ヴォルティススタジアム

岡田明彦強化本部長、1万字インタビュー。

――この10年間、同時進行で大きなビジョンも常に考えてきたわけですか?

就任直後と比べると、僕自身もより深く考えるようになっていった10年間だったと思います。そして、その都度考えさせられることもたくさんありました。例えば他クラブに移籍する選手が出てきたときに、引き続き徳島でプレーする選手から「そんな簡単に選手を移籍させないで欲しい」という意見を投げかけられたときもありました。ときには「移籍金が入ったことが嬉しいんですか?」って問われたこともあります。そういった質問に対して、僕自身も「どうなんだろう?」と繰り返し考えてきました。でも、本当に本当に考えた上で、すごく僅差ですよ。すごく僅差ですけど「良かった」と思います。

――その答えに至った理由はなぜですか?

僕は選手全員に「徳島に来たら成長できます」、「魅力的なサッカーをして成長できるから力をかして欲しい」と誘います。それはいまも昔も変わりません。でも、残念ながら事実として全員が出場できるわけではありません。自分で「力を貸して欲しい」と誘っておきながら、年末に「ゼロ円提示」をしなければならない場合もあるわけです。そのときの悔しさ、申し訳なさは言葉で表現できません。その他の場合で選手が徳島を去るときは、評価をされて移籍するときです。その2つを考えると、やはり成長して評価されて移籍できたという事実は最終的には良かったと思えます。そうやって他から評価されて出ていく選手がいたとしても、我々は引き続き自分たちの持つ目や感覚を大切にしていく。そして、新たに獲得した選手に伸びるチャンスを引き続き与えていくこと。それがすごく大事だと思っています。

――感情的なお話もありがとうございます。そういった積み重ねかもしれませんが、記者が知る限りでは昔と比較するとオファーを断られる回数は少しずつ減ってきたのではないかと感じますがいかがでしょう?

どうでしょう。その質問に対しては適切なお答えができるかわかりませんが、明らかに変わってきたと思うことはあります。新たに入ってくる選手が徳島について抱く印象を言語化したときに、統一感は増してきた感じがします。オファーした際もどういうチームか理解してくれていたりとか、共通の言語が聞こえてきたりとか。まだまだ完璧ではないにせよ、以前よりも着実に浸透して濃くなってきた気はしています。

――選手獲得の際に、最近であればどのような言葉を耳にすることが多いですか?

「ボールを大事にする」、「組織的に戦う」、「攻撃的である」などは多いです。それはJ1で戦った昨シーズンのデータとしても出ていましたし、イメージだけではなくて少しずつ形にもできるようになってきたと思います。ただ、J1では攻守ともにペナルティエリア内の差は大きくありました。まったくできなかったわけではないですが、そこに順応するまではまだまだ時間がかかったなと感じています。それらも見据えながら、今後も編成をしなければいけないと感じています。

――逆に徳島が目指そうとしているビジョンの中で、まだ耳にできていない言葉はありますか?

「世界に」という言葉です。

例えば最近だと(藤原)志龍がポルティモネンセSC/ポルトガルに、ワディ(鈴木輪太朗イブラヒーム)がバレンシアCF/スペインに期限付き移籍したり。(渡井)理己がヴェイレBK/デンマークに練習参加したりということはありますが、ダイレクトで海外クラブへ完全移籍したり、期限付き移籍から完全移籍に移行した選手はいません。

仲介人や他クラブの選手からからも最近は「J1に多く行くクラブになりましたね」、「若い選手がいっぱい躍動するクラブになりましたね」とか、そういう話をされる機会は増えました。僕が強化責任者に就任した直後はそういうビジョンを話しても「何言ってるの?」、「言ってるだけじゃん?」って感じだけだったと思うと(苦笑)、変わってきたなとは感じています。15年に内田裕斗や広瀬陸斗を獲得したり、高卒の選手や20歳前後の選手を積極的に獲得するようになった頃から、いろんなイメージを描いてやってきました。まだ完璧なものはできていません。ただ、いまより先も見据えながら、アカデミーの育成や選手獲得のスカウティングも引き続きクラブとしての視点や考え方をしっかりもって進んで行きたいと思っています。

――「徳島=世界」というイメージはないんですね

残念ながら、まだないですね。

引き続き目標を描いて行動も発言を続けます。これまでも外国籍の指導者を招聘したり、外国籍のスカウトも加えたりだとか、ちょっとずつ種を撒いてはいるんですけどね。ただ、事実として「世界」というところはまだ実ってはいないです。それでも見えなくともそこに種を撒き続けることは必要ですし、続ける中で変化してくることもあるはずです。理己をシーズン中に練習参加させたときには「いまのタイミングで必要あるか?」ともしかすると賛否があったかもしれません。でも、そういう挑戦もする中で選手自身がいろんなことを意識して変化するきっかけにもなると思っていますし、理己で言えば1年目に苦労しましたけど2年目以降に飛躍していまでは徳島の10番を背負ってもらえる選手になりました。あくまで一例ですが、常に新しい挑戦は続けたいと思っています。

――根本的な質問です。仮に選手を世界へ輩出できたとして、徳島県民にはどう受け止めて欲しいという思いがあって挑戦されているのですか?

フットボールって本当にグローバルなスポーツだと思っています。徳島県の人口は約70万人ですが、その方々も徳島ヴォルティスを通じてもっと多くの人や世界ともつながっていけると信じているからです。そして、徳島県を世界にも発信できる。ときにアジアかもしれないし、ときにヨーロッパかもしれない。いずれにせよ徳島県が世界とどうつながっていくのか、徳島県の良さをどう発信していくのか。その方法のひとつとして、徳島ヴォルティスを通じて世界とつながっていく面白さや魅力を感じて欲しいと常に考えています。

本当にすごいスポーツなんです。いまは僕もコロナ禍でどこにも行けてはいませんが、いろんな所に行くたびにフットボールの話で人と人がつながれるんです。語学ができるとかじゃなくて。僕は世界に行ったときにもいろんな場所で徳島の話をします。話を聞いてくれた方が徳島に興味を持ってもらえる本当に魅力的なスポーツなんです。我々が暮らすこの街を、世界に向けてどうアピールしていくのか。それも併せて考えていかなければいけないと常に考えています。

――そういうビジョンの延長かもしれませんが、最近だとドバイで開催されたエキスポからインビテーションが届いたというお話もされてましたよね。他には徳島アカデミーがスペインやイタリアなどの大会にも招待され、世界有数のクラブとも対戦できる海外遠征も実施されていました。そういう機会にもつながっていると感じますか?

そうですね。そういう場所でも徳島のエンブレムが世界を代表するクラブのエンブレムと競い合えたというのは、選手にもスタッフにもいい刺激になったと思います。一期一会ですから。それぞれが実際に感じた経験というのは、この先にきっとつながっていくと思います。

繰り返しになりますが、目前の試合で勝つこと。そして、国内最高峰の1部に復帰することがメインです。ただ、それだけに捉われることなく、常に未来も見据えながら、クラブとして引き続きしっかりと前に進んで行きたいと思っています。

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