松沢呉一のビバノン・ライフ

全体主義国家で抵抗する人々の傾向—ナワルニーは懲役9年-(松沢呉一)

 

ナワルニーは9年の懲役刑

 

vivanon_sentenceウイグルに関する数万点(細かく言えば数十万点)の内部資料がハッキングによって明るみに出たことに驚きました。

噓と人権侵害で成立するもうひとつの巨大全体主義国家の実情が証拠とともに明らかにされた意義は大きい。証言は十分にあっても、文書や写真が少なく、そこが中国擁護の人たちのよりどころでした。「証拠がないのでなんとも言えない」と。

今回公開された資料は個人データが大量に含まれているので、生還した証言者の裏とりができるかもしれない。ごまかしはもう終わりにしたい。

中国人もロックダウンで餓死しかねない状況になるとさすがに声を上げ、行政を批判します。黙っていたら損だからです。しかし、ウイグルでどれだけの人が人権を侵害され、果てに殺されようとも自分に損はないので知ったことではない。ロシア同様、国民が支える全体主義国家です。

では、ロシアの続き。すでに収監中のアレクセイ・ナワルニーの裁判で、懲役9年が決定。ここまでの分が引かれて、今後8年収監されるようです。

 

2022年5月24日付「メディアゾーン

 

法廷の侮辱罪と寄付を集めたことが詐欺罪だとよ。それでもナワルニーは、法廷で「プーチンほど多くのロシア人を殺した人はいない」とウクライナ侵攻を批判する「反戦演説」を展開。これでまた懲役が追加されるかもしれないけれど。

大量殺人犯プーチンの言いなりの裁判所の現実を知った時に、大半のロシア人は「おとなしくしてよう」と思い、思考停止を強化します。それが損をしない選択です。

しかし、圧倒的少数ながら、もはや法や裁判には意味がないことを悟って、違法なプロテストに踏み出す人たちがいます。プラカードを手にして立つと捕まるので、路上にビラやポスターを貼る。これもたまに捕まってますが。

反戦運動はすべてが違法ですから、何をやっても捕まる。だったら、より過激なことを選択する。一連の火炎瓶闘争はそういうことなのだろうと思います。

また。法や裁判の権威が地に落ちている以上、逮捕されることこそが正しさの証明だととらえる人たちも出てきます。

以前から言っているように、ナチスドイツでは、あれだけ法の厳罰化を進めたのに、青少年も大人も不良化していった理由は、これなのだと思います。納得できない厳罰化はかえって法の力を失わせます。

なんでもかんでも法で規制すれば世の中がよくなると考える人々の決定的な間違いはここにあります。

※2022年3月25日付「Новостей」 侵攻が始まった直後、サンクトペルブルグでは、フェミニストグルーブが反戦のポスターを各所に貼っていたとのこと

 

 

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