松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスワーカーが健康に安全に働くことを求めると、業者に加担していると言われる理不尽—要友紀子が提起した疑問について考える[上]-(松沢呉一)-[無料記事]

サイレント・エピデミックと女子供バイアスを問い直す存在—男女を等しく扱えばいいと主張する要友紀子」の続きです。

 

 

要友紀子の疑問に答えよ

 

vivanon_sentenceでは、もう一度、「参院選で要友紀子を当選させる総決起集会」での要友紀子のスピーチに耳を傾けてください。

 

 

ここで彼女が提起している「どうしてセックスワーカーが健康的に安全に働くことを求めると、業者に加担していると言われるのか」という疑問を考えてみましょう。

現にこういうことを言っているのが今回も出てきていることを私も確認しています。これについては具体的な文章を出して、改めてその腐れぶりを指摘する予定ですが、売防法に反対した新吉原女子保健組合が、婦人議員や宗教団体に「業者の傀儡だ」と決めつけられたことを思い出します。

道徳や宗教で動いている人たちはこの70年の間、何も変わっていない。働く者たちの主張を軽視するたために平気でウソを言える連中です。

 

 

ライターの団体と同じに扱えばいいだけ

 

vivanon_sentenceまずバイアスを外していただくための例を出します。

ライターが集まって、「ライターの権利を守る団体」を始めるとします。すでに存在する団体としては日本ペンクラブみたいなもんです。ペンクラブは立派な人しか入れそうにない雰囲気なので、こっちは誰でも歓迎。

活動は大きくみっつに分類できます。

ひとつは労働運動的側面です。「ギャラの未払い」「約束の不履行(本を出す約束が理由なく反故にされた)」「編集者によるセクハラ」など、出版社や編プロとの交渉だったり、抗議だったりで解決を求めます。

スムーズに解決できない時に、社名や内容を公開して、広く抗議を呼びかけるようなこともありましょうけど、大半はそこまでせずとも解決します。

続いては内部的啓蒙活動です。自分たちが自身の権利を知るための活動です。たとえば著作権についての勉強会をする。ここに出版社の人間も呼んでともに学習をしたり、出版社と共同で主催することもあるでしょう。

もうひとつは社会運動的側面です。「表現の自由を損ないかねない法の制定に反対する」「著作権軽視の風潮に抵抗する」みたいなことです。私であれば「刑法175条を撤廃しろ」といったように、政治家やメディア、一般市民を対象にしての働きかけです。こちらは内的な議論や学習も必要でありつつ、最終的には外に向けてアナウンスしないと始まらない。

※例として出しただけですが、日本ペングラブのツイッター・アカウント

 

 

社会全体にある差別意識と対峙するために店との連携も必要

 

vivanon_sentence活動報告として、どの面についても外に知らせることはありましょうけど、もっとも積極的に外に出す必要があるのは社会運動的側面です。改善すべき点が外部にあるのですから、当然です。

ここにおいてはしばしば利害を共有する出版社と歩調を合わせることになります。ともに抗議をしたり、署名を集めたりすることもあるでしょうが、それをもって、団体総体が「出版社の利益を代弁している」「背後に業界関係者がいる」「金を出している黒幕がいる」などと言われない。

日本ペンクラブが出版社の批判をしないからって「出版社の傀儡だ」とは言われません。なのに、セックスワークについては、こういうトンチンカンな揶揄が向けられがちです。

昨日、持続化給付金が性風俗業種に支払われないことに対する地裁の判決が出て、原告敗訴で、すぐさま控訴していますが、SWASHはこの裁判も支援しています。

性を売り物にする性風俗業者は本質的に不健全で、国庫からの支出で給付金を支給することは国民の理解を得られない」というのが国側の主張です。根拠にしているのは国民の意識です。

この背景にある差別意識は、セックスワーカー自身にも向けられるものですし、店に対して給付金が支払われないことは間接的に働く者にもしわ寄せが来ますから、SWASHが支援するのは当然です。

出版社に持続化給付金が支払われないとして訴訟を起こしたら、私らライターの団体も支援しましょうよ。

※2022年6月30日付「毎日新聞

 

 

セックスワーカーからの相談の特性

 

vivanon_sentenceSWASHにはさまざまな相談が寄せられます。上のスピーチで要友紀子が言っているように、相談に対応する結果。労働運動的活動が多くなり、「SWASHは労働者の問題を大事にしてきた団体」です。

外部の私が詳細な内容まで聞くわけにはいかないですが、ざっくりとした話は時折聞いていますし、聞かなくてもある程度は想像がつきます。

セックスワーカーの相談は、一般の労働とは違うところがあります。ライターだとギャラの未払いについての相談が多くなるでしょうが、性風俗の多くは日払いなので、未払いが生じにくく、AVでメーカーからの未払い、プロダクションからの未払いが発生することがあるくらいか。

また、SWASHへの相談には、病気や健康についてのものが多くなるのも特性です。SWASHの特性であり、セックスワークの特性でもあります。

客とのトラブルについての相談もありましょう。客がストーカーになったら、通常は店と協力して事に当たり、SWASHに相談するまでもないわけですが、店で知り合ってつきあって、別れてからストーカーになった場合は店も面倒を見切れないし、店に隠れてつきあったことがばれたくないというケースもSWASHに持ち込まれそうです。

さらには社会運動的側面とクロスする内容も多いだろうと推測します。「学生時代にAVに出ていたことがバレて、会社を解雇されそう」という相談があった場合、本人が覚悟をしない限りは外には出せず、弁護士に相談をして会社と交渉したり、内密に抗議をしたりすることになりますが、本来これは解雇しそうな会社がおかしいのであって、その会社の考え方は社会全体にある考え方に基づいていますから、社会運動的側面としての活動も同時にしていく必要があります。この例を公開するのではなく、世間一般に「こんなことで解雇してはいけない」とアピールをする。

現在の法律でも、学生時代にバイトで性風俗で働いたこと、AVに出たことをもって、解雇されるような事例は、解雇する側が不当です。これは「懲戒の基準」シリーズを読んでいただければわかる通りです。

であるなら裁判を起こしたり、企業を糾弾することが求められるわけですけど、なぜかこれを業界のせいにして規制をすることで解消しようとする人たちがいます。どんな時でも「悪いのは業者である」という信念をもっておられるようです。そうすることによって、根本的な解決を遠ざけ、働く者たちへの不当な扱いや視線を賢明に温存しようとようとしているとしか思えない。それがまた弁護士だったりするわけですが、法を守ることより、道徳を守ることの方が大事なのか?

※五十嵐えり都議と。現役都議がレッドアンブレラを手にするってだけでも感慨深い

このテーマは続きます

 

 

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