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【無料記事/オフ企画】ネイサン バーンズとFC東京をめぐる伴和曉の冒険<3>(2017/07/16)

契約満了で東京を去る小平最後の日、取材に応じるネイサン バーンズと伴和曉。

2015年、ネイサン バーンズは専門の英語通訳がいない環境で半年間プレーしたが、2016年になり、サッカーにも英語にも精通した伴和曉がFC東京に加入すると、いよいよ態勢が整う。しかしサッカーの現場で英語を使いこなしていた伴にしても、通訳という立場ははじめて。すぐにスタンスが定まったわけではない。
「最初はぼくもどういう立ち位置を取ればいいのかがわからなかった。会社であれば新人社員研修に相当するものがどのような仕事にもあるわけですけれども、サッカー界には『こうするんだよ』という研修期間がほとんどないので、自分で学び取っていくしかない。さいわいにも、ぼくには飯野(一徳)さん安(竜鎮)さんという(通訳の)先輩方がいてクラブとしての歴史もありますから、ある程度のノウハウがあり、ゼロからのスタートではなかったんですが」

伴はバーンズをいち個人として尊重しながら接していた。
「バーンズに関してぼくができるだけ意識したのは、彼がサッカーに集中して取り組みやすい環境をつくること。だからいつもべったりと傍にいるのが最善だとも思いませんでしたし、彼には彼のパーソナルな時間とスペースが必要だった。ぼくにもそうです。たとえば試合前に、ほんとうに会話をしたい選手もいれば、音楽を聴いて集中したい選手もいる。なによりも彼は人間的にいい選手なので、常にぼくのことを思ってくれましたし、ぼくも彼のことをサポートしたいと思っていました」

2016年、バーンズがシーズン初先発、初出場、初ゴールを果たしたJ1ファーストステージ第7節vs.川崎フロンターレ戦の頃から心の距離が縮まったと伴は追想する。
「言葉がなくても思いが伝わるようになったのかなと思います。枠の関係で試合中ベンチに入れないこともあるので、直接指示を出せないときもありますけど、常に彼はピッチの外にいるぼくの位置を気にしてくれるようになりましたし、ぼくもボディランゲージで指示を出したりとか(笑)、ふたりでサインを決めてやりとりしたりしながら、意思を伝えていました」

バーンズは代表選手ではあるが、ハリウッドスターのようなふるまいをしないしそういう立場でもない。身ひとつで海外に挑戦し、苦労し、異国の地になじみ、感情移入の度合いを深めていったという意味では、カンボジアに身を投じた伴にはバーンズと似たところがあったし、その事実によってより互いの理解が深まった側面がある。
「そこはありますね。ぼくは海外に7年いたのですけれど、やっぱりそのおもしろさもあると同時にたいへんな部分ももちろんある。外国でサッカーをして暮らすということのストレスもありますし、言葉が通じないだけでもストレスを感じる。ぼくには通訳がいなかったんですけど、そういう経験があったので、できるだけ彼のストレスをなくしてプレーに集中させてあげたいと思いました。また、彼には助っ人という立場があります。バーンズも実感していたと思いますけど、日本人選手と同じプレーをしていても試合には出られない。そこに葛藤があったでしょうし」

クールな外見をしている伴だが、非常に感情豊か。自分が携わる仕事や関わる人々には深い思い入れが生じる。
「ぼくの悪い癖なんですけど、感情移入しすぎてしまう。たとえば同じポジションの選手が活躍すると自分のチャンスが減っていくじゃないですか。ほんとうはそう思いたくないですけど、その選手がミスをしたら自分にチャンスが来ると、現役の選手だったときのぼくは、自分が試合に出られないときにそう思ってしまったこともあるんです。そうしてそういうのは嫌だな、そういう思いをすることもなくなるかなと考えて東京に来てみたら、今度はちがう立場で似たような思いをすることになった」
バーンズ個人に専従している伴にとっては、バーンズ=自分の公式が成り立つ。バーンズが活躍すれば伴には喜びがもたらされ、バーンズが試合に出られなければその寂しさ、悲しさに感応してしまうのだった。
「チームが勝つのはうれしいんですけど、彼が試合に出られないときは悔しい思いにかられることになってしまいましたね。喜びをおぼえつつも、フォワードが点を獲らなければバーンズにチャンスが来るなと思ったこともありましたし、そう思ってしまう自分も嫌でした。去年は葛藤の日々がつづきました」

出場から遠ざかれば、どんなに強い精神の持ち主であっても、一定程度気持ちは落ちるだろう。バーンズももちろん元気がないときはあったが、それでもキレたり腐ったりするような気配は薄く、努力を継続し、試合から遠ざかっているわりにはむしろ穏やかに見えるときが多かったのは、バーンズ自身の日本への馴化、そして伴との友情が作用していたのではないだろうか。
「ぼくが彼にいちばん強調して言ったことは――サッカーでは監督の言うことを聞かないと試合に出られないこともある。でもバーンズはやっぱり代表の選手で、積んできたキャリアもあり、18歳や19歳の若手ではない。だからどうするかは君自身で決めるべきだ、と。監督やコーチの求めていることは全部伝えるけれど、君がやりたいようにすればいいと言っていました」
監督やコーチの要求を噛み砕きつつ自らが得意とするプレーを出していくにはどうすればいいか、バーンズはメンバーに入らないときも、自分なりの研鑽を積み重ねていた。

バーンズは2016シーズン、J3リーグで3試合258分間の出場記録を残している。そして伴がおぼえているかぎり、それらはすべてバーンズが自ら志願しての出場だった。
「ほんとうにプロフェッショナルな選手だなと思います。試合から遠ざかり苦しい状況だった秋、アウエーの広島戦(10月1日、J1セカンドステージ第14節)で9試合ぶりに出場したあの試合がぼくのなかでは忘れられない。あの頃からバーンズは今シーズン(2016)でいなくなるだろうと感じはじめていたので、もしかしたらこれが彼とやる最後の試合かもしれないと、去年の最後は一試合ごとにそう思いながらともに戦っていました」

<最終回につづく>

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

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