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石川直宏57分、伝えた熱さ。そして示した未来

後半12分に交替するまで石川直宏はこまめにポジションをとり直しつづけた。今シーズン、1試合も出ていなかった石川が、しかも翌日にJ3最終節が控えているにもかかわらず、ここまで長い時間プレーをつづけると思った人々はそう多くないだろう。石川は周囲の予測を覆した。
「不思議な感覚でしたね。これだけ痛みなく、違和感なく、からだが軽いなかでプレーしたのは年々ぶりかなというくらい」
痛みに悩まされながらも、メディカルスタッフの尽力でJ1最後の日となる12月2日を良好なコンディションで迎えた。最終節の味の素スタジアムで振りまかれた“ナオスマイル”には根拠があったのだ。

「(先発に入るひとりが)なんでナオさんなの!? というところから覆したかった。どれだけのことをみんなが思っていたかわからないけど、プレーで、結果で示せば、それこそ問題ないでしょう、と。どの監督にも理不尽なことはあるし、試合に出られないひともいて、でもそんなことは関係なくて、自分が示してしまえばそれまででしょ、と。ことしはプレッシャーやストレスをみんなが抱えていて『どうぜ誰々が出るんでしょう』という声も、リハビリをしているときに聞こえてきました。練習場でどれだけかたちをつくってアピールできたかで、はじめてピッチに立てるか否かが決まる。だから競争しろよと、ぼくも言いました。そのぼくがスタメンになったので、よけいに自分が示さなきゃと、強く思いました」

守備ではチェイシング、攻撃では相手の守備組織に食い込んで仕掛けようとする動きが目立った。
もっとも場内が沸いたのは前半25分。橋本拳人のスルーパスに呼応し、ガンバ最終ラインのウラに石川が抜け出した。オフサイドとなったが、いかにも“ナオ”らしいプレー。直後、ゴール裏からチャントが発生した。あれはスタンドを熱くしたのではないか──と水を向けると、石川は頷いた。
「そうですね、あれがいちばんの、自分のかたちだった。あそこからのゴールをずっと思い描いて、(橋本)拳人ともよく話をしていましたし。タイミングを合わせていくにあたってあまり時間がなく、練習をする機会がある選手が少ないなかで、一つひとつがすべて貴重で。今回のスルーパスに抜け出すところも、拳人とぼくが合うタイミングは、狙っていましたけど少なかった。もちろん、何度も重ねていけばタイミングも掴めるとは思うんですけど、試合のなかで精度を高めるチャレンジもすごく楽しかった。決めたかったですけどね。ああいうかたちがずっとやりたかったなとは、ピッチを離れてずっと思っていたことなので。まあ、出し尽くしました」

試合後のセレモニーに於けるスピーチでは、画面が映像から石川の表情に切り換わった瞬間既に泣いているという、これも“ナオ”らしい姿を見せてファンの視線を惹きつけながら、話し始めれば対戦相手のガンバ大阪サポーターをも味方につけるふるまいで、独特の人間力をあらためて示した。引退試合で対戦してもらったガンバへのお礼を述べるとさざなみのような拍手、初ゴールを決めたのはじつはガンバ──と漏らすと親しみのこもったブーイングと、当意即妙のやりとり。

この力を、現役引退後はFC東京のために使うつもりだと、石川は言う。ただし「新しい部署をつくろうかと。名前は公募します」と言うように、今後も東京にかかわっていくこと自体は決まっているものの、具体的な立場をどうするかは検討中だ。アンバサダーでもないという。
ただいずれにしろ、アマラオが去ったあとに精神的支柱でありつづけてきた石川が、過去と、そして大きなクラブとなった現在の両方での経験をふまえて何かをなそうとしていることだけはたしかだ。
「よい伝統はよい伝統で残してほしいですけど、それは変えないといけないでしょうという伝統もなかにはあると思う。選手には言いづらい面もあるんですけど、ぼくはそういうコミュニケーションもとり始めているし。一つひとつを変えていかないと大きな変化にはつながらないと思っているので。地道な積み重ねのうえに、さらなる積み上げをどのようにできるか。以前にはこれしかできないからこれを懸命にやっていこうという時期があり、その後、器用なことができいろいろな視野で物事を考えられるひとたちが増えてきたなかで、それらを合わせていく力になっていきたいと思っています。やっぱり強くしたいですからね。(セレモニーのスピーチでは)社長にブーイングがありましたけれど、そのように問題視されているところもあれば、さきほどもお話したようにピッチの上で競争が足りなかったところもある。全部つながっていると思うんですよね。FC東京をよくしていこうと思うのであれば、(意見の交換を)活発にしていかないといけないし、聞く耳を持たないといけない」

味スタですべてを出しきり、今後のヴィジョンを示した石川。青赤のレジェンドはあす3日に駒沢で茂庭照幸との対面を果たし、引退最終章を終えたのち、新しい歩みを始める。

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「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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『青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン』は、長年FC東京の取材を継続しているフリーライター後藤勝が編集し、FC東京を中心としたサッカーの「いま」をお伝えするウェブマガジンです。コロナ禍にあっても他媒体とはひと味ちがう質と量を追い求め、情報をお届けします。

 

 

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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