ウクライナの義勇兵になろうとして捕まったロシア人青年—全体主義体制における賢い生き方[2]-(松沢呉一)
「「ロシア国民は政府に騙されている」は半分正しくて半分間違っている—全体主義体制における賢い生き方[1]」の続きです。
テレビを観ないとこんな失敗をしでかすという教訓
プッシー・ライオットのナディアとマリアが創設したウェブ・ニュース「メディア・ゾーン」に面白い記事が出てました。
2022年5月11日付け「Медиазоне」
アニメやゲームが好きな20歳のロシア青年マキシム・ドミトリエンコがウクライナの義勇兵になるためにウクライナ国境を越えようとしたところで逮捕されたというお話。
これは4月19日にRT系のメディア(つまりは政府系)の「RIAノーボスチ(РИА Новости)」に出ていた記事をさらに掘り下げたものです。
彼が逮捕されたのは3月のことです。すぐに情報が公開されなかったのは真似をするのが出てくることを恐れたためでしょう。
「RIAノーボスチ」の記事は、特別軍事作戦は虐待されるロシア系住民を救うためのものであるとの建前を説明しつつ、「インターネットばかり見ているとこうなるぞ」と脅すような内容にして、報じたものであることがわかります。
「メディア・ゾーン」も彼の行動を肯定しているわけではないですが、詳しいプロフィールや周辺の人たちの取材を通して、もう少し彼の行動が理解しやすくなっています。
なぜスマホを持っているのに、テレビの情報だけを信じるロシア人が多いのか
自動翻訳なので、誤読している可能性がありますが、内容はざっと以下の通り。
マキシムはチュメニ(Тюмень)在住の20歳。小さい頃に生き別れになってますが、彼の父親はウクライナ人です。
彼はフランス外人部隊に所属していたことがあるそうで、銃も扱えるのでしょうから、戦う気満々だし、ウクライナ軍も受け入れてくれたのではなかろうか。義勇兵はたしか軍隊経験者であることが条件だったはずです。一から教えている余裕はないでしょう。
また、ロシア人が国境を越えて義勇兵として参加したというエピソードは、ウクライナにとっては使えますので、厳重な審査をしつつ参加させそうです。あるいはロシア自由軍に配属か。
彼は決意する過程で、オンラインゲームで知り合った日本人の意見を聞いたりもしています。はっきりとは書いていないですが、おそらくこの日本人はウクライナ軍に参加することを肯定したのではなかろうか。
それに対して彼の祖母や母はテレビで言っていることを鵜呑みにしてまるで噛み合わなかったそうです。よく聞く話です。日本にいるロシア人も、実家の親と電話すと、プーチンの主張を信じていて話にならず、喧嘩になったと嘆いている人たちがいます。
こういう話を聞くと、「ロシアではインターネットにアクセスができない人が多いのだろう。とくに年配の人や田舎の人」と思ってしまいましょうが、電話に出る時、あっちもたいていはスマホだと思います。中には固定電話の人もいるでしょうけど。つまり、インターネットにアクセスできる環境にあるのです。
※2022年4月19日付「РИА Новости」
(残り 892文字/全文: 2221文字)
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