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【無料記事/今週の小平/コメント】「椋原健太の帰還」[2,940文字](2014/01/21)

◆椋原健太の帰還

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中村北斗と阿部巧がいなくなったサイドバックのポジションに入ってきたのは新加入の松田陸、そしてセレッソ大阪への期限付き移籍から帰ってきた椋原健太だ。

椋原には様々な属性と特徴がある。
今シーズンの実質的な補強と言えるレンタルバック組の一員として、羽生直剛や梶山陽平とともに上積みをもたらす戦力。
FC東京U-18からストレートにトップ昇格し、選手会長まで務め上げた、クラブ愛が如実にあらわれやすい生え抜き。
守備力が高くスピードとスタミナに優れ、右を本職としながら左でも高いパフォーマンスを発揮する、徳永悠平や長友佑都に連なるFC東京伝統のたくましいサイドバック。
こう書いただけで、いかにクラブと密接な関係にある選手かがよくわかる。

昨シーズン、FC東京U-18出身の選手で公式戦での活躍が目立ったのは、正ゴールキーパーの権田修一と短期間在籍した李忠成を除けば明治大学経由で加入してきた三田啓貴くらい。しかし彼にしても、リーグ戦での先発フル出場を果たした試合は三試合にとどまっている。
このオフには下部組織で育った選手たちが続々と他クラブへと移籍し、ファン、サポーターから不満の声が上がっている。
市場原理で動くプロの世界にあって、需要と供給が一致した結果の正当な移籍それ自体には非がなくとも、地域に根ざし、アカデミーでの育成に定評があり、生え抜き選手たちの加入が多く、ファンやサポーターがそれを支持してきたという経緯を踏まえると、感情的には納得できないのかもしれない。「言っていることとやっていることがちがう」と、齟齬を指摘したくなる気持ちもわかる。

そうした不満を一掃し、ファン、サポーターを納得させるには、いまいる下部組織出身の選手たちが、ピッチの上で結果を出すしかない。そうすれば、実力さえあればこのクラブで活躍できる、下部組織出身の選手たちで盛り上げることができるし、クラブもそれを阻害しているわけではないということの証明になる。

そもそも、実力がなければトップから直接昇格することすらできない。三田にしても武藤嘉紀にしても大学経由での加入だ。ユース上がりでトップにいるのなら、その時点で資質は備わっているということなのだ。そして椋原にも十分な資質がある。

 

 

◆生え抜きの力を東京に

 

浦島太郎とは言わないまでも、「セレ女」に溢れた舞洲で一年間を過ごしてきた椋原健太にとり、久々の小平グランドでの練習には感慨深いものがあるようだ。
椋原は言う。
「懐かしい場所だな、というのと。
メンバーもあまり変わっていないので、ぼくがいたときと。
ほんとうに戻ってきた感じがしました。この小平の“のほほん”とした雰囲気がすごくいいですし。(それというのも)向こうは女の子のファンが多かったので。ここは濃いな、と思いました(笑)。濃いなこっち、と。あっちはほとんど女の子です。すごい人数が来ていて。毎回大変でした」

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一昨年の選手会長や日本プロサッカー選手会支部長時代に獲得したものか、丁寧な言葉遣いで、「サポーターの懐かしい“みなさま”」と口に出してしまう椋原。その“みなさま”に「おかえりなさい」と言ってもらえて、すごくよかった――と、椋原は素直に喜びを述べた。
「去年悔しい思いをしたぶん、ことし、しっかりやりたいと思います。
キャンプにいいイメージで入り、初戦から開幕ダッシュできるように、しっかりチーム一丸となってがんばっていきたいですね。
ぜひリーグタイトルを」
一度身についたチーム全体を思う視野や感覚はなかなか離れないのだろう。個人のことを話そうとしながらも、主語が東京に移ってしまう。
椋原本人について話を戻してもらった。

今季、左利きの左サイドバックは太田宏介のみ。椋原にとっては右だけでなく左での出場も考えられる。過去にもクロスを上げるのに苦心しながらも左サイドバックのプレーをまっとうした椋原だけに、可能性はあるはずだ。
「(右、左では)もちろん右がやりやすいですけど、左でやれと言われたら別に左でもいい。昨日は右、きょうは左と、交互にやっていますから、どちらでもいい。こだわりはないです。
キャンプをやりながら……監督も変わっていますし、まだどうなるかわからない。
監督は前のFC東京の試合は観たと思いますけど、ぼくのことは(昨シーズンは期限付き移籍をしていたので)たぶん知らないと思うから。その辺をキャンプでしっかりとしていけたらと思う。まだそんなに右、左とこだわっていません。
すなおにからだが動くんですよ。オフが長かったので(笑)、こちらとちがって。まずはたくさんボールにさわって、たくさん動いてというのをしたいと思いますけどね、キャンプで」

昨シーズン、椋原がリーグ戦で得た出場機会は4試合153分間のみ。しかしセレッソ大阪という、ユース出身者が華々しく活躍するクラブに在籍して感じ入るものがあり、それがいまの考え方に影響を及ぼしている。外からFC東京を見つめた一年間は、決してむだな時間ではなかったようだ。
「このチーム(東京)にはすごい選手がいてめんどうくさいなと(セレッソの)みんなが言っていましたし、ぼく自身も思いました。それだけのポテンシャルが(東京には)あると思います。年齢のバランスを見てもすごくいいと思うから、いまがチャンスなんじゃないかなと、すごく思います」

柿谷曜一朗や南野拓実をはじめとして下部組織からの昇格組が得点を量産するセレッソに比べ、東京は「買うクラブ」としての側面が強くなり、下部組織出身の選手が目立たなくなってきている。ここに一石を投じるのも、生え抜きの責務だろう。
「大竹洋平が移籍したりして、去年の試合を観ていて下部組織出身の選手が少ないなと思っていました。ほんとうに権ちゃん(権田修一)しかいなかったから、ぼくだったり梶くん(梶山陽平)だったり、吉本(一謙)くんだったりヒデ(野澤英之)だったり、そういう下部組織の選手がもうちょっと絡んでいったほうがチームのためにもいいと思います。それはやっぱり、向こうのチームにいて思ったことです」

セレッソ大阪U-18から上がってきた選手が戦力的にトップチームを強化し、コアサポーターを喜ばせ、新規のセレッソ女子をも惹きつける好循環がセレッソ大阪にはある。その輝きを東京にももたらしたいという思いが強くなってきている。
「そういうことがあるとサポーターもすごく盛り上がれるし、チーム愛がよけいに強調されるというのはセレッソにいて思ったことだから。ぼくたちはもっとがんばらなきゃいけないと思います。
やっぱり活気づくし、盛り上がる。セレッソだとスタメンの半分以上がセレッソのユース出身者で、みんなわくわく楽しみながらやっているし、あの雰囲気はすごくよかったなと思います。それをFC東京でやるためにも。
タマ(三田啓貴)もユース出身みたいなものだし(FC東京U-18→明治大学)、みんなでがんばっていきたいと思います」

青赤のエムブレムにより光を与える選手たちの一群に、生え抜きの選手がいてほしい。そうしたファン、サポーターの期待を先取りした椋原の意識が、今シーズンの躍進を加速させる。

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