いまなお評価が割れるウクライナの愛国者—ステパーン・バンデーラからアゾフ連隊へ[4](最終回)-(松沢呉一)
「ウクライナ人が数万人のポーランド人を虐殺—ステパーン・バンデーラからアゾフ連隊へ[3]」の続きです。
まっぷたつに割れるバンデーラの評価
「メデューザ」掲載「バンデーラからアゾフへ」によると、現在のウクライナにおけるステパーン・バンデーラの評価は両極に分かれていて、ほとんど拮抗。2018年の世論調査では、36パーセントが肯定的、34パーセントが否定的だそうです。
これはどこを見るかの違いで、肯定派は、ウクライナ独立運動の闘志として評価し、否定派はナチスドイツの支持者であった時期をとらえ、また、ポーランド人虐殺を担った人物として嫌悪します。
たしかに彼は一時的にナチスドイツを味方であると錯覚していますが、ナチスに従わない者として強制収容所にいた時期が長かったのですから、ただ彼をナチスに連帯したシンパとしてとらえるのは間違いかと思います。一度でも手を握ったらその事実は消えないとして批判し続けることが適切であるなら、独ソ不可侵条約でナチスドイツと手を組んでポーランドを蹂躙したソビエトも未来永劫批判されるべきです。
OUN-Bによるポーランド人の虐殺については、もちろん批判されてしかるべきであり、自身はザクセンハウゼン強制収容所にいて関与しておらず、収容所内では情報も得られず、命令も出せなかったのではないかと思われますが、リーダーとしての責任はありましょうし、バンデーラの思想から必然的に導き出されたものとの指摘もあります。
※ステパーン・バンデーラについての本はウクライナで多数出されています。わざわざ本にしようとする人は大半が肯定論者でしょうけど、なんか一冊読んでみたい。
記録がないが故の揺れ幅
おそらくナチスドイツを救世主だと錯覚していた時期のことかと思われるのですが、彼はユダヤ人を民族浄化の対象として考えていたようです。これは「ロシア革命はユダヤ人が起こした」「ボルシェビキはユダヤである」というナチスの論(ナチスだけではないですが)を踏まえてのものでしょう。
ソビエトに対する強い嫌悪感からあっさり受け入れてしまい、かつ、ナチスドイツを受け入れる際の迎合としてそこまでを肯定したのでしょうが、UVO-Bの参加者にはユダヤ人が多く、かつ、パスポートの偽造によってユダヤ人を救済していた事実もあるらしい。
もともとUVOはイタリア・ファシズムがルーツっぽいので、ウクライナ自立という意味での民族主義は強くても、ナチス的な優生思想とそれに基づく民族浄化のような考え方は薄かったのではないかとも思えて、この辺はよくわからず、パンデーラの思想を確認しないと結論は出せそうにありません。
ただ、パンデーラの思想と照らし合わせること自体が難しいようなのです。パンデーラの活動の多くは非合法活動だったため、自身の名前を冠して発表した文書はあまりないそうです。
それをいいことに、否定派は最大限OUN-Bの活動のナチス寄りの部分をパンデーラの思想とし、肯定派はそこを断ち切って、パンデーラとは関係がないとする傾向があると指摘している人がネットにいました。中立派に属する人だと思いますが、ウクライナ人の研究者が、どっちの側も誇張がなされていると指摘しています。どちらにでも転び得るのです。
※こちらのページからお借りしました。ウクライナ各地に存在するステパーン・バンデーラのモニュメントを集めたページです。せっかくKGBが得意の暗殺で消したのに、ウクライナ人は英雄として讃えているのですから、現ロシアとしても気に食わないでしょうね。気に食わないのは、ナチスを肯定したことではなくて、ソ連に従わなかったことです。自分たちの思い通りにならないウクライナ人は全部敵、全部消していいと考えるのがロシア。どんだけ身勝手。
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