ヴォルティススタジアム

岡田明彦強化本部長、1万字インタビュー。

――ダニエルポヤトス監督やマルセルコーチとの契約更新は、いまお話しいただいたような観点を評価しているという意味合いも含まれますか?

はい。そういう部分の評価はすごくしています。しかしながら、前指揮官も苦労した点ではありますが、ダニも日本で初めて指導するようになったばかりで、コミュニケーション方法、伝え方、表現など、日本人選手に合った指導やマネージメントという点では改善余地があると感じています。ただ、フットボールの観点においての「世界基準ではどういうことが大事で、どういうことを改善していけば戦えるようになるか」といった部分は信頼をしています。カテゴリーが変わり、編成も変わりますが、引き続きそういったことも意識しながら表現できるようにしていきたい。

――ここ数年スペイン人監督が指揮を執り続けています。スペインに何かきっかけを見出そうとしているですか?

いえ、そういうわけではありません。僕自身いろいろなフットボールを見ますし、必ずしもスペインというわけではありません。同じスペインでもボールを大事にする方法もあれば、カウンターを軸にした戦い方、守備をソリッドにした方法論を追及するクラブもあります。我々は国籍を問わず、徳島ヴォルティスのクラブスタイルを成長させられる方法を追い求め続けています。

加えて言うならば、我々は成長育成型を目指しています。選手の年齢や肩書きに捉われず、練習では選手をAチームやBチームにわける方法ではなく、練習試合も含めて全選手に同じように目を向けられて、我々のクラブコンセプトを理解してくれる指導者に託したい。そこが重要です。

――選手獲得について「クラブの基準、プロファイリングがある」と常々話されています。具体的にはどういう基準なのですか?

まずは「野心や向上心があること」。我々のクラブに集ってもらう上で、そこを最も大切にしています。そして、「徳島で成長したい、徳島で上に行きたい」と大きい目標を持っている選手。その目標は選手によってはJ1かもしれないし、世界かもしれない。カテゴリーではなくフットボールを通じて文化を作りたいとか、理由は問いません。

地方クラブだけど他と比べれば少しでもお金がいいとか、出場機会が得られるかもとかではなく、ギラギラした野心や向上心を持っていることをすごく大切にしています。その中で「アグレッシブ(積極的)、コレクティブ(集団的)」という点で何か優れた能力があること。例えばインテンシティが高いとか、スピードがあるとか。そして、何かがひとつ秀でていればいいというのではなく、その上で技術力や空間認知力があり、スペースにおける数的な状況を理解できるかどうかという部分もプロファイリングします。

自分の力不足でもありますが、我々の規模で完璧な選手はなかなか獲得できません。なので、まずは心構えがある。なおかつ、いまお話したようなプロファイリングの中でいくつかの能力が優れている。我々はそれらを満たす選手の良い部分に焦点を当てて、組織的な戦い方の中で良い部分をどれくらい伸ばしていけるかどうかを大切にします。そのためにはチームに対しての忠誠心も必要ですし、チームを活かすことで自分が活きることにもつながると理解できる必要もあります。日本人であろうとも外国人でもあろうとも、肩書きがあろうがなかろうが我々には関係ない。そして、選手が成長すればクラブとしても成長できるのではないか。そういう考え方のもと、クラブとしての構造も作っていくことを意識しています。

――入れ替わりの多い今オフについては、どう捉えていますか? 例えば今シーズンはW杯の影響でJ2リーグ戦は10月閉幕ということもあり、引き続きタイトなシーズンです。また、J2の中で徳島と大分はルヴァン杯にも参戦します。なのでプレシーズンでのよりスピーディな仕上がりも求められる中で、主力が多数移籍したという事実は組織構築に必ず影響すると思います。特に連戦が続く2~5月くらいに焦点を当てると、ディスアドバンテージであり、不安もあると思います。どう捉えられていますか?

まず、選手が多く移籍したということは当然ながら変化をしています。ただ、残ってくれた選手も多くいる中で再び新しい挑戦ができるという捉え方もあります。連戦については事実としてきついこともあるかもしれませんが、多くの試合ができることは面白いとも思います。もちろん、厳しいですよ。大変だとも思います。でも、そういった不安よりも特徴のある選手がたくさんいる中で、どうやって変化をつけながら戦っていくかという楽しみの方が多いです。昨シーズンもJエリートリーグに出場したことで大きく伸びた選手はいて、そういった選手たちが公式戦でもどれくらいやれていくのかという楽しみもあります。もちろん全部が全部かっこよくできるわけじゃないですから、安定せずに下振れするときもあるとは思います。でも、試行錯誤の期間も経て、ある程度しっかりしてくるようになると本当に評価されていきます。そのスピード感は年を重ねるごとに早くなってきている実感もあります。

そして、誰かが移籍したからといって同じものを作ろうとはしていません。例えばこれまでもヤマ(山﨑凌吾)や渡(大生)が移籍したらとか、レオ(大﨑玲央)が、ノム(野村直輝)が、ヨルディ(バイス)が、ウッチー(内田裕斗)がとか、いろんなことがありました。もちろんクラブとしてのプレーモデルはありますが、過去とまったく同じことを探し求めているのではありません。プレーモデルがある中で、新たに加入した選手の特徴をどう活かしていこうかという発想です。軸となる部分があるからこそ、変化していく部分に心配はしていません。

とはいえ、ご存知の通り今シーズンは絶対的なリーダーが移籍しています。そこに若干の危惧はあります。ただ、僕らも(岩尾)憲にずっとリーダーを担ってもらうわけにもいきません。クラブとしてもどこかで変化を受け入れなければいけないときは来るわけで、その中で新たに成長したり頭角を現す選手が出てくるかもしれません。そう捉えています。

――岩尾選手のお名前が挙がりましたので少し深堀りさせてください。岩尾選手には『岩尾憲、最後のインタビュー』としてお話を伺いました。いい機会ですので、強化部は彼とどんな時間を過ごしてきたのか。そして、今オフの移籍にあたり、どんな話をしたのかなど聞かせてください。

憲と話していたことはいつも変わりません。勝つ負けるだけではなく、フットボールや集団スポーツを通じて我々が挑戦しているものの意義を伝えていきたい。そして、それを伝えるためには我々自身が良い集団でなければならないし、実際に体現してみせなければ伝えることもできない。だから、リーダーとして力を借して欲しい。そして、仮にキャプテンを退いたとしても、徳島という地で文化を一緒に作って欲しいというか、引き続き力を借して欲しいという話をしていました。

結果として移籍にはなりましたが、いろんなことがあったと感じています。

憲には「より攻撃的でボールを握りたい」と誘って徳島に来てもらいました。でも、加入初年度の16年はなかなか上手く実現できなくて申し訳ないなと思った時もありましたし、17年はJ1昇格プレーオフに進出できなかった結果に対して色んな思い(※数年後に岩尾自身が「十字架」という言葉を用いて当時のできごとを受け止めていたことを明かしている)を背負わせてしまったなという感情もあり、18年はバラバラになってしまって、19年は後半戦から上手く行き始めてJ1参入プレーオフ決定戦まで進むことはできましたがJ1昇格には届かなかった中でレギュラーで頑張ってくれていた選手が5人移籍し、20年は昇格できるかどうかという時期にリカ(リカルドロドリゲス監督)にオファーが来ていることを憲には先に伝えてもいましたし、昨シーズンは監督が交代して憲にもいろいろ苦労をかけた中でご家族のこともあって。そういう苦労を掛けたことも含めて、ただ単に残ってくれって憲には言えなかった。16年に他クラブも含めて7チームくらいからオファーがあった中で徳島を選んでもらって憲も成長してくれたと思います。でも、それと同じくらいに嫌というほど苦労もさせてしまったとも思います。そういう話も伝えました。ただ、憲は徳島にとって象徴でもあったから。単に残ってくれって言えなかったとか言いながらも、やっぱり簡単には手放せなかった。本当に。

――他選手については?

当然ながら簡単に外に出したくはありません。そして、昨シーズンからの戦力維持という観点で言っても、プレー時間の多かった選手、得点、アシスト、守備面でもいい数字を残していた選手を残留させられなかったことは自分の力不足として真摯に受け止めます。ただ、若くてJ1での出場経験が少なかったり、J2・J3から挑戦した選手も多かった中で、全員ではないとはいえ移籍金も伴って主にJ1クラブから評価されて移籍したという事実に関しては、我々が積み重ねてきたスタイルがある部分で評価されているという意味でもあると受け止めています。10年前に描いたクラブのコンセプトが、形になってきているということでもあると思っています。

海外にも足を運ぶ機会がある中でボルシア・ドルトムント/ドイツやアヤックス・アムステルダム/オランダへ行ったり、19年は特にベルギーへ行くことも多かったのですがRSCアンデルレヒト やKRCゲンクに注目しました。国内では優勝争いをしたり、チャンピオンズリーグにも出場するクラブなんですけど、同時にヨーロッパで屈指の育成型クラブでもあります。我々にも共通する部分はあり、トップチームからもアカデミーからもいかに選手を輩出できるかは重要です。視察して見聞きしてきたのは彼らが自分のアカデミー選手に多くの投資を行い、ヨーロッパ5大リーグでプレーする選手を輩出したことを誇らしく語る姿です。そして、それに応じてクラブ経営をしていく上で大切な移籍金の話も語ります。日本では選手が移籍すると「流出した」という表現がまだまだ中心かもしれませんが、例えば日本の大きなクラブからも海外へ挑戦することは必然です。日本は島国ですが、仮に大陸続きだったとしたらより活発だったでしょう。そういう世界のことも考えた時に何が重要なのか。だからこそアカデミーの育成であり、だからこそ選手獲得のスカウティングであり、アイデンティティ、スタイルであるというところを深く追求して築き上げられるか。それが必ずクラブの価値になる。海外を視察しながらそう再認識し、同時にこれから先どうしていくか本当に考えさせられました。

そして、仮に移籍金が手元に入ったとしても、その投資で有名な選手を獲得するのか、それともクラブの構造的な部分に投資していくのか。そこは本当にクラブごとの独自アイデアだと思います。考えることは無限なので、僕らもワクワクしながら考えていきたいです。

――「流出」という表現には金銭的な要素もあるのではないかと思います。クラブ経営にお金が必要なことは事実ですし、安定させる基盤を作っていく仕組みも絶対に必要です。そういう意味では言葉の表現上の話ではありますが、移籍金がゼロだったかどうかという観点も入ってくるのではないでしょうか?

センシティブな部分なのですべてはお伝えできませんが、利益だけで考えるならばより多く得られる方法があったときもありましたし、金銭的なことよりも引き続きともにプレーして欲しいという思いで強く慰留を求めたときもあります。また、表現という点で「流出」という言葉の意味を考えるならば、カテゴリーが上への移籍であればある意味で輩出と言える場合もあるかもしれませんし、逆に同カテゴリーでの移籍は流出と見える場合もあるのではないかと思います。ご指摘いただいた金銭的なお話にもお答えするならば、最近はゼロでの移籍は少なくなり、移籍金収入額が数年前と比較して多くなっているのは事実です。

ただ、大切なことは選手が移籍したことで得られる利益ではありません。大切なことはクラブも選手もともに成長し、正しいサイクルを維持できる構造を作り出すことです。

それらを理解した上で、いつも考えることがあります。プロサッカー選手って、人生において本当に短い期間でしかプレーできないんです。毎日努力を続け、その限られた時間を懸命に生きているんです。クラブも当然ながら同じように努力を続け、互いにいい条件といい目的を持って引き続きともにプレーしてもらえる努力をします。ただ、選手が新たな選択肢を得られたということは、しっかりと努力を続けて表現もできたからこそです。プロサッカー選手という仕事は本質的には個人事業主なわけなので、常にクラブと選手が互いに納得できる解決方法を見つけていくこが本当に大切だと思っています。ただ単にクラブだけが得をした、ただ単に選手だけが得をした。それでは業界全体も発展はしません。同時に業界という視点で言えば、フットボールのマーケットは国内だけではありません。世界がある中での国内ということを、より本質的に考えていくべきだとも思っています。

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