松沢呉一のビバノン・ライフ

味方かもしれないロシア人をも敵に回す経済制裁—経済制裁に関する疑問[4]-(松沢呉一)

同意できる不買運動・同意できない不買運動—経済制裁に関する疑問[3]」の続きです。

 

 

シャネルのバッグを切り刻むロシア人たち

 

vivanon_sentence以下の動画を見て、「くだらない女たちだな」と思いつつも。「同時にくだらないのはシャネルなのではないか、あるいは経済制裁そのものなのではないか」と思いました。

 

 

「スティーヴン・キングがロシアでの新規契約を停止」という報道を「メデューザ」で読んで考えた—経済制裁に関する疑問[1]」にスティーヴン・キングの読者の中には、本来味方になるべき人たちが含まれているかもしれないのに、それをまとめてロシア人として扱って、新作を読めなくすることで敵意を向け、向こうもその敵意に合わせて敵意を返してくるかもしれないと書きました。

この動画に出ている人たちも、もとはと言えばシャネルが好きだったわけです。シャネルをロシア国内で買えなくなるとともに、国外で買ってもロシア国内では身につけないという誓約書にサインさせられる。おせっかいにもほどがあります。どこで使おうが買った側の自由でしょうに。

そんなことは不可能ですけど、一人一人と話をして、説明をすれば理解をしてくれたかもしれない人たちを敵にしてしまいました。

ウクライナ人にはロシア語も話す人が多いのですが、今回のことでロシア語は二度と話さないと誓っている人、「聞きたくもない」と言っている人たちが多くいます。言葉まで嫌いにならなくてもよさそうですが、「坊主憎けりゃ」です。

逆もまた真であり、シャネルを筆頭とした経済制裁でプーチン支持になってしまった人もいそうです。無闇な経済制裁は敵を増やしかねない。

 

 

コミュニケーションの場を奪った

 

vivanon_sentence続いてこれを見てください。

 

TVレインですロシア語ではТелеканал Дождь。雨の意味のДождьは「ドジジ」「ドジド」と読むのが順当かと思いますが、実際の発音は「ダーズ」と言っているように聞こえます。ここでは「レイン」に統一しておきます)の元スタッフであるヴァシリー・ポロンスキーさんが、マクドナルドはコミュニケーションの場であり、それが断たれてしまったと言ってます。マクドナルドを愛用する人たちは、世間一般よりも、プーチンを支持する率はおそらく低い。都市部の人たちであり、若い世代が中心ですから、それだけでもプーチン支持は落ちる上に、意識が外に開かれている人の率が高いと思います。「戦争反対」のプラカードを出した人たちのマクドナルド利用率は高そうです。

Airbnbの対策はプーチンに抵抗するロシア人をも敵視する結果にしかならない—経済制裁に関する疑問[2]」で指摘したように、Airbnbのやっていることは、ロシアに批判的、プーチンに批判的で、国外に逃げた人たちこそを狙い撃ちにします。あそこまで露骨ではないにせよ、マクドナルドを閉じたことは、ロシア政府にとっては面倒な層の活動を破壊することになったのではないか。

 

 

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