松沢呉一のビバノン・ライフ

間違いを指摘されてもすっとぼけたライター—要友紀子に関する「デイリー新潮」の記事を批判する[下]-(松沢呉一)-[無料記事]

事実より思い込みを重視する記事作りはやめれ—要友紀子に関する「デイリー新潮」の記事を批判する[上]」の続きです。

 

 

共著であることを伏せるクズっぷり

 

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2022年6月21日付け「デイリー新潮」掲載「立民が参院選に「セックスワーカー団体代表」擁立で波紋 「売春肯定本」の著書もある女性候補の“過激な主張”」は、要友紀子のことを調べもせず、党内事情にも疎い「立民関係者」とやらの薄っぺらな情報を鵜呑みにしたライターが、裏もとらずにデッチ上げた記事であることはすでに十分おわかりかと思いますが、このライターはただの無能ではなく、悪質な無能であることを今回は見ていきます。

この記事の2ページ目には〈2000年に出版された「売春肯定宣言 売る売らないはワタシが決める」(ポット出版)という書籍〉が取り上げられています。タイトルにある「売春肯定本」のことです。

売る売らないはワタシが決める』は共著であり、クレジットは私の編著です。要友紀子は多数の執筆者の一人に過ぎません。

新潮社で文庫を出している私の名前を出すと整合性がなくなるとでも考えたのか、あるいは古い共著を大きく取り上げるのは不自然だと考えたのかどうかは知らないですけど、どこにも共著であるとの記述はありません。「オレ様の名前を入れないとはけしからん」というのではなくて、正確さが欠落しています。

著書リストに共著を入れることもあるように、共著もまた著書のひとつとは言えますが、その場合でも共著とわかるようにするってもんです。

そもそもあの本は22年も前に出たものです。考え方が大きく変わったりはしていないでしょうけど、深化はしていますから、今現在の要友紀子の考えや活動を知るには、SWASH編である『セックスワーク・スタディーズ』の方がはるかに適切です。まだ在庫もあります。しかし、こちらには一切触れず。

『売る売らないはワタシが決める』もおそらく適当にしか読んでないことは、要友紀子が合法化を主張しているのだと決めつけていることでわかります。

ライターの質問状に対して要友紀子はこう回答。

 

まず事実確認ですが、私はこれまで自分が書いた著書や講演、私の所属する活動団体などで、「売春を合法化すべき」と訴えたり求めたことはありません。また、セックスワークのあるべき姿として「売春合法化」という言葉を使ったこともないです。

 

『売る売らないはワタシが決める』の時点で彼女は、SWASHの前身であるUNIDOSのメンバーで、UNIDOSは非犯罪化の団体でしたから、一貫して彼女は非犯罪化を求めてきています。合法化ではないのです。

要友紀子の発言を補足—非犯罪化と合法化と買春処罰の3つの潮流」で説明したように、短期で見た時には合法化を前提にすることはありますが、彼女の理想としては非犯罪化です。

記事に添えられた書影。よく見れば共著であることはわかるわけですけど、このキャプションでも「要氏の著書」になってます。

 

 

要友紀子が説明した箇所はカット

 

vivanon_sentence合法化と非犯罪化については一朝一夕には決められない問題ですが、その難しさをすっ飛ばして、自分の思い込みや勘みたいなもので決められると思い込んでいる人が多すぎです。このライターもその典型です。

この文章全体を通して、また、要友紀子の回答でも、合法化と非犯罪化がどう違うのかについての説明がないので、ここで彼女が言っていることがすんなり理解できる人は少ないかと思います。

その点について、不親切だったのではないかと要友紀子に言ったところ、その違いを説明し、リンクまでしていたのに、すべてカットされたとのことです。

どうも変な原稿だと思ったらそういうことか。彼女の回答は全文ではなかったのです。

このライターは、無知と怠惰を根拠にして「売春肯定=合法化」と思い込んで、要友紀子を合法論者であり、合法化は業者を利するものだと決めつけていたところ、あっさり無理解を要友紀子に指摘され、いまさら原稿の趣旨を覆すことができず、都合の悪いところはカットしてごまかしたようです。

そうするしかなかったんでしょうね。「業界寄り」の根拠を合法化に求めてしまったため、合法化論者ではないってことになると前提が崩れて、「業界寄り」と決めつけた「立民関係者」の馬鹿っぷりが露わになるだけです。事実の裏付けもなくも、悪意だけで原稿を書くからこうなるのです。

おそらくなお理解できていないので、自分の原稿がおかしなものになってことにさえ気づけていないのではなかろうか。

 

 

無知で怠惰で姑息で無能な人間が悪意だけで書いた代物

 

vivanon_sentence例えば、ロシアのウクライナ侵攻について文章を書く場合、「今何が起きているのか」だけを淡々と書くのであれば、ウクライナがどこにあり、人口がどのくらいいて、ここまでのロシアとの関係などをざっと知っておけばいいと思います。

しかし、ロシアはウクライナをネオナチ国家と見なして、とくにアゾフ連帯をその巣窟と見なしていることに触れ、それを論評するとなれば、「ネオナチとは何か」「アゾフ連隊とは何か」までを調べるってもんでしょう。私のように、ステパーン・バンデーラについてまで調べる必要はないとして(あれは私のたんなる好奇心)。

「どこからどこまでがネオナチか」について一切の考えがなく、アゾフ連隊についての一切の知識がないのであれば、そこに触れるべきではないのではなかろうか。さもなければロシアのプロパガンダを拡大するだけです。

当たり前のことを書いてみましたが、セックスワークについては、まるで調べることなく、適当なことを言ってもいいと思っている人が多すぎです。風営法に則った議論をすべきところで、法を無視した「オレ様定義」を滔々と語るヤツとかよ。ひろゆきってヤツな。

合法化と非犯罪化の違いがわかっていない人はセックスワークに触れるべきではないとは言いません。しかし、合法化や非犯罪化に触れるなら、その定義くらいはもっていないとまずい。まして、要友紀子の主張を合法化だとして否定するのであれば、その知識は必須です。

必須の知識がないって点で無知。それを理解しようとしなかったのは怠惰。党内で調べることもしないで思い込みで語るだけの「立民関係者」の言い分を鵜呑みしたのはガサツ。要友紀子から指摘された重要箇所をカットしたのは姑息、指摘された内容さえ理解できなかったのは無能。

無知で怠惰でガサツで姑息で無能な人間が悪意だけで書いた原稿でした。

セックスワーカーが立候補するとなると、こういう悪意が服を着たような人間が足を引っ張ってきますので、すぐさま対抗できるように、セックスワーカーの皆さんも、知識を増やして、理論武装をしましょう。「ビバノン」を購読するといいと思います。最後に宣伝を入れておきました。

※6月23日の決起集会にて。この写真はどっかで使おうと思っていたのですが、使う機会がなかったので、ここに出しておきます。意図してそうなったのではないでしょうが、この日は女ばっか。「要友紀子の背景には男の黒幕がいる」「要友紀子は男に操られている」と言いたがる阿呆に見せたれ。

 

 

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