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【無料記事/ルヴァンカップ準々決勝第2戦第2報】哲学を示せなかった青赤軍団。ブーイングにも値しない試合(2017/09/04)

◯ノーリアクショ

9月3日、FC東京はホーム味の素スタジアムでルヴァンカップノックアウトステージ準々決勝第2戦に臨み、川崎フロンターレに1-5で敗れた。第1戦との2戦合計スコアは東京1、川崎7。このラウンドをもって大会からの敗退が決定、今シーズンの無冠が確定的になった。

2点ビハインドでスタートし、無失点のまま2点または3点を獲らなければいけないゲームプラン。先制点を許すとゲームプランはくるい、かろうじて連動していた守備はバラバラになった。
ゴールキーパーの林彰洋は失点をする前も「プレスが嵌っている感触はなかった」と振り返った。たしかに試合開始から20分間ほどはフォワード、ウイングバック、インサイドハーフが連携して相手をサイドに追い込んでいたが、川崎と相互に球際でガチャガチャと音を立てるようにもつれ、競ってはいたものの、奪いきれてはいなかった。

3失点を喫した時点でブーイングが発生していた。前半の最後はボールを持ったままフィニッシュに動けず主審に終了の笛を吹かれた。試合後のゴール裏は早々に横断幕を撤収し、選手たちが訪れても無反応。
橋本拳人は「きょうはプレー云々ではなく、申し訳ない、恥ずかしい、悔しい気持ち」と、声を絞り出した。

◯どう振る舞うのか

試合後の共同記者会見で篠田善之監督が総括を終えても、なかなか質問の手が上がりにくい。そこで、失点してから後半ようやく攻撃に転じ出すまでの選手の心理状態をどう思うかを訊ねた。
具体的には、以下のように質問した。少々長いが書き留めておく。
「川崎が後半に2点を獲り攻撃が鎮静化、東京も選手を交替して、機能を取り戻したのはわかったんですけれども、そこまではほぼ試合が決してしまったときの選手の心理状態が、負けを受け容れられていないように映りました。こういう結果が決まっているときのような試合だと、どう振る舞うかが重要だと思うんですけれども、そこの準備がちょっと足らなかった気がしたのですが、監督としてはどのように思いましたか」

先に1点を失った段階でFC東京の準決勝進出の可能性はかぎりなく低くなった。そこから4点を獲らないと勝てないからだ。川崎がこの試合2得点、3得点なら、東京には5点、6点が必要だった。
実質的に勝てないことが決まったからと、半ば試合を投げ出したような醜態を晒していいはずがない。しかし東京にはそうなったときの“次善”がなかった。

これが風間八宏や大木武の指揮するチームであれば、何点獲られようがひたすら攻撃して点を獲り、負けるにしても6-4くらいのスコアで華々しく散るだろうし、プレッシングとカウンターを志向するたぐいのチームであれば、ファウル覚悟のプレスでなんとかしようとより球際にこだわったサッカーでそれ以上の失点だけは食い止めたかもしれない。
勝てないなら、次の段階で「せめてこれだけはやらなければ」と、やるべきことがあるはず。そしてリスクを負って攻めていたからには、かなり高い確率で目論見が外れて先に失点してしまうだろうことも予測できていたはずだ。
しかし、いざそうなったときの心構えはできていなかったのではないか。その様子は監督からどう見えたのかを知りたい。そんな意図での質問だった

篠田監督は答えた。
「あっさりではないですけれども、先に1点を獲られたことによって、選手たちは少し動揺したと思います。落ち着けという言葉は言っていましたけれども、その後に2失点してしまったことでより前がかりになりましたし、よりスペースを与えてしまった。そこで少しチーム全体が切れてしまったかなというところは、たしかにあったと思います。それは誰が見てもそうでしたし、そこ(0-3)から6点を獲らなければいけなかったので、非常に難しい得点数ではありましたけれども、まずは失点をしないこと、あるいは1点を奪うこと、その作業に全力を注いでくれと、ハーフタイムに言いました。そんななかでも、また失点をしてしまったので、スペースを消すためにいろいろな作業をしました。落ち着いてから相手がストップしたこともありますけれども、そこからの攻撃のリズムとかかたちはあまり見せられなかったと思いますし、結局、(大久保)嘉人が下がってゲームをつくるようなかたちになったと思うんですけれども、そこはフロンターレと2ゲームやってこの差なので、何も言い訳できないと思っています」

トータル0-5になっても試合はあと45分間残っている。「まずは失点をしないこと、あるいは1点を奪うこと、その作業に全力を注いでくれ」という篠田監督の言葉は正しい。それが、その段階でできる“次善”だからだ。しかし選手はそれを実行できなかった。
一矢報いるというのは1点を獲れという意味ではない。2点獲ってもよかったが、奪い返したのは最後の1点だけ。ブラジルがドイツに敗れた2014FIFAワールドカップ準決勝“ミネイロンの惨劇”を思い起こさせるゴールだった。
もっとも、東京自身、2007年10月28日のJ1第30節で川崎に0-7で敗れている。そのときよりマシなスコアなのだが、このルヴァンカップの1-5の敗戦のほうがむごたらしく感じるのは、一にも二にも、プランどおりにできないことが確定した失点を前にうろたえ、勝利を収めるかわりに何ができるかを、ピッチ内で示せなかったからなのではないか。

キャプテンマークを巻いた吉本一謙に、無反応だったゴール裏について訊ねると、こう答えられた。
「観ているひとたちからしたらそういうゲームだったと思う。自分たちはそれを受け止めないといけない。終わったことは取り返せないので次に向けてやるしかないとは、口で言うのはかんたんですけど、自分たちがここからどうなっていくのか、チームとしても、個人としても、残りの試合で問われていくシーズンになると思う。自分を見失わないように、いろんな気持ちがありますけど、自分を見失わず、チームの方向を見失わないように、なんとか立ち直れるように、みんなでやりたい」

「バラバラだった」「自分のサッカー人生、悔いのないようにやっていきたい」という言葉もあった。吉本のように考えている選手がいるなら、それをプレーで示せるようにならないといけない。

試合には勝ち負けがある。敗れることがあり、点を獲られることがある。それは当たり前のことだ。もし、監督や選手が責めを負うとするなら、それは敗れたことや点を獲られたことではなく、敗れるときに誇りある振る舞いができなかったことについて、だろう。

哲学の不在。どう振る舞うべきかという哲学が東京にはなかった。その状態を見せられてもどう反応していいか、応援する側も困るだけだろう。
試合の内容や結果をサッカーとして批判する次元ではなかったので、ファン、サポーターは、最後はブーイングをしないという態度で、ものの見方、考え方を示した。応援者、観戦者には哲学があった。「意地見せろ」というシンプルなコールにも、メッセージは込められていた。

東京はまず、勝つとか負けるとかではなく、自分たちはどう振る舞うべきなのかという哲学を持つところから始めなくてはいけない。参考にするなら、スタンドを見ればいい。そこに答えがある。

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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◆書評
http://thurinus.exblog.jp/21938532/
「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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