ロシアが前倒しにした人類滅亡のスケジュール—ウクライナ戦争と食糧危機と気候変動[下]-(松沢呉一)
「地球温暖化によってロシアは得をする」と信じているロシア人たち—ウクライナ戦争と食糧危機と気候変動[上]」の続きです。
世界16億人が、ウクライナ戦争によって影響を受けている
ロシアが自国とウクライナの小麦を人質にとる形で、経済制裁を緩和させようとしていることによって、食糧危機が高まっています。
今月8日に発表された国連の報告書「ウクライナ戦争の影響。数十億人が1世代における最大の生活費危機に直面(Global impact of the war in Ukraine: Billions of people face the greatest cost-of-living crisis in a generation)」によると、世界16億人が、ウクライナ戦争によって危機に瀕しています。
これは食糧だけでなく、エネルギー、経済を含めてのことですが、これらは密接に関係しており、食糧価格の上昇によって、貧国国においては経済的困窮が強まっています。うち12億人がこの3つの要因すべてにおいて脆弱である「最悪の状況」にあるとしています(正確に言うと、この「ウクライナ戦争の影響(Global impact of the war in Ukraine)」という報告書は第一弾が4月に発表されていて、今回は第二弾。この3つの要因については第一弾で発表されていた内容)
自国民が死ぬのだってへっちゃらなのがプーチンですから、アフリカやアジアでどんだけ人が死のうと平気でしょうが、国連貿易開発会議(UNCTAD)は「現在の食糧危機は、2023年に世界規模の食糧大惨事に急速に変わる可能性がある」と警告しており、早急な対策をとらないと、さらなる食糧危機の時代に突入します。
視点を拡大しない限り気候変動の改善はうまくいかない
これに対して、「日本には米があるから大丈夫」と言っている人たちがいます。消費量が落ち続けているとは言え、今なお日本は小麦より米であり、その米は自給できており、備蓄もあるので、すぐに日本でバタバタと人が飢えて死ぬことはたしかに考えにくい。しかし、「米が主食の日本は安心」とする発想は「地球温暖化によってロシアは得をする」と信じるロシア人と一緒。
そもそも餓死するのは貧困な国々の貧困な人々だったり、難民だったりであって、誰も日本が飢餓の危機だなんてことは言っていない。先進国はどうやったって、金で食い物を確保できます。
対して発展途上国では人口抑制が進まず、農作物も十分ではなく、戦火も止まず、先進国の補助がないと飢えて死ぬ状態だったのが、豊かな農業国のウクライナの穀物が外に出なくなった途端に危機が強化されている構図ですから、もっぱら餓死はそういった国々に集中します。
日本であれば700円のラーメンを1割値上げすることで解消が可能ですが、その時、難民は1割が餓死します。
しかし、小麦やトウモロコシだけでなく、肥料も高騰しているので、今後、先進国を含めたあらゆる農作物が影響を受け、農作物全体が高騰することは避けられない。飼料も値上がりしているので、肉も影響を受けます。すでにもう影響を受けてますしね。
先日、ラーメン屋(ラーメンと定食の店)の店主が「小麦が上がっているだけなら他でカバーできるけど、今回は全部が上がっているので、値上げ以外で対策はとれない」と困り果ててました。今年になって一度すでに値上げしているので、どうしたもんかと。
「全部ロシアが悪い」という結論になったのですが、ロシアがこの状態を加速させているのは事実として、この背景にあるのは、気候変動による干ばつや洪水であることは「ビバノン」でも確認してきた通りです。日本でも玉ねぎの不作など、作物によってはすでに影響が出ていて、今後、これが作物全体に及ぶ。
あるいはプーチンが指摘していたように、食糧不足はコロナ対策も影響しています。ロックダウンによって食糧の梱包、加工、流通の業者が人を確保できなくなったり、操業できなくなったりして、食糧が滞って配給もままならなくなったことを、インドなどを例にして「ビバノン」では見てきました。これによって農民も金を得られなくなって破産した例もあるでしょう。コロナの過剰反応は食糧危機を加速させ、おそらく今も元通りにはなっていないはずです。
いつまでもコロナで遊んでいちゃあかんですよ。
※国連の報告書の第一弾「Global Impact of war in Ukraine on food, energy and finance systems」のブリーフ。この報告書は4月13日発表
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