもありますが、すでに限界と言っていいところまで受け入れてきた北欧諸国やドイツにとってウクライナ難民は「今までと同じ」ですから、この疑問はとくにここまで消極的だった国に向けられています。

ハンガリーを筆頭に難民の受け入れ拒否を打ち出している国もあって、ポーランドもそれに近かったはずです。昨年、ベラルーシとポーランドの間で難民の押し付け合いがありました。筆者によると、あの国境沿いでは、ウクライナ戦争が始まった2月にも寒さでイエメン人が亡くなっているそうです。「ウクライナ人とイエメン人はどうして扱いが違うのか」と言いたくもなりましょう。

ここには人種差別があるとします。人種差別と言ってしまっていいのかどうか私はわからないですが、そこに重なる感情が確実にあるでしょう。

その理由をもう少し丁寧に解析しておくと、今までさんざん書いていきたように、人は自分に近い存在に感情移入しやすいものです。顔が見えない存在より、見える存在を理解し、手を差し伸べます。

友人知人が飢えて死にそうだったら焼肉くらい食わせます。道端で知らない人が飢えて死にそうだったら、そこで出会ってしまったのが運命と思ってコンビニでパンとおにぎりくらいは買ってあげます。でも、行ったこともない国で餓死しそうな人がいると聞いても知らんです。

これを差別と言われてしまうと、国家も親族も友人もすべて解体する必要があって、今一緒に住んでいる家族や恋人と、会ったこともないし、存在さえ知らないブルキナファソ人とまったく同じ扱いができる人以外は差別者になります。そんなヤツ、いねえって。

どうしようもなくそういうものなのだから、近い存在にするために、日本にいる外国人たちとも顔を見て会話くらいはしておいた方がいいと私は思って実戦しているわけです。

 

 

next_vivanon

(残り 2089文字/全文: 3905文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ