鹿児島とたこ焼きとTENGA(海江田哲朗)【J論】

ヴォルティススタジアム

井筒陸也、引退。新たなステージへ。

「近々、お話できませんか?」。

12月に突然のLINE。

電話すると、挨拶も早々に井筒はこう切り出した。

「引退します」。

驚きの前に、相変わらず斜め上やなって思った(笑)。そして、「お世話になった徳島の方々にちゃんと伝える機会を設けていただけませんか?」とあらためて12月下旬に徳島で再会。

たかしまコーヒーで「珈琲とクロックマダム」を注文。3年という時間ですっかり徳島の地に馴染んでいた。店内のテレビでは有馬記念の生中継が始まり、年末を感じさせる中で話を聞かせてもらった。

必要とした変化率。

――引退の経緯を聞かせてください?
説明するのはめちゃくちゃ難しいのですが、中学3年生の頃から毎年節目が来るたびに「続けるのか、続けないか」を考えてきました。今年は契約が切れるタイミングでしたが、それ以前からクラブにも周りの人たちにも「(中学の頃から)いつも引退を考えたり悩んだりしながらずっとやってきている」ということを知ってもらっていました。そんな中でいまは「新しいチャレンジがしたくなった」というのが一番初めのきっかけです。そこから「じゃあ、どういうチャレンジがしたいのか」と考え始めるようになりました。

――「新しいチャレンジ」は徳島にいてもできるだろうし、「新しさ」がなければ移籍することも可能だったのでは?
僕の思う「変化の度合い、欲しかった変化」で言うとカテゴリー問わずJリーグのチームに移籍できたとしても大きな変化ではないという風に感じていました。結果的に平日は朝から夜までビジネスマンをするとか、東京に行くとか、社会人でサッカーをするとか、非連続的である中で試されることや試したいことがあると考えました。

――「非連続的」な場所に飛び込むことが、いま最もやりがいがあると思ったのですか?
そうです。でも、別に何でもいいというわけでなければ、積み上げてきたことをすべて壊すということでもありません。ただ、ある程度の変化は必要だと感じました。それがどの程度の変化なのかというところで、今回の結論に至りました。

左足のビルドアップ×社会。

――「左足のビルドアップ」をサッカー以外の社会でどう生かすかという話していました。もう一度詳しく聞かせてください。
ビジネスパーソンの方にお会いすると言われることがあります。「僕は左足でビルドアップができます。それによってJリーグで幾ら位の値がつくのか」。何百万円とか、そういう答え方になっていくと思いますけど「でも、それってビジネス界では0円だよね(笑)」って言われます。もちろん、冗談の話です。でも、実際にビジネスの中で左足でビルドアップをする機会なんて当然ありません。ただ、それでも僕だけじゃなくてサッカー選手が20何年努力してきた結果がぜんぶ無くなってしまうはずはありません。じゃあそれが何なのかをこれから問われるでしょうし、通用しないこともあるでしょうし、その検証作業をこれから僕がやるべきなんだろうって思っています。

――その20何年で完成させた「左足のビルドアップ」がどう生きると思いますか?
人間性と答えると抽象的すぎるかもしれませんが、“僕はチームに求められていること×自分のリソース(資源)”を考えた結果として「左足のビルドアップ」で生き残ってきたタイプの人間です。そういうタイプだからこそ「自分に何ができるのか?」をすごく考えてきましたし、同時に「チームに何が必要なのか」もすごく考えてきました。その現象として、たまたま「左足のビルドアップ」に至りましたが、そこに至ることができた考え方や方法は今後の人生でも使えるのではないかなって思っています。

――引退と並行して未来を考えたときに、純粋に「何がしたいと」思いましたか?
最終的なゴールはそもそも僕の中にはありません。僕は客観的に自分のことが見えるタイプと思っていますが、だからこそ「本当にそれがお前の夢なんか?」って自分自身に問われたときに答えられる自信がありません。考えれば考えるほど「自分の夢って無いな」って思います。でも、そのぶん好奇心は人よりもあると思っています。「何かをやりたい」って思った瞬間に「直ぐにやる」って行動力は強いと思います。今後もやりたいって思うことが出てきて、当然「やる」という選択になると思いますが、そのときに必要とされる面白い人間になっているかどうかが重要ですし、自分自身としても恐れなく飛び込めるようになっているかどうかが大事になってくると思いました。
そう考えたときに第1の選択肢としてはサッカーやスポーツと全然関係ない領域に進んでみるという発想がありました。例えば、コンサル、金融とかの世界に行けば「スポーツ×コンサル」、「サッカー×金融」とか、その業界とスポーツの間にあるところを自分の経験があるからこそ全部捕っていけるというイメージで次のキャリアを作ることができるのではないか。ただ、このパターンはわりと無難な方法かもしれません。もう1つ考えた選択肢は、とにかくスポーツ界で尖ってシャープに面白い人間になる方法でした。スポーツといっても色々な方法で関わることができると思います。例えば、スタジアムを作るという話であれば建築とも関わってくるでしょうし、人に豊かさを与えるという話であればアートかもしれないですし、スポーツテックという観点ではテクノロジーもこれからはスポーツと切っても切り離せません。スポーツをやってきた人間だからこそ、その考え方を突き詰めていけば必要とされる人間になれるのではないかと思っています。そのさらに先の未来ではスポーツから離れてもいいでしょうし、そこに留まっていもいい選択ができてくるのではないかとイメージしました。
その難易度を考えると、まったく異なる業種に入って「スポーツ×〇〇」という道を行った方が意外とイージーかもしれません。ただ、自分の性格的に「ヤバい方に行った方が(笑)」って思っているので後者のスポーツ界で尖る選択をしようと決めました。

就職。そして、アマチュアとして社会人プレイヤーに。

「スポーツの価値を通じて、真の豊かさを創造し続ける存在でありたい」という言葉を理念に掲げる株式会社Criacao(クリアソン)という会社に所属して仕事をしながら、関東2部に昇格したばかりで同社が運営する『Criacao』でプレイヤーとしてもサッカーを続ける。

株式会社Criacao
https://criacao.co.jp

――冒頭にあった「非連続的な場所に飛び込みたい」という発想でしたが、例えばプロではないにせよサッカー選手を続けることであったり連続していることも多いです。そこを、どう解釈していますか?
確かにここまでの説明だと連続性のありそうな話にはなっていますが、そこについては自分自身でも考えてみました。先ほどもお話ししたようにまったく異なる業種からスポーツに入っていくのか、スポーツ界の中から面白い人間になっていくのかという選択肢の中で後者を選んだというのがまず大きな前提としてあります。
僕はすごく批評家になりがちです。例えばスポーツのことを語るときにサッカー選手であったり、元サッカー選手であったりと、世間の方々にある程度聞いていただける環境に自分はあります。何かあったときに「Jリーグではこうです」と言えることもあると思います。それは確かに有効な手段ではあると思います。ただ、本当に面白い人にとってそんな背景はまったく関係ありませんよね。でも、僕自身は「(バックグラウンドを使って批評家のように)四の五の言ってるけど、結局お前自身はやれるのか?」って問われると弱い。だからそこに挑戦することを大事にしたい。小さいときから「お前は口ばっかりや!」って言われてきたので(笑)。
次の場所ではビジネスマンとしてもプレイヤーとしてもやりますが、プレイヤーの現場では「結局のところ色々言ってるけど、お前は本当にスライディングできんのか?」って話が今後の自分に付きまとってくると思います。でも、そういう方が自分自身を鍛えられるでしょうし、プレイヤーも続けると選択したいまはクラブ『Criacao』の中で学んだことを、例えばビジネスとして事業にもつなげていきたいです。スポーツで悩みを持っている人に対して現場で体験していることがあるからこそ社内で事業として語れるでしょうし、社内で語れる内容は社会全体にも語れるはずです。
「非連続的」という点では、極論ですけど例えばラクロスでも良かった。そこで何をやりたかったというと「勝利や勝負のメカニズムについての実証」。いい選手を獲得する、戦術を取り入れる、コンディションを整える、設備を整えるとか、いま言われていることばかりじゃなくて、僕はそうじゃない所で勝つための大事なことがあると思ってます。そこに挑戦してスポーツ界でいま言われている勝つために必要なこと以外で前例を作り出すことができれば、僕の考えている「いいチームを作らなければいけない」という意味にもみんながもっと真剣になると思っています。それはスポーツだけに関わらず、社会全体にもきっと応用できます。そうなれば必然的に幸せになる人が増えるはずです。

――色んな選択肢がある中で『株式会社Criacao』を選んだ理由は何ですか?
もともと大学時代にチームの組織作りで悩んでいたときに出会った会社です。まだ起業したばかりのときで、会社には3人しかいなかったです。その人たちは「スポーツの可能性」を信じていて、「体育会の学生が社会でいま以上に価値のあることができるのではないか」と学生向けにセミナーを開いてくれていました。僕もプロになる以前から、実際にめちゃくちゃ相談に乗ってもらっています。その会社が仕事と選手と両方のオファーを出してくれて最終的に考えて決めました。でも、その方々にお世話になったからとか、チームに関西学院大学時代に指導してくれた成山監督がいるからとか人の存在に依存して決断したことではなくて、会社の考え方が僕のこれから挑戦したい仮説と近くて、その実証をできる場所なのではないかと考えたからです。もちろん、人に依存して決断したことではないと言いましたけど、その会社にいる人たちは本当に好きなひとたちばかりです。

――具体的には何をするのですか?
クラブでは社会人選手としてプレーします。ここまでチームを作ってきた方々がいるのでどういう表現をして言えばいいのか難しいですが、必要であれば自分がチームの中心としてやっていく覚悟もあります。急にJリーグから選手が来ることもないはずですから「何を急に偉そうにして」という話がもしあったとしても、ちゃんと納得してもらえるように努力します。「なんでもやらせてください」と代表には伝えています。
会社では大学時代にリーダーシップとキャリア形成についてサポートしてもらいましたが、体育会の学生が悩むのは主にその2つだと思います。その2つに対してソリューション(解決方法)を提供している会社で、僕自身もオフシーズンに学生の前で登壇して話をした経験もありますが、これからも学生の前で話すこともあるでしょうし、今後はセミナーを仕掛けていく側として企業にアプローチしてくことも増えていくと思います。それを何らかの形でtoB(ビジネス)、toC(カスタマー)につなげられるようにして、お金も生み出せるようにしていきたいです。『キャリア』という役割を担当させてもらうので、例えば企業の人事と体育会系の学生をつなげることや、人事の方に体育会系の学生やアスリートの価値を知っていただくような動きをすることになると思います。

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