松沢呉一のビバノン・ライフ

ロシアの世論調査はすべて信用できず、有害なものでしかないと主張するロシアの研究者もロシアを見捨てた-(松沢呉一)

 

 独裁国家で世論調査は可能か?

 

vivanon_sentenceちょっと時間が経ちましたが、ロシアの独立系メディア「Riddle」2022年5月4日付「ロシアの世論調査の有害性について(On the harmfulness of Russian polls)」は大変刺激的な内容でした。

 

 

 

 

私がよく使っているヴツィオムは政府系の世論調査会社であり、対してレバダセンターは独立系。よってレバダの数字は信用できるというので、日本のメディアはレバダセンターの数字を好んで使う傾向があります。しかし、両者の数字を照らしてみると、五十歩百歩であり、代わり映えしない。

数字を操作することには強い抵抗が生じるってものです。なのにワクチンを接種する意義を誇張するために数字を操作したとしか思えない厚労省はどうかしていますが、あれだって数字の置き場所を不当に操作したのであって、元データをいじったわけではない。

とくにロシアの場合、レバダセンターも同様の調査をしているため、ヴツィオムが数字をいじるとばれやすいのです。

したがって私は設問の仕方によってプーチン政権に有利になるような操作をしている可能性はあっても、数字の操作はしていないだろうと判断し、とくに数字の変化を見るためには使えると思っています。

それに対して、「ロシアの世論調査の有害性について」は、ヴツィオムもレバダセンターもすべてまとめて正確な国民の意識を知るものにはならず、むしろ有害であるという内容です。

 

 

ロシアの世論調査が有害な理由

 

vivanon_sentence筆者であるマルガリータ・ザヴァツカヤは、いくつかの点から、これらの世論調査が無効であり、有害だとの論を組み立てています。

ひとつは用語がバイアスを生み出している点です。ロシアではウクライナ侵攻を「戦争」と呼べない。「ウクライナ戦争を支持しますか」「ウクライナへの侵略を支持しますか」「ウクライナへの特別軍事作戦を支持しますか」では、回答は違ってきましょう。

ふたつめは電話によるアンケートでは、戦争支持が上がる点です。調査する側がランダムに選んだのだとしても、答える側は自分の身元はすべてばれていると思うため、本当のことを答えられない。

それに対して路上でのアンケートの方がまだしも安心だと感じるようです。それだって尾行されたら同じですから、本心を答えない人もいましょうけど、そういう人はアンケートに協力しないので、答える人については少しは本心を語っているかもしれない。

みっつめは、そもそも少なからぬ人は政治に関心がなく、差し障りのない回答をするって点です。ロシアにおいて差し障りのない回答はプーチンを支持し、戦争を支持することです。そう答えた人たちが本気でそう考えているわけではありません。そう答えているうちに、自分の意見になるってこともありますが。

 

 

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