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【無料記事/安間貴義“暫定”監督体制初日第1報】安間東京、苦難への船出(2017/09/12)

ミーティングを終えて天然芝のコートに姿をあらわした選手たちはジョッグから9月12日のメニューに取り組み始めた。室屋成はランニング中心の別メニュー。ゴールキーパーはグループで専門のトレーニングに臨んだ。ワールドカップアジア最終予選のウズベキスタン代表vs.韓国代表で負傷したチャン ヒョンスも全体練習に入った。

3vs.1のボール廻しのあと、2グループに分かれてのペース走、4グループに分かれての4vs.2のボール廻し。中村忠コーチから「お互いを見てね。誰かが入ったら、誰かが出る」と声がかかる。最後は2チームをさらに3カ所に分けての、スモールフィールドでのコンパクトネスを意識したミニゲーム。
安間貴義監督にグリッドの広さを訊ねたところ、答えは「私の歩幅でヨコ22歩、タテ33歩」。この狭い長方形の内部で選手が躍動した。ピーター ウタカ、大久保嘉人、梶山陽平、丸山祐市といった、ここのところストレスを抱えているように見えた“巧い”選手たちに笑顔があり、声が出る。少しずつ動きながらボールを運びパスを出し、瞬間的に次を予測しながらゴールに向かう連動性が自然と生まれていた。

監督が更迭される寸前のチームでは、監督の声だけが響き「笛吹けど踊らず」となるのはよくあること。同様に、監督が交替したばかりのチームでは、雰囲気がリフレッシュされて笑顔がこぼれるようになるのはよくあることだ。そして監督交替という、いわゆる“カンフル注射”の効果は、必ずしも根本的な解決に結びつかない。だからこの光景が吉兆だと断言するつもりはないが、事象として雰囲気が好転していたことは確かだと伝えておきたい。

「サッカー観はひとそれぞれですが、ストレスを抱えてやるひとが少ないほうがいいとは思う」(徳永悠平)
「練習はおもしろくなると思います。ボールを動かす練習が増えるんじゃないかな」(小川諒也)
「ミニゲームの雰囲気はよかった」(鈴木喜丈)
「そういうものを求めている選手ばかりだと思います」(岡崎慎)

“クローズ”時代のヴァンフォーレ甲府を想像すれば、狭い範囲で強く速いパスが飛び交い、前進するサッカーへと傾斜する予感が漂う。そうなれば、とてもアグレッシヴだ。

ルヴァンカップグループステージ準々決勝第2戦の途中にピッチを退くときに「ゆっくり歩いた」として指弾された梶山陽平は、心なしか重石がとれ、いくぶんしなやかになっているように映った。度重なるけがで10代の頃よりも可能なプレーが制限されている梶山は観る度に痛々しい存在だったが、つかの間心身の枷を忘れたのか、ミニゲームを純粋に楽しんでいるようだった。
「雰囲気──先週よりは全然よくなってますけど」
梶山は苦笑いだった。
「先週は何をやるかがはっきりしなかったから。どんな練習に取り組んでも、この練習が次の試合に向けて意味を持つのか? みたいな雰囲気になってしまっていた。そういう意味では、次節に誰が出るかも決まっていないし、(きょうは)若手も含めて集中していた。いい切り換えにはなったのかなと思います」
それが本質的な解決にはつながらないのかもしれないのでは? と水を向けると、梶山は半分だけ同意しながら、この切り換えに意味はあるというニュアンスの答えを繰り出した。
「安間さんがやろうとしていることがミーティングで“バーっ”とですけど説明され、そのなかに『ポゼッションをベース』というくだりがありました。選手同士で話しているなかでは、そのほうがいいという意見が多かった。みんながやりたいサッカーになったことで、あとは選手がそのやりたいサッカーを、責任を持ってやるだけだと思います」

選手の責任について梶山が言及したことは興味深い。選手のプレーに対してフレームを設定するのは監督で、監督が運用するチームを編成するのは強化部で、強化部にミッションを与えるのは社長で、社長に権限を与えるのは──と、辿っていけばそれぞれに責任が生じる。今シーズン、ここまでチーム状態が悪化してしまったことに対するフロントの責任は大きいが、実際にボールを扱いピッチを走る選手に責任が微塵もないわけではない。やりたいサッカーに取り組む権利を付与されるかわりに、そのサッカーでいい表現をする責任が選手にはある。やりたくないサッカーだから結果を残さなくていいというわけではないが、選手の志向にマッチするサッカーを採ることで、言い訳をする退路を断ったとは言えるのかもしれない。

それにしても練習中の笑顔が印象的だった。
「ぼくのチームは、きょうはウタカとヨシトさんとマルで、そういうのが好きな選手たちだったので、やりやすいということもありました。守備が得意な選手がいるにしても、守備は誰でも(やる気があれば)がんばることができるものでもある。そのあとボールをつなぐところが、やっぱり楽しいし。誰が出るかわからないですけど、いい組み合わせを見つけてできたらいいと思います」

選手の能力が発揮できるか否かは、戦い方もそうだが担当するポジションへの適性にもよる。一度選手選考がフラットになったいまの段階では、まずはトレーニングで選手のよさを引き出しながら、次節の相手に対して最適で、自分たちの戦い方とポジションにも最適な選手を選んでいくことになるのだろう。

3バックの採用を明言した安間監督は、太田宏介と小川諒也が競う左ウイングバックを例にこう言った。
「基本的には勝てる選手(をスターティングメンバーに選ぶ)。みんなそこを期待しているし、(指揮官が)ぼくになった時点で世代交替をしていかなくてはいけないと思う」
しかしそれはフェアな競争と実力の証明があってこそだ。前節、期待どおりのプレーができなかった小川をそのまま次も起用するというのは筋が通らない。また、若手が台頭してきたからといって、太田が自ら引くことを考えるべきでもない。そういった趣旨を、安間監督はミーティングで訴えたという。
「このあいだの試合後、ロッカールームに戻ってきた(太田)宏介がスパイクを投げつけたんです。彼がそこまで感情を出すのは、この三年間で初めて見た。こいつにも熱いところがあるんだ、と。ポジションを獲らせるにしろ、(小川)諒也に奪われるにしろ、競わせる場所は用意しないといけない」

二年連続で監督が途中交替。失敗に位置づけられるシーズンの終了後、現在のフロント、スタッフ、選手がどれだけ残るのかわからない。それは安間監督も同じだろう。「9試合のあとに、ぼくの椅子はないんですけど」と、“その後”を匂わせた。
しかしその言葉のあとにはつづきがあった。
「この9試合を無駄にしてはいけないと思う。もう一度顔を上げて、サッカーに対して向き合う時間を持ってほしい」

底が割れた状態になってしまった現在のチームを立て直すことは誰の手腕をもってしても困難であり、安間監督が指揮を執るから急に勝てるようになるなどと生易しいものではないはずだ。川崎フロンターレとセレッソ大阪に敗れた二試合の内容は、変えようがないほど惨憺たるものに思えた。
しかしたとえ一試合、二試合が経過してうまくいかなかったとしても、安間東京がフラットな選手選考をやめ、挑戦を諦めることはないだろう。安間監督は現場でできるかぎりのことを尽くそうとしている。その一点のみを信じ、私は安間監督を支持しようと思う。

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

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