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【無料記事/J1第26節Preview第2報】安間東京よ、怖れずにエッセンスを滲ませていけ(2017/09/15)

9月14日の髙萩洋次郎。骨の髄まで東京であるかのようなコメントを発した。

韓国語を解し、ユ インスから兄のように慕われる髙萩洋次郎。彼の歩んできた道のりのすべてが現在に反映されている。

たとえばFC東京U-18の佐藤一樹監督には、過去のキャリアに於いて横浜フリューゲルスやサンフレッチェ広島を通過するごとに獲得してきたものがあるはずだ。そしてそれが3-4-3の採用や球際へのこだわりに直結していなかったとしても、なんらかのかたちで現在の指導内容やチームづくりに影響を及ぼしているのはたしかなことだろう。

佐藤監督が広島に選手として加入した2004年は、当時高校三年生の前田俊介、高柳一誠らがサンフレッチェ広島F.C.ユースに在籍していた。同じ高三の髙萩は既にプロ契約を交わし非凡な才能を発揮していたが、現在のように守備に対するこだわりを見せていたわけではなかった。その落差に、佐藤監督は感慨深げだ。

ウエスタン・シドニーで戦ったAリーグ、FCソウルで戦ったKリーグ自体、激しいフィジカルコンタクトを伴うものだったが、国を背負って戦うACLの舞台はさらに熾烈であり、髙萩はその真剣勝負に挑むなかで、とにかく結果が必要であることを学んだ。それはおそらく、物理的に球際に激しく行くということだけではない。

篠田善之前監督の退任を決める試合となったvs.セレッソ大阪戦のあと、髙萩は「ネガティヴな雰囲気が強いので、選手だけでも前向きに思い切ってプレーしなくては。そうすれば、周りのひとたちにも伝わると思う」と、気丈な言葉を発していた。
試合中、セレッソのスタッフがなにやら審判に詰め寄ってプレーの再開が遅れていたときは、ピッチサイドに駆けていき、再開を促した。とにかく勝つために必要なことをなそうと、髙萩は躊躇なく動く。心が折れる様子は一向に見られない。

9月14日木曜日、小平で、髙萩はリアリズムの極致とも言えるコメントを残している。
「ぼく的にいちばん大事なのは、走ること、切り換えること、球際で戦うこと、まず基本に立ち返ってやること。それが戦術どうこうよりも重要だと思うので。ここ何試合かは運動量が少ないと感じたので、チームとして基本的なことをやらないといけないと思います」

東京ガスあるいは初期FC東京の人材と見紛うばかりの、いかにも東京の人間らしい、コアな発言ではないだろうか? 「球際」を掲げ、「サッカーをなめるな!」と選手を一喝する佐藤監督同様、他の文化になじみ他クラブからやってきた人材なのに、東京以上に東京らしいというのも不思議だが、結局は、キャリアを築く過程で歩んできた道のりのすべてが、ここにあらわれているということなのだ。
そして過去は覆しようがない。学んできたものは、すなおに武器として活かしていくほかはない。遠慮なく、滲み出るエッセンスは滲ませたままにしておけばいい。

今シーズンを振り返ってみると、大久保嘉人は常に川崎フロンターレのボールをつなぐサッカーを称揚し、考えなく走る東京の文化に否定的だった。そうしたコメントにあらわれる彼のフィロソフィーは、髙萩のそれと真っ向から対立するように思える。
しかしほんとうに水と油なのだろうか。大久保だって、汗を流して懸命に走る。髙萩だってすばらしいパスを送る。

ポゼッションと激しい守備が水と油であるかのように二項対立で語られつづけてきた東京界隈の言説がそもそもおかしいのではないか。

安間貴義監督、そしてサッカー文化的には近縁の大木武監督のサッカーは、常に激しい球際のコンタクト、プレスと、動きながらパスをつないで崩していく要素が同居している。現在の安間監督のサッカーにしても、ポゼッションを強調してはいるが、リアクションからアクションに振れたとか、カウンターからポゼッションになったというわけではない。
語弊を承知で言えば、東京の守備と川崎の攻撃を同居させて「大木×安間」時代のヴァンフォーレ甲府のように昇華させることも可能であるはずだ。
リアクションサッカーから急にポゼッションサッカーに変えてできるのかよ、という問いには違和感がある。できないとすれば、それはたんに、いままでやっていなかったことに取り組んでいるからで、現在できず、今後もできないことをやろうとするからではない。

大久保嘉人も、髙萩洋次郎も、無理に何かに合わせようとすることなく、これまで培ってきたものをすなおに活かせばいい。安間監督のチームならば、自ずと両者は統合される。されなければおかしい。

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ボランチがディフェンスラインの辺りに落ちる広島型に近い3-4-3の採用は、来年の東京につなげようとする安間監督の気遣いなのだろうか?

以前、ふつうにサッカー談義をしていたとき、安間監督は私に「広島の3バックは日本独自のシステムとしておもしろい」と言っていた。そのことと、3バックへの並々ならぬこだわりを考えれば、当然の成り行きとも考えられるが、はたしてどうなのだろうか。私にはわからない。昨年、トップチーム同様のフォーメーションを採用してトップで通用するように選手を鍛えなければならないはずのFC東京U-23で、安間監督はあるとき、ふいに3バックを用いた。今回、トップチームの監督に就任して最初の練習を終えたあとの囲み取材では「3-2-3(3-4-3)でも2-3-3(4-3-3)でもどちらでもいい。プラス2ワイドです」と言っていた。ワイドが最終ラインに入れば4-3-3で、中盤ラインに入れば3-4-3。そもそも動きながらやるのがサッカーだから数字はどうでもいい。動け。それが安間監督の哲学だった。

15日の髙萩。
「安間さんのやり方を一週間である程度理解している。それを、ミスを怖れずやれればいいと思う」
「(ポゼッション段階で)ミスをしても切り換えて奪い返すことだけを考えて、積極的に自信を持ってやれればいい」
「コンパクトの距離感を保ったまま前に行き、うしろに行きということを意識したい」

ボランチが一列落ち、フォワードが一列落ち、スリーライン間の距離は密接に保たれそうか? そう訊ねると、髙萩は次のように答えた。
「安間さんは、そこを下がってきてもいいと言っているので、下がってきてから全体が空いたところに入って、ということができれば、バランスもよくなると思う。巧く廻しているあいだに、全体が高い位置に行くことができれば、ポゼッション中に下がってきていても前に出て行けると思います」

準備のポゼッション状態から機を見て展開するタイミングについては「一週間なのでやってみないとわからないが、いい判断ができる準備はした」だった。

一度底を割ったチームが新しいサッカーにトライすることが悪であるはずがない。思いきりやればいい。

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昨日、安間監督はピーター ウタカに最低限の守備タスクを果たすよう求めた。どの選手も特別扱いはしない。いっぽうで、いままで紅白戦にあまり絡むことができなかったジャキットやリッピ ヴェローゾ、加えてもちろんU-23からトップをうかがう岡崎慎や鈴木喜丈もBチームで躍動している。外れた選手は、安間監督の横でゲームを見ながら講義を受ける。短期間の安間塾集中講座で、自身の知見を全体に行き届かせようとしている。
「なんでもかんでも若い選手にポジションを与えるわけじゃないけど、若い選手にしっかり刺激を与えていかないと。それが未来の東京に絶対必要なことだと思うので。トップにはすごい能力を持った選手たちがいる。それを肌で感じてもらえば若い選手の身になっていくと思う。たとえ5分でも10分でも、出せるなら(若い選手を)出していきたい」

このクラブの未来をかけた安間東京が、9月16日に初戦を迎える。

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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■後藤勝渾身の一撃、フットボールを主題とした近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(装画:シャン・ジャン、挿画:高田桂)カンゼンより発売中!
◆書評
http://thurinus.exblog.jp/21938532/
「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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