ヴォルティススタジアム

『イヤーブック2021完全版|ヴォルティススタジアム連動企画』岩尾憲選手インタビュー

――J1のピッチレベルで起きるであろう難しさは?

攻守においてボックス内。攻撃で言えば決定機の数、チャンス構築率、ボックス内への進入率はおそらく減ります。なので、少ないチャンスを決めきる力が必要になります。相手守備のクオリティーは天皇杯準決勝・G大阪戦を通して肌で感じました。J1とJ2のその辺のギャップが、ボックス近辺では必ず起こります。なので多少時間がかかったとしても、そのボックス近辺で起こることへの感覚のすり合わせは必要になると感じています。もちろんチャレンジは続けますが、J2でもそうだったように僕らが横綱相撲をするというのは現実的ではありません。予想されることと現実をすり合わせながら、つま先立ちではなく、しっかり地に足を着けて勝負することが大事になると思います。

――新監督招聘。また、コロナ禍で来日が遅れる可能性が高いです。その難しさについて

チームはいきなり完成するものではなく、いろんな経験を経て成長していくものだと思っています。なので、上手くいったとしても、いかなかったとしても、その現実を受け止められるかどうかが大切です。そういう意味でもコミュニケーション量は必要です。ですが、来日が遅れるとなれば、そこがかなり手薄になります。そのとき正しいと思っていたことが実は違っていたとか、結果として勝てたけど違っていたとか、監督と上手くコミュニケーションが取れないとすればマッチングしない瞬間が増えていく可能性はあります。また、仮にそれで勝利してしまうと、チームの中で正解として捉えられてしまうかもしれません。内容と結果を一歩引いた視点で仕分けしていかないと、気が付けばひっちゃかめっちゃかなシーズンになってしまいます。それだけは避けたいです。なので、可能な限り、早めに、多くのコミュニケーションを取りたいです。

――新しいことに挑戦するときは、おそらく「昨シーズンはこうだった」みたいな話題がチームからも外部からも出がちだと思います。そこについてはどう感じますか?

多分、少し上手くいかないと上手くいっていたときのことを誰しもが思い出すものだと思います。でも、それだと上手くいっていたとき以上の先には進めません。要は天皇杯でG大阪に勝てなかった先には行けないということ。それは、結果的にG大阪には勝てないということになる。人間って、上手くいっていた過去を変化させるのは難しいと思うんですよ。でも、さらに成長するには、次の挑戦もやっていかなければいけないときがある。もちろん、そういう話が出た時に言いたいことはわかります。でも、いま挑戦しようとしてることを投げちゃったら、何も見えてきません。いま居心地がいい所に帰ってはいけない。その場所が正解に近いならば戻る必要はあります。ただ、良い意味でも、悪い意味でも、僕らには戻ることができる場所があるので、そのことが難しくさせてしまうかもしれません。そういったことも踏まえるべきだからこそ、チームのコミュニケーションの量と質、そのコミュニケーションのスピード感は早い方がいいのかどうなのか、さまざまな判断が大切になってくると思います。

――岩尾選手個人としてJ1の楽しみは?

湘南のときに少しだけJ1でも出場させてもらいましたが、必死で背伸びして大きく見せようとして「かかとが着かないように頑張らないと!」みたいな感じでした(笑)。でも、いまは両足をしっかり地面に着けてプレーすればある程度はしっかりと進める自信は昔よりも確実にあります。なので、そういう意味での楽しみはありますよ。ちゃんと地に足を着けられればどこまで行けるのか。もちろん険しい道のりですけどね。

――自身が成長した自負も、加入した当初と比べて徳島がチームとして成長したという自負もありますか?

あります。もっと言えばサポーターとか、サッカーを取り巻く環境も含めて。僕は全部をまとめて『質』だと思っています。J1で戦う文化みたいなものは、既にJ1で戦っているクラブに比べると現時点では勝てないかもしれません。文化になっているからこそ強いという側面も僕はあると思っているからこそ大切な要素です。だからこそ、人口も違うわけですから、徳島がより強くなるためにも、生き残っていくためにも、より徳島のサッカーを文化として高めていかなければいけないだろうと思っています。

――徳島加入時との違いは?

徳島に集まってくる選手の質が違ってきました。人間性という意味で。また、スタジアムの雰囲気、人数、拍手や歓声の起こる瞬間。勝利した後の皆さんの振る舞い、敗戦した後の皆さんの振る舞い。そういうところが変化してきたと思います。それは、「こうあったらいいのになあ」に近づいてきている感じ。J1をきっかけにして、それを全員で加速させた方がいいと思っています。

――14年に達成できなかったJ1でのホーム初勝利について

誤解せずに聞いて欲しいのですが、初めてJ1で戦ったときにホームで勝利できなかったのは、きっと選手だけが理由ではないと思います。応援には来ていますけど、どこかで有名なチームや選手を見に来ているという人も多かったのではないかと思います。そういったエネルギーも必ずピッチに落ちます。最後に頑張らせるか、最後に相手のゴールを期待してしまっているのか。そこにロジックはないですけど、因果関係はありそうだと僕は思っています。でも、いまは本当にヴォルティスの勝利を願う人が増えたと思うんです。そのエネルギーはどんどん強くなってきているとも感じています。それはサポーターさんも、スポンサーさんも、社長も、フロントスタッフも。そのエネルギーが生まれること自体、価値のあることですし、それ自体が勝利を引き寄せられる要因になりうると思っています。なので、そういう力を借りながら、僕らが良い準備をできれば、必ず勝てると思っています。

――今シーズンを表現するキーワードは?

「対応力」。自分たちの中にも変数が増えてきて、統一しなければいけないこと、敢えて統一しなくていいこと。いろんなことが起こるはずです。1つは監督が交代して戦術も変わるだろうし、自分たちの対応も問われます。もう1つは相手に対して、J1仕様で対応していかなければいけません。その2つがポイントになりそうだと思っています。まだまだ適応はできていないと思っていますが、そこから逃げずに、1つずつ対応していけば、いつか適応できるのではないか。そして、適応できたときが、定着できるときなのではないかと思っています。

2021年1月某日
聞き手/柏原 敏

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