松沢呉一のビバノン・ライフ

Airbnbの対策はプーチンに抵抗するロシア人をも敵視する結果にしかならない—経済制裁に関する疑問[2]-(松沢呉一)

「スティーヴン・キングがロシアでの新規契約を停止」という報道を「メデューザ」で読んで考えた—経済制裁に関する疑問[1]」の続きです。

 

 

表現物は特別か?

 

vivanon_sentence前回の話はわかりやすかったかと思います。作家が抗議のために「ロシアで本を出さない」と決断をするのも、「読者に罪はない」として出し続けるのも、どちらが正しいのか、決定づける根拠がない以上、それぞれの作家が判断すればいい。これに対して一律に「こうすべし」と判断を強いることはできない。ということです。

しかし、よーく考えると、「なんで表現物だけが特別なのか」という疑問が湧いてきます。経済制裁一般に言えることでもあるのです。

「戦争をやったのはプーチンであり、マクドナルドの利用者は関係がないのだし、ユニクロの利用者も関係がない」と言えます。

言語的ではないにしても、商品には思想が込められています。日本人にとって、フォードもマクドナルドもコカ・コーラも、ハリウッド映画同様に米国の文化であり、思想であり、米国のイメージ形成に大いに関与しています。

ロシアでこそ、その意味合いは強いかもしれない。

それらの商品を買う人たちは米国に好感を抱いている人たちが多いし、愛用することで好感を抱くこともあるのに、それをあっさり引っ込めていいのか?

といったように、「表現物に適用される論理は他のものにも適用されるだろ」という点があって、表現物に倣うなら、一律で経済制裁をするのは間違いと思えます。

その一方、「この戦争はプーチンの戦争であって、国民は関係がない。だから、売り続けていいのだ」という論理に対して、「いやいや、国民の大半は支持しているのであって、プーチン一人でやっているのではない」との気持ちもあります。正確な情報がないためであろうとも、プーチンを8割が支持しているロシアがやっている戦争はロシアの戦争であり、ロシア国民全体の責任ではないか。

どっちにも正しさはあって、そう考えると、経済制裁するかしないかも、企業の判断に委ねられるべきであり、今まで同様の経済活動をする企業があっても批判すべきではないのでは?

※2022年3月1日付「CNN」 ディズニーはロシアでの劇場公開を一時停止。ほとんど同時期にソニーとワーナーも同趣旨の発表をし、Netflixも事業を一時停止。どうなんだべなあ。こうなると、ロシア人はロシア映画を観ることになって、今までより国内で金が回る上に、ロシア思想が強固になるだけでは?

 

 

Airbnbのロシア人に対する制裁はどうなんか

 

vivanon_sentenceでは、これも具体例を見てみましょう。

ブチャ虐殺の発覚によって、各国の経済制裁が強化され、企業もさらにロシアからの撤退が進んでおります。

先月から、ロシアとベラルーシでの事業を停止していたAirbnbも、4月4日から新しい制裁をスタートさせてます。ロシアとベラルーシで宿を使うことができなくなっていたのに加えて、世界中どこでもロシア人とベラルーシ人は利用ができなくなり、予約していた分もキャンセルとなりました(Airbnbロシアのサイト)。

ちょっと待て。日本でも、ロシア国籍を持っている人たちが、プーチンを批判し、戦争に反対する意思表示をしています。その中には帰化することを決定した人もいますけど、そう決めてすぐに国籍を変更できるわけではなく、彼らも日本で、あるいは他の国でAirbnbを使えなくなります。

観光で利用している人たちが利用できなくなるのはまだしもとして、おそらくは10万人を超えるロシア人が国を出て、トルコやジョージア、フィンランド、イスラエル等に逃れています。その地で定住することを決めた人たちは長期用の物件を探すとして、そうじゃなければホテルやAirbnbを利用しているはず。

 

 

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