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前年度王者の青森山田に勝利しえたのはなぜか~横山塁、吉田和拓、品田愛斗、佐藤一樹監督【プレミア最終節第3報/Review】

試合開始直前のベンチ。

試合前の集合写真。

高円宮杯U-18プレミアリーグEAST第18節に於けるFC東京U-18の勝利は驚くべきものだった。プレミア再昇格後の三年間で一度も勝ったことのない青森山田高校を相手に先制、先行する展開でリードを許さずタイムアップの瞬間を迎えたからだ。
FC東京U-15深川から青森山田に進んだ選手の活躍に苦汁を舐めることになるジンクスは変わらず。昨年の廣末陸につづき、今シーズンは堀脩大に苦しめられ、一巡めの対戦のみならずこの最終節でもゴールを許したが、それでも東京の優位は揺るがなかった。それは自分たちの優位性を再確認して戦い方を再構築した事前の準備によるものだと言っても過言ではない。

FC東京U-18と言えば、自他ともに認めるスロースターター。しかしこの試合では立ち上がりからギアを上げ、吉田和拓らがプレッシャーをかけ、横山塁をはじめとしてサイドの選手が個人で突破を試み、あるいは長いボールを原大智に当ててリズムをつくった。端的には、近年とみに評判の悪い言葉であるところの「自分たちのサッカー」を貫いたことになる。

「自分たちのサッカー」がよくないとされるのは、それに拘泥して眼前の的に優るすべに思い至らず、思考停止状態に陥って闇雲に突進、玉砕するから。しかし「自分たちのサッカー」が結果的に相手を凌駕する役に立つと認識したうえで用いるなら、それは有用な戦術だと言える。

昨年の最終節は逆だった。高いボールをまじえた競り合いを想定、ディフェンスラインを組み替えてやや守備的な布陣とし、ロースコアの展開に持ち込んだが、終盤の後半39分にPKを与えてしまい、失点して敗れた。
ことし7月16日に青森山田高校で開催されたアウエーゲームでは、前日に鳥取で開催されたJ3第17節に坂口祥尉、大本竜司、久保建英、品田愛斗、原大智、長谷川光基(トップでの2種登録選手としての背番号順)を割き不在の状態で戦い、序盤から圧されて前半6分にフリーキックから失点。雨で滑りやすいピッチコンディションもあり、相手のプレッシャーが強い時間帯に、優位に立てなかった。後半にボールを保持して相手ゴールに迫ったが、シュートが決まらず敗れた。
これらの反省から、東京は戦い方を、「自分たちのサッカー」を活用する方向に変えたのだろう。試合前も試合後も、佐藤一樹監督は「相手のよさを消すのではなく、自分たちのよさを出したうえで相手のよさが結果として消えるよう、先手を取り主導権を握ってやっていく」という話をしていた。そうした考えのもとに実践するのであれば、「自分たちのサッカー」になんの不都合があろうか。そしてこの戦い方であれば、これまで培ってきた地力をそのまま発揮できる。

「青森山田自体が最初の時間帯に得点することが多かったんですけど、きょうは自分たちの入りがよく、失点しない時間を長く保つことができました。先制点が大事だなと思っていたので、決めることができてうれしかった」(品田愛斗)

ブラジル代表が日本代表を相手にそうするように、青森山田は序盤に出力を高めて点を獲る。一巡めのvs.東京戦では前述のとおり開始からわずか6分で先制しているが、第16節のvs.鹿島アントラーズユース戦は開始3分、第17節のvs.清水エスパルスユース戦にいたってはなんと1分で先制点を挙げている。それを最終節の東京は受けて立って防ぐのではなく、自分たち主体でプレーすることで防いだのだ。
青森山田の強いプレッシャーは個人の技量と運動量でかいくぐる。それだけのものを東京の3年生は持っていた。三年間をかけて積み上げてきた成果だった。

「山田が相手でタフなゲームになると思っていました。自分が攻守に於いて運動量を出し、前で仕事をすれば、チームとしても相手に圧力をかけられると思ったので、運動量を意識してやりました。山田はたぶん、蹴ってくる、前に圧力をかけてくるだろうと予想していたんですけど、やってみたら意外と自分たちがボールを持てる時間とスペースがあって、自分もけっこうシュートにチャレンジできました。チャンスはあったのですがゴールに結びつけることができず、課題だなと思います」(吉田和拓)

吉田の働きは、たとえゴールを決めなくとも有効だった。主導権を握ったことで佐藤監督は戦況を「想定どおり」と判断、シュートが決まらなくとも焦りはしなかった。品田が「うしろの選手と原選手の力強さや収まりがチームを助けてくれた」と振り返ったように、原のポストプレーもあって常に敵陣深くに食い込みつづけた。品田はまた「最後に2失点してしまったところはチーム全体でも反省していかなければいけない」と反省しつつも「ゲームをコントロールするという意味では途中までの自分はパーフェクトだった」と、自己を正統に評価した。まさに青森山田が攻勢をかけてくる序盤をしのぐ役割を果たしたことで、品田も原もチームに貢献していた。試合後、中村忠トップチームコーチ兼FC東京U-23監督に訊ねると、2種登録選手たちがこの一年間J3で培ってきた質をU-18の大事な試合で発揮したことを高く評価していた。

吉田和拓。

横山塁。

品田愛斗。

その品田が得意とする“直接コーナーキック”で先制、1-0で折り返した後半12分に横山塁が追加点を挙げる。ここまで、右サイドから突破を試みるも直接自身の殊勲とはならず献身に留まってきた奮闘に対する報奨のような、ドリブルで中に切れ込んでのシュートによるものだった。

「昨日(12月9日)の練習とまったくいっしょのかたちだったんです。あのかたちで点を獲れたことが頭をよぎって、中に切れ込んでみようかな、と。思い切り左足を振ったら、昨日の練習のように入りました」(横山塁)

前節で鹿島と引き分けたあと、横山は泣いていた。ただその理由は、チャンピオンシップに出られなくなったと思ったからではなく、自身が点を獲れず、あまりチャンスをつくることもできなかったことが悔しかったからだ。そこに横山の強さを感じる。

「気持ちの面で相手を上回れたことが勝因かと思います。誰ひとりチャンピオンシップに行けないとは思っていなかったし、山田に過去三年間勝てていなくて『その歴史をおれらで変えよう』と、ずっと言っていました。J3に何人か抜けてしまうことで、1年生を含めて全員で絶対に勝つという気持ちを一試合一試合保っていました。その気持ちの強さに関しては、ほかのチームよりも自分たちのほうが絶対に優っていると思います」(横山)

むしろ2種登録選手がいない状態でこのチームはよく機能していた。それだけに最終戦では先発とサブに、トップ昇格が決まっているまたは昇格済みの原、品田、そして久保建英を組み込み、いかに機能させるかが重要だった。
そして序盤からハイペースで飛ばしてフィジカル的に厳しくなってくる後半に、どうメンバーを替えていくかが問題だった。品田が「後半になって郷家(友汰)選手が急に力を出してきた」と言うように、ビハインドの青森山田は必ず点を獲ろうと攻撃を強化する。

佐藤監督は、まず足首を傷めた吉田に替わって久保を投入した。トップチームに昇格済みの久保はユースへの合流が直前となり、合わせる時間が少ない。先発でうまく噛み合わないかもしれないリスクを回避しつつ、終盤のカードにと用意しておいた策が功を奏した。吉田の運動量はかなりのもので、同様に前線でかき回すことができなければチームは機能を喪失し、青森山田に対して劣勢となる。しかし久保は吉田の活躍に見劣りしない動きをしたばかりか、ダメ押しのゴールを挙げた。ユースで最後となるかもしれない試合の勝利を「昨年とは天と地の差。歴史を塗り替えられた」と、久保は喜んだ。

主体的に戦い優勢を保った代償を支払ったのは吉田だけではなかった。佐藤監督は横山からディフェンダーの草住晃之介への交替を「横山のところは、ちょっと脚が少し」と説明した。

「彼(横山)はほんとうに頑張り屋なので、最初から飛ばして。ぼくも行けるところまで行けという話で送り出しました。あそこの交替も想定の範囲内かな、と。最後に少しバタついたのは、何人かの傷んだ選手が出たことにもよるのですが、そんなに想定外のゲームにはならなかった」(佐藤監督)

よく脚が攣って交替するが、行けるところまで行くつもりだったのか――と訊ねると、横山は頷いた。

「そうですね、交替してくれる選手は何人もいるので、そんなに出し惜しみしていたら。カズさん(佐藤一樹監督)にもいつも『最初からどんどん突破していけ』と言われるんですけど、自分は最初から行けるところまで出し惜しみしないで脚が攣るまで――脚が攣っちゃう体質なんですけど、がんばれと言われているので。そこは自分がまっとうするべきところかなと思います」(横山)

横山との交替で登場した草住がディフェンスラインに入り、サイドバックだった荒川滉貴がサイドハーフへと移る変更はいつもどおり。攻撃と守備のカードを投入して態勢を整え、3点めを挙げても青森山田は心を折ることなく攻め込んできたが、東京は3分20秒あったアディショナルタイムをしのぎきり、3-2で昨年度全国王者の青森山田を下した。90分間のなかで、ファーストハーフ、わけても序盤に重心を傾けつつ、終盤の計算もしていた試合運びとその準備が功を奏した。無策ではない。考えたうえで実践した「自分たちのサッカー」の勝利だった。

ゲームキャプテンの篠原新汰は「期待していてください。優勝します」と力強い言葉を残した。既に個の質は担保できている。日本一となれるか否かは、チャンピオンシップまでの一週間の過ごし方、心身のケアと対策にかかっている。

EAST優勝決定後、スタッフの集合写真。

“ネット裏”の東京ファン、サポーターに呼ばれて“シャー”をする11番横山塁。

◯佐藤一樹監督、最終節終了後の談話

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