松沢呉一のビバノン・ライフ

同意できる不買運動・同意できない不買運動—経済制裁に関する疑問[3]-(松沢呉一)

Airbnbの対策はプーチンに抵抗するロシア人をも敵視する結果にしかならない—経済制裁に関する疑問[2]」の続きです。

 

 

 

韓国や中国の日本商品不買運動はたいがい賛同できない

 

vivanon_sentenceこのシリーズは一気に書いて終わらせようと思っていたのですが、1回目も2回目もあんまり読む人がいなかったので放り投げてしまいました。書くのが面倒なわりに、どう奮闘しても答えは出ないだろうことが予想できます。面倒だわ、人気がないわ、答えが出ないわの三重苦。

でも、私が抱いている疑問点が今回、ロシアに対する姿勢の中でも多々見られるため、続きを書いておくことにしました。またすぐにやめるかもしれないし、一部は解決できるとしても、どのみち全体はクリアにはならないことをお断りします。

「スティーヴン・キングがロシアでの新規契約を停止」という報道を「メデューザ」で読んで考えた—経済制裁に関する疑問[1]」で、どこの国で本を出すのかは書き手の専権であり、他人がとやかく言うべきことではないと説明しました。

ロシアではもう出したくないとスティーヴン・キングが考えて実践することも、戦争はロシア政府の問題であり、自分の読者の問題ではないと考えて本を出し続けることもどちらも尊重されていい。

同じく「どの本を読むのか」は読者が決定してよく、内容ではなく、著者の国籍や政治的立場から、「それを読むな、こっちを読め」と指図されるべきではないでしょう。

その意味で、個人の判断に留まらない集団としての不買運動はしばしば私の性に合わず、同意できるのは一部です。たとえばある食品メーカーが有害な食品を販売し、それを反省することも、謝罪することもなく、よって再発防止策をとることもない時に、不買運動をするのは同意できて、私も参加することはあるでしょう。

中国や韓国の日本商品叩き総体にはとうてい同意できないですが、DHCが不買運動によって韓国から撤退し、これは珍しく私も肯定できる不買運動でした。社を代表する存在の発言は社全体の姿勢であり、それが個人領域ではなく、業務で行われた場合は不買運動で抗議する道理があります。

※2021年9月2日付「テレビ朝日」 DHCが韓国から撤退したことを伝える報道

 

 

日本商品は買わない、しかし、アニメや漫画は別という姿勢は矛盾か?

 

vivanon_sentence一方で、「鬼滅の刃」は韓国で大ヒット。はっきり「アニメや漫画は不買対象ではない」と言っているユーザーもいて、「何を自分勝手な」ということでもありますが、私は「DHCの商品は買わない。しかし、アニメは観るし、漫画は買う」という姿勢に賛成です。私もそうすることはありそうです。

これまでにも何度か書いていますが(「「憎悪の連鎖は止められるのか?—高橋源一郎の提言[下]」「ディズニー映画「ムーラン」が話題になることを嫌う中国政府のために「ムーラン」を話題にする」)、表現物の不買は多くの場合うまくいかない。

不買運動の話題で知った人が興味をもってしまうことを止められず、面白かったら人に伝えないではいられないってもんです。それが表現の力。

 

 

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