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【無料記事】映画『ユルネバ~キミは一人じゃない~』世界最速Review(2015/02/06)

joueikai

 

無料記事◆映画『ユルネバ~キミは一人じゃない~』世界最速Review

こういうことを書くと一定の反発が起こると承知のうえで書くと、植田朝日は天才かもしれないと思ってしまった。

それにはいくつかの理由がある。で、それらが単一ではないところも理由だ。何かひとつの変わったことならやっているひとがたくさんいるはずだが、いくつもあってまとまっている。

ふだんはこういうネット界隈でいろいろこじらせたような人々が書く論評をすることはほとんどしないのだが、珍しくそうしてみたい気になりました。文体がいつもと異なりますが、あまり気にしないように。

順を追って話そう。
2月5日木曜日の夜に関係者向けの上映会があったので、調布に出かけ、植田朝日監督作品、映画『ユルネバ~キミは一人じゃない~』を観てきた。この作品はヨコハマ・フットボール映画祭2015、愛媛フットボール映画祭2015、東京国際フットボール映画祭2015に出品される。

公に初お目見えするのは8日だが、初号上映会の直前まで編集がおこなわれていた。オトナの事情というやつで、権利に抵触しないよう、手を入れる必要があったからでもあるらしい。だから、聴こえてくるべき何かが聴こえてこないシーンもある。でも、この映画はそんなこまかいことは気にしない。ワカチコワカチコ。

気にしなさすぎてFC東京が降格する2010年後半という舞台設定にそぐわない何かがちらほらする。これらの気づいた問題点は映画祭までに修正していくという。
こまかいことは気にすんなと言いつつ、じつは、そうした微調整はしつこいほどやっている。観ていて何かに違和感をおぼえることはほとんどないのではないか。

ストーリーはいたってシンプル。
貧乏暮らしのゴール裏青年「トキオ」が、ごくふつうの価値観を持つ美女の「ヒロミ」と恋仲になる。しかしサッカー応援にどっぷり浸かっているトキオとヒロミでは隔たりが大きく、仲が進展しない。ふたりの恋は成就するのか。

ただし、トキオが問題だ。
自分でサッカーをやっていてたまに日本代表の話をするほかは、きちんとした会社に務めている男であれば、ヒロミとすんなり関係を深めたかもしれない(あるいは、引っ掛かりがなさすぎて、知り合うことがなかったかもしれない)。
しかしトキオは週末、サッカーの応援に出かけるために、夜通しのバイトに就く非正規雇用労働者である。しかも代表には目もくれずJリーグのなかのいちクラブであるFC東京をこよなく愛し、ライバルのクラブカラーである緑のいっさいを拒絶する、コアなサポーターだ。

サッカー好きと一般人ではそれだけで隔たりがあるのに、Jクラブのゴール裏に棲息する人間ともなれば、これはふつうの人々からすると異界の者に等しい。

おりしも時はFC東京が降格寸前に追い込まれた状況。すべてがいっしょくたになり、シーズン最終節の決戦とその後に向かって動いていく。

で、結局のところ、

なんでそんなにサッカーが好きなの?
それもメッシがいるわけでもない日本のいちクラブが好きなの?
どうしてほかのことを犠牲にしてそんなにサッカーどっぷりで応援にのめり込むの?

という疑問に対して、どう答えるかが問題なのだが、この映画は「感じてみればわかるんだよ」みたいな言い草に逃げることなく、なぜファン、サポーターが、ひとつのクラブを愛するのかを、そうではないふつうの人々に伝わるように、客観的に、フラットに捉え直したうえで、きちんと訴えている。

青赤に染まった人間が、緑色のもの、よみうりやヴェルディ関係すべてを拒絶する態度を笑う対象にしながら、それでいて自虐や卑下には陥っていない。

ゴール裏のウルトラが映画を撮った、と聞いて、どう思うだろうか。
フーリガンふうの超野蛮な世界を肯定するか、ゴール裏とはかくあるべし論を展開するか。そのほかいろいろと想像はできるが、狭く偏ったものだったり、堅苦しかったり、逆にゆるすぎたり、ろくでもないものになるかもしれないと思ってしまうのではないか。

『ユルネバ~キミは一人じゃない~』はものすごくまっとうな映画だった。
サッカー好きの本質に迫るには、一度、マイクラブを愛する人間の姿を描かなくてはいけない。そのためにこの映画にはFC東京のファン、サポーターにしかわからない言語や人物が頻出する。

しかし、それでいいのだと思う。わからないから興味を持つのだ。

し、FC東京のファン、サポーターに固有のものは、表層を入れ替えれば、他のクラブのファン、サポーターに固有のものとかなり似通ったところがある。JリーグとJクラブを(JFLより下のカテゴリーの企業チームやクラブチームの支援者でさえ)愛する者なら、自分の身に置き換えれば理解できる内容だ。
「FC東京あるある」は「◯◯あるある」に転換可能なのだ。

いまだかつて、これほどJリーグとJクラブと日本のファン、サポーター気質を正確に描き、かつ「サッカー村」の外の人々に対して発信できる映画はなかった。それだけは断言できる。これはすぐれたフットボール映画だと思う。

演技力を技巧の面に絞れば、かなりのばらつきがある。
芸達者な舞台俳優、お笑い、アイドル、素人のサッカー応援者が混在しているのだから当たり前だ。
ところがこれが、現実にある一人ひとりの個性のちがいに近い差異を描き出すことに結びついている。

一定の演技力でキャストを揃えた映画とは異なる肌触りがある。そして笑いを盛り込み、つくりもの感をこれでもかと醸しだしておきながら、ドキュメンタリーのようなゴツゴツとした感覚がある。

ブレッソンやタルコフスキーあたりから漂う、作家肌の監督が呻吟して生み出した映画の説得力をすっ飛ばして、芸術映画ともエンタメ映画ともいわゆる日本の映画とも異なる何かができた。ような気がする。

8台のiPhoneで撮った映像がなじんでつながり長篇映画になったところを観たのは初めてだが、これもなんとも言えない雰囲気がある。フイルムかデジタルかという議論とは関係のないフィールドで、やりたいこととできることを最大限にやりきった感がある。

スクリーンで観たせいで興奮しているのかもしれない。
でもPCで観てもそれなりにおもしろそうだ。編集中のものをちらっと観ただけでもおもしろかった。

今後、賛否両論あるだろう。どんな反応が生まれるか、とても楽しみだ。

なおエンディングクレジットでは、クラウドファンディングでこの映画を支援したとある選手の名前もわかります。
あと、応援指導のクレジットには、東京界隈でよく見かけるキャリアの長い応援者さんの名前がありました。

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