松沢呉一のビバノン・ライフ

沈没した巡洋艦モスクワに乗っていたはずのロシア兵多数が行方不明に—おそらく海の底-(松沢呉一)

 

 

ウクライナ侵攻開始時のロシア軍の戦力は3分の1が失われた

 

vivanon_sentence英国防省が「ロシア軍はウクライナ侵攻開始時の地上戦力の3分の1を失った」と発表したことがいろんなところで取り上げられていますが、その元になった数字や計算が発表されていません。

正確な数字に基づいた精緻な計算をせず、「だいたいこんくらい」というアバウトな計算でも出せるようなものではあります。私でもできるのでやってみましょう。

兵士の数で見ると、侵攻開始時のロシア軍は19万人とされています。ウクライナ軍発表の数字は若干上乗せされているかもしれないので、15,000人から20,000人くらいが死んでいるとします。その2倍から3倍くらいが復帰不能の負傷者と捕虜でしょうから、ざっと3分の1になります。計算終わり。

兵士一般の「使い物にならない率」が3分の1だとして、将官の死亡率は半数に近いのですから、どんだけ位の高い人たちがようけ死んでいるのかって話。末端の兵士が使い捨てられていくのが戦争というものですが、ロシア軍は上から率先して死んでいく偉い軍隊です。プーチンも死ねよ(ウクライナ軍が狙い撃ちにしたためであって、ロシアの偉さと関係ないことは言うまでもないですが、念のため)。

このざっくりとした計算では見えてこないところで、復帰できない兵士がたくさんいそうです。骨折したり、腕や足に銃弾が当たったくらいだったら、3ヶ月程度で復帰できるでしょうけど、ロシア兵の復帰可能率は低いはず。もともと「演習だ」と騙されてウクライナに連れて行かれたのが多いため、そこで負傷しただけでもう二度と戦地には戻りたくなくなります。

※ウクライナカラーになっている英国防省のTwitterアカウント。このアカウントも「3分の1が失われた」とツイートしていますが、詳細な数字は不明。

 

巡洋艦「モスクワ」沈没にともなって何人の兵士が死んだのか

 

vivanon_sentence4月13日に沈没した黒海艦隊の巡洋艦モスクワではいったい何人が戦死したのか今なおはっきりしない。ロシア政府は1名が亡くなったことしか認めておらず。この1名はアントン・クプリン大佐のことで、艦長だけが死んだはずもない。

噓とごまかしにまみれたロシアでさえも、火災が起きて弾薬に引火して爆発を起こして沈没したことまでは認めていて、27人が行方不明になっていることも認めています。

この状態ではウクライナとしても、死亡者1名しかカウントできないですけど、実際には三桁が死んでいる可能性があることはすでに述べた通りです。

「モスクワ」には最大700人近く乗ることができますが、実際に乗船していたのは510人。ネプチューンの攻撃を受けた4月13日の2日後に、ロシア支配のセヴァストポリで、沈没した「モスクワ」の送別式が執り行われています。

ロシア海軍の退役軍人や「モスクワ」に乗っていた兵士らが参列しているのですが、公開された映像をカウントしたところ、「モスクワ」に乗っていた兵士は240人しか出席していなかったことから、270人が死亡か行方不明、または負傷したという計算もなされています。大量に風邪をひいたのかもしれんけど。

いずれにせよ、死亡1名なんてことはありそうにない。ロシア国内ではそこに疑問を抱くことも難しいわけですが、これを追及し続けている人たちがいます。兵士の家族たちです。

※2022年4月16日付「COVERT SHORES」 乗務員の半数が死亡または負傷したと推測する記事

 

 

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