ロシアのブラックリストはくだらない。ウクライナのロシア音楽禁止法もくだらない-(松沢呉一)
「ロシアで配布されているミュージシャンのブラックリストが公開された—国外脱出が相次ぐ」の続きです。
「黙っている人を責めない」とカスタのシム
前回見たロシアのブラックリストに入れられたカスタのフロントマンであるシムのインタビューが公開されています。リストでは本名がエニファンツェフ・ミクハイルになってますが、この動画ではエリファノフ・ミクハイルになっていて、正しいフルネームはエリファノフ・ミクハイル・オレゴヴィッチ。
カスタの前身ユニットであるサイコリリック(Психолирик)の結成が1995年、カスタとなったのが1997年。ラップ・グループとしてはベテランの域ですが、メンバーは40代前半で、シムは43歳。
彼がこの中で言っていることで注目すべきは、沈黙するミュージシャンを責めないってことです。
私もこの考えに近いです。黙ることを責めない。逃げることも責めない。黙ることがイヤなら、人を責める間に自分が発言する。逃げることがイヤなら自分が逃げない。「沈黙するのは敵を利することだ」と言う人たちがよくいて、そういう状況もありますけど、シムが言うように発言したくてもできない状況もあるってもんですよ。
人気があればあるほど、自分の存在でメシを食っている人たちがいます。その人たちが路頭に迷わないようにするのも自分の責任と考えると、おいそれと自分の考えていることをそのまま表には出せなくなるってものです。「関係者」が多い存在の苦悩です。
そんな状況などなくても、勇気がなくて発言できない人たちもいるでしょうけど、黙っているだけならスルー。責めていいのは、はっきりと敵を利することを表明した時です。
プーチンを礼賛するミュージシャン、ウクライナ侵略を肯定するミュージシャン、民間人殺害を肯定するミュージシャン、ブチャの虐殺をウクライナの仕業だと言ってのけるミュージシャンがいたら、責めていい。
今回要友紀子が自身のセックスワーカーとしての過去を公開したわけですが、私はそれを褒め称えます。だからと言って、公開しない人を責めることができるはずがありましょうか。それと同じだと思います。
要友紀子を褒め称えるのと同じく、プーチンを批判し、戦争に反対したミュージシャンたちを褒めればいい。
以下はカスタの2020年の曲。
1千万再生回数を超えています。ロシア語のラップですから、アクセスしているのはロシア語圏の人たちが中心でしょう。それでこの数字。いかに人気があるのかってことです。それだけ関係者と言われる人たちも多く、それでも楯突く。素晴らしい。
ロシアの馬鹿にウクライナの馬鹿
あんなブラックリストを作るロシアは馬鹿じゃないかと思わないではいられない。外貨をいっぱい稼いできたミュージシャンが国内ではライブもできなくなって、国外に出るしかなくなる。国外でも人気のあるミュージシャンほどこれが可能。現に続々国外に脱出しています。
ナチスの時代だって頭脳流出したわけですが、当時よりもっと国外での知名度を上げておくことが可能ですから、国外に脱出する判断がしやすい。売れていない人たちは国外に出て飢え死にする可能性がありますが、あのリストに入っている人たちの大半は国外に出ても食っていけそうです。
その決断をするのに肩を叩くのがあのリストです。表現を潰せば解決すると考えるロシアの馬鹿さを象徴するような話です。
それに引き換え、ウクライナは表現を尊重するのかと言えばそうでもないから困ってしまいます。
メデューザは、ロシアのブラックリストを取り上げつつ、それとウクライナがロシアの音楽を禁止する法律を制定したことを対比させて、どっちも愚かであると批判してました。私もそう思います。そりゃ、ロシアとウクライナを同じ土俵で比べることはできないのですが、ここだけを取り出せばどっちもどっち。
どっちも批判すべき点は批判するメデューザはさすがです。
※2022年6月19日付「Укрінформ」
(残り 1566文字/全文: 3346文字)
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