【無料記事/オフ企画】ネイサン バーンズとFC東京をめぐる伴和曉の冒険<2>(2017/07/12)
プレーヤーとしての伴和曉が掲げる目標は日本代表選手になるということだった。これは決して大言壮語ではなく、サッカー選手ならば可能性があるかぎりは頂点をめざして努力をつづけるべきであるというポリシーの具体化と捉えるべきだろう。
その目標を達成できそうにないという実感も、通訳としてのFC東京への加入を促す要因だった。
「29年間の人生のうち、28歳になろうという年に移籍を考えたんですけど、そこで自分が思えがくキャリアに行けないと。ぼくはちいさいときからずっと“代表”というところをめざしてやっていました。加藤(恒平)くんがこの前(6月)日本代表に入りましたけれど、彼とヨーロッパでいっしょにやったことがあるぼくとしては、彼がひとつの夢を叶えたことはすごいと思います。彼はほんとうにすごく地道にキャリアを積んで代表にたどり着いた。ぼくも彼みたいなキャリアを思い描いていたので、何歳のときにここにいなければいけないのか、30歳になったときにこのくらいのレベルにないと代表に行けないだろうなという自分なりのものさしがあったので、そこをめざさなくなったときに自分はプレーヤーではなくなるんだろうなという思いはずっとちいさいときから抱いていました。だから28のときになかなかアメリカでの所属先が決まらず、Jでもなかなか決まらなかったときが、一回(選手としての日々から)離れる時期だったのかなと、いま思うと、そう思いますね」
声がかかったのが東京だったということにも、現役からの一時離脱を決意した理由の一端はある。この青赤のクラブは伴にとってもともと身近な存在だった。
「FC東京というクラブにも惹かれました。ぼくはもともと東京出身なので。高校もそこの(小平グランドの)前にある錦城高校なんですよ。育成年代では横河武蔵野FCで育っていましたし、東京のようなクラブから声をかけていただいたのはうれしいことでした。ちいさい頃からずっと味スタに通ってずっとサポーターとして観ていたチームなので、梶山(陽平)くんのプレーは憧れて観ていました」
ポジションが自身と同じボランチ。では彼のプレーを参考にしたのかと言えば、そうではなかったと伴は答えた。
「プレースタイルと感覚がちがいすぎて、参考という感じではありませんでした。ぼくが日本でいちばん参考にしたのはいまベガルタ仙台にいる富田晋伍ですね。ヴェルディユース出身で、年齢はぼくよりひとつ上なんですけど、小柄で、ボールタッチに優れていて、パスを出したあとすぐサポートに行って。あのひとはほんとうに身体能力には恵まれていないですけど、テクニックと状況判断で生き残っているすばらしい選手だなと思います。それから、宮沢正史さんの左足のサイドチェンジがぼくはすごく好きでした」
フィジカルに頼らず、サッカー頭のいい選手が透徹した意識でゲームを動かしていくさまに惹かれた。
「ぼくは自分がそのレベルに行けたとは思いませんけど、観ていて『この選手は頭がいいな』『センスがすごいな』と思うプレーを意識していました。能力だけでは生き残っていけない。能力だけで生き残ってこられる選手はいいんですけれども。
海外まで含めれば、ことし引退したシャビ アロンソがずっと好きで、いちばんの憧れでした。その影響でずっとロングキックの練習をしていました。ああいう選手がひとりいると、チームは落ち着くことができますよね。ぼくはまだ東京に在籍して2シーズンめですけど、ウチ(東京)にはそこが足りないんじゃないかと思いますし、たぶん梶山陽平はそういうもの持っているんじゃないかと思います」
残念ながら梶山はすべての試合に出場できる状態にはない。東京に欠けていて、他のチームにはあるそれを、伴は連敗期間中に味わうことになる。
「ことしそれ(状況判断に長けた中盤の不足)を実感したのはジュビロ磐田との試合(J1第16節、6月25日)でしたね。中村俊輔という、ピッチにもうひとり監督がいるんですよ。なんというか、あのサッカーをわかっている感じに衝撃を受けました。
試合の前に名波(浩監督)さんが言ったことの影響力がどうしても試合中に及ばなくなってくるときがある。そこが、中村俊輔がいるとちがいますよね。ほんとうに監督のことを理解して体現してくれる、選手兼監督みたいな選手がいると。結局は、鹿島アントラーズには小笠原満男。川崎フロンターレ、には中村憲剛がいる。
いちばんうれしいのは、サッカーを知っているひとに『いい選手だね』と言われることです。そういうファンの方々が増えてくれると、そこ(ボランチ)をやっている選手はすごく喜ぶと思います」
<つづく>
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「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
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「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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