J3最終節、攻撃陣による喜びの声。佐々木渉、ジャキット、原大智
石川直宏がコーナーに歩を進めるとスタンドがざわついた。小川諒也がピッチに残ってはいるが、もはや試合終了まであと何回あるかわからないセットプレーのチャンス。“ナオ”が左コーナーキックを蹴ることに誰も異論はない。それほど強くないボールだったが、中央ニア寄りで跳んだ原大智が首をファー方向に振り、ゴール右隅へ。後半43分。勝敗の行方を決定づける、そして石川の現役最後のアシストが記録されるゴールが決まった。
試合終了後のスピーチで、中村忠監督はこう言っていた。
「U-23というチームはいろいろな立場の選手がいて、見ていてもどかしい試合もあったと思います。ただ、この若い選手、J1の切符を得るために、一試合一試合、非常にいっしょうけんめい戦ってくれて、今シーズンを戦い抜くことができました。来シーズンに向けて、このなかからひとりでも多くまたJ1で活躍できる選手が出ることを。きょうの最後の試合で石川ナオの背中を見た選手たちが、次は自分がFC東京を背負っていくという思いで、また来季に臨んでもらいたいと思います」
固定チームではなく、常にトップとU-18の混成。チームとしてまとまった練習時間もとれない。その体制は、コンビネーション、セットプレーでは不利に働く。この時間まで自分に入ってくるボールを活かせなかった原が「まだチームメイトとうまく連携がとれていない。そういった部分は練習からしっかり合わせられるようにしたいと思います」と言うのも無理はないのだ。しかし彼は大事な終盤で、引退するレジェンドと新しい世代をつなぐゴールを決めた。原は言う。
「ナオさんが入ってからみんなで『絶対に勝とう』と、強い気持ちがありました。コーナーキックを蹴る前も「絶対に入れるぞ」とみんなで鼓舞し合っていた。自分のところに来て、うまく合わせられてうれしかった」
原は一目散に石川の許へと駆け出した。
高校入学後の2015年、夏の終わりにけがをした。12月の終わりまでプレーできず、2学期はサッカー活動ができなかった。全体練習後のシュート練習で踏み込んだとき、左のすねが折れた。急激な成長が災いし、筋肉が硬化、骨が引っ張られたことによる剥離骨折だった。辛いリハビリ。そこで“ナオ”の優しさに接した。石川はフランクフルト戦で左膝前十字靭帯を断裂していた。同じ時期にリハビリをすることになったのだ。
「ナオさんはみんなから愛される選手だと思う。(ゴールを決めることができ)ほんとうにしあわせ。リハビリのときも『いっしょに治そうな』と、声をかけてくれた。ナオさんからのアシストでゴールを決められたのは夢のようです」
けがの一因ともなった成長は止まっていない。登録上は187cmだが今夏は188.5cm、現在は189cmに達している。この身長に見合ったフィジカルを設計する必要があることは、原もよくわかっている。
「自分自身、まだからだが弱いので、筋肉をつけることは絶対に必要だと思っています。ここからシーズンが始まるまで筋トレして、プロでも通用するからだになれればいいと思います」
ことし1月の沖縄キャンプで石川とともに自転車を漕ぎ、リハビリに励んでいた佐々木渉も、久保建英との交替で途中出場。石川最後の試合に立ち会うことができた。なにより、来季への手応えを掴むことができた。
「前回より長い時間出られてよかったです。もう少しボールを触る回数が多ければ、さらによかったんですけど。前線はポジションどりが自分のなかでは難しいと思っていて。場所は明確なんですけど、飛び出たり、相手の状況を見ながらやるポジションなので。難しいですけど、慣れればもっとボールに触れると思います」
そしてジャキット。この男のゴールがなければ勝利はなかった。右サイドを駆け上がってきた彼が、
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