松沢呉一のビバノン・ライフ

ロシアから脱出した人々を取材する、ロシアから脱出したリノール・ゴラリック—プッシー・ライオットのマリアも遂に国外脱出-(松沢呉一)

戦勝記念日の翌日にノグ・スヴェロ!が公開したMVの衝撃—「戦争をやめて家に帰れ」とロシアの兵士たちに呼びかけ」の続きです。

 

 

オンラインマガジン「ROAR」

 

vivanon_sentence1週間ほど前に、イスラエルで反戦のオンラインマガジン「ROAR」を発行したリノール・ゴラリックという作家のインタビューを「メデューザ」で読みました。

「ROAR」というタイトルで以前から出ているオンラインマガジンがありますが、新しい「ROAR」はこちら。でも、うちのパソコンからは開けず、スマホでもなぜか開けないです。DDoS攻撃をされていると言っているので、そのせいか?

リノール・ゴラリックさんは当時はロシアだったウクライナで1975年に生まれたユダヤ人です。イスラエルの大学に進み、卒業後はモスクワで作家活動をしていましたが、現在は在イスラエルのようです(ウクライナ侵攻で移住したのではなく、その前からだと思われます)。

よって母語はロシア語で、「ROAR」もロシア語話者130人による表現を集めています。

戦争が始まって、彼女は自分に何ができるのかを自問し、ウクライナ人の友人にも「何をしたらいいのか」を聞きます。ウクライナに送金するのがもっとも有効なのだけれど、表現によって少し楽になる人がいる。だったら、そのプラットホームを作ろうと考えます。

その過程で彼女は、戦争は創作の動機を与えることに気づきます。今まで書いたことのない詩を書く人、今まで描いたことのないイラストを描く人がいる。その人たちは、戦争が終わったら継続しないかもしれない。それでもいい。表現は受け取る人を楽にするだけじゃなく、発信する人も楽にします。

しかし、彼女はいまだ戦争については何も書けないと言っています。他の人の表現物を受け取るだけ。

Facebookの自分のアカウントで「メデューザ」掲載のインタビューを紹介した投稿

 

 

見えない脱出者

 

vivanon_sentenceという「ROAR」の話も感じ入るところがさまざまあったのですが、彼女がもうひとつ進めているプロジェクトに一層興味を抱きました。

どういう契機で彼女がロシアを出たのかわからないですが、彼女はロシアのLGBTに対する姿勢を批判しているので、ソチオリンピックの際に法改正されたあたりかもしれない。その立場から、今回ロシアを出た人々にインタビューをしています。イスラエルにも多数ロシア人が移住しています。

私だって気づいているくらいで、当然彼女は気づいているでしょうけど、「ロシアでは何も言えない」としてロシアを出た人が自由に発言できるようになるかと言えばそんなことはありません。言いたいことを言えるようになるロシア人がいる一方で、デモにも出ない。SNSもやらない。見えない存在になってしまうロシア人たちも多いはずです。

ナチ党が政権をとって、ユダヤ人たちはだんだん居心地が悪くなっていき、少しずつ国外に脱出するのが出てきます。しかし、ベルリン・オリンピックを前にして、ユダヤ人迫害はゆるめられます。オリンピックまでは国外からの批判を避けたかったからです。それによって、ドイツに戻るユダヤ人たちが多数いました。その結果、収容所送りになった人たちも少なくない。

 

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