松沢呉一のビバノン・ライフ

銭湯で働き出して、気にするようになったこと—汚れた銭湯に客が来ないのは当然だけれど、流行らない銭湯がきれいに維持するのは難しい-(松沢呉一)

全然たいしたことのない話ですが、清掃のバイトを始めてからの自分の変化を書き留めておきます。

 

 

記憶のない銭湯は初めて入るのと一緒

 

vivanon_sentence先々週のこと。

たまーに行く銭湯に向かっていたのですが、わかり切った道を歩くと退屈するので、脇道に入ったら、別の銭湯の前に出ました。古い木造銭湯です。

銭湯巡りを始めて間もない頃に来たはずですが、まるで記憶がありません。住民しか通らない裏道なので、数年前に来て以来、この道自体、通ったことがなかったんだと思います。

こうなると、行ったことのない銭湯に等しく、この機会を逃すと、二度と来ないようにも思えて、今日のところはこっちに入っておくことにしました。

中に入っても思い出せませんでした。外も中も、これといった特徴がないのです。あえて言うなら、桶が木製です。木桶の銭湯は30軒に1軒くらいしかないでしょう。木桶がきれいに積まれている光景が好きではあるのですが、それだけでその銭湯のことを記憶することはありません。

もうひとつの特徴は無料サウナがあることです。サウナと言っても、電気ストーブみたいなのが壁についているだけの簡素なものです。入ってはみましたけど、そんなに熱くもなくて、すぐに出ました。

建物内も典型的な木造様式で、大きな改装をしておらず、定番通り、壁には富士山のペンキ絵があって、平成23年の日付です。11年も前ですから、あちこち剥げてます。ペンキ絵は銭湯が流行っていた時代の装飾であることがよくわかります。余裕がなくなって書き換えの頻度が落ちると、凋落を強調するものでしかなくなります。

※写真は本文と関係ありません。この写真の小松湯は北池袋にあって、私の好きな銭湯のひとつです。天井は低めですが、横幅がえれえ広いのが特徴です。カランが50くらいありそうなので、清掃が大変ですが、きれいにしていて、客も多い。1ヶ月ほど前に行った時に撮りました。

 

 

掃除をおろそかにしている銭湯は人が寄り付かないが、私はまた行きたくなる

 

vivanon_sentence清掃のバイトを始めてから、よその銭湯に行っても汚れが気になるようになって、とくにこの銭湯は汚れがひどい。浴槽もカラン周りも。

浴槽とカラン周りと排水溝が銭湯の「汚れやすいポイント」です。排水溝は髪の毛が溜まるのですが、その点はとくにひどくない。排水溝だけ掃除しているのか。

開店前に清掃していても、営業が終わる頃には汚れていて、だから毎日清掃した方がいいのではありますが、この時は午後6時台でしたから、まだそうは汚れがついていない時間帯です。ああも汚れていたのを見ると、1日どころか、何日も掃除をしていないのだと思います。

この日、私が行こうとしていた銭湯はきれいに清掃しているので、この近所の人たちで汚れを気にするタイプはあっちに行くでしょう。

 

 

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