邪魔者は消せばいい、目的のためには自国民をも殺せばいい—犯罪組織FSB(ロシア連邦保安局)[下]-(松沢呉一)
「放射性物質で暗殺された元FSB職員—犯罪組織FSB(ロシア連邦保安局)[上]」の続きです。
ミハイル・トレパシュキンの場合
FSBは多額の予算を持つ巨大な組織であり、それが組織的に犯罪をやり、都合の悪い存在を殺していくことに疑問を抱く職員は自ら辞めていくことになりますが、稀にはリトヴィネンコのように告発するのがいます。
前回取り上げたアレクサンドル・リトヴィネンコの直前にFSBを告発したのがミハイル・トレパシュキンです。リトヴィネンコはトレパシュキンの殺害を上司から命じられていますが、拒否しています。まともな人間もたまにはいて、そういう人間は消されます。
トレパシュキンは、1984年、まだKGBだった時代に働き出します。1997年、彼はFSB内部の腐敗を当時のエリツィン大統領に告発しますが、エリツィンは動かず。これをきっかけにFSBを退職し、弁護士としてプーチン政権との闘いをスタート。彼は高層アパート連続爆破事件の真相解明に取り組みます。
その結果、彼は国家機密を明らかにした罪で逮捕され、2003年に4年の実刑判決を受けます。彼は喘息等の持病がありましたが、治療を受けることもできず。2年で釈放されますが、すぐさま再逮捕。2007年に釈放。以降も闘いを続けています。
今回のウクライナ戦争を契機に、トレパシュキンにインタビューをした番組がありました。
「トレパシキン」になってますが、日本語表記は「トレパシュキン」が一般的です。「シュ」は母音なしのшです。шは反り舌のシャ行で、どちらにも聞こえますが、「シュ」の方が適切かと思いますので、「トレパシュキン」とします。
トレパシュキンさんはブーチン暗殺は起きにくいと指摘しています。私と同じ考え。一切起きないとまでは言えないですが、計画性のあるクーデターのようなものは起きにくい構造です。次から次とクーデターと暗殺の計画が浮上していたナチス・ドイツとまるで違う。この辺の仕組みをよくわかっていない人は「ロシアの戦艦が沈没。それでも戦争は続く—「どうしたら終わるのか」と銭湯で言っていたじいちゃんに回答する」を読んでおいてちょ。
子ども騙しにもほどがあるFSBのごまかし
最後に出てくる「白い砂糖」という話がイマイチわかりにくいですが、リャザン事件のことです。爆発事件が続くさなかに、リャザン州の州都であるリャザンで怪しい男たちがいることを住民が見つけます。男らはモスクワ・ナンバーの車に乗り、ナンバーの下2桁を隠していて、何かを建物に地下に運び込んでました。住民は警察に通報しますが、男たちはすでに去っていて、地下室に運び込んでいた爆発物を押収。
これで大騒ぎとなって、近隣の人たちは避難。
この爆発物にはFSBが所有するはずの爆薬RDXが使用されていました。この爆薬はロシアではひとつの工場でしか製造されておらず、入手が難しい。
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