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華麗なるワンタッチゴールと獲得できなかったPK。ふたつの場面が示す久保建英の進化【J3第17節第1報/無料公開】

内容はよかったが、得点だけが足りない――前節終了後、藤枝のミックスゾーンでそう試合を振り返った久保建英が、きょう7月7日開催のJ3第17節では、1点先行を許した福島ユナイテッドFCに一時は追いつくゴールを決めた。同期で気心の知れた原大智からのパスを、ダイレクトに蹴ったもの。いままで、あまり見たことのない一撃だった。

長い距離を走ってくる久保建英。そこを見逃さなかった原大智がパス。

ロシア遠征をともにした原からのボールを正確にシュート。

背後の品田愛斗も喜んでいる。

これには原もにっこり。

試合後の久保に「互いを知る原選手が傍にいることで生まれたゴールでもありますが、いいコンビネーションだったのでは」と水を向けると、ふたりの関係だけで成り立っているものではないという意味だろう、こう答えられた。
「いっしょに練習している時間が長いので、メンバーが入れ替わっても、その11人でアイデアはしっかり共有できていると思います。実際、きょうは攻撃に厚みがあったと思う。その厚みだけではなく、結果も残せたことは、ポジティヴに捉えたいと思います」

この日のFC東京U-23はあっさりと失点する守備場面でのなんらかの欠如と、相手ゴールに飽くなき挑戦をつづける攻撃のスピリット、その両極端を行き来した。
試合中の写真を見直すと、どの選手の表情ももれなく、鬼気迫る男の顔になっていた。久保ももちろん、少年の面影を残してはいても、一人前の闘士だった。彼が言うように厚みのある、多くの選手がかかわり福島ゴールを攻略しつづけるなか、ペナルティボックス内で強みを発揮する点獲り屋のような同点弾を生んだことは、成長の証と言っていいだろう。

「自分のやってきたものだけで勝負していたところがあるのですけれども、長谷川(健太)監督になって守りの基本のところをいま、教わっています」
こう言ったのは安間貴義トップチームコーチ兼FC東京U-23監督だ。バルサのサッカーで得てきたものは非常に大きいが、ちがうこともできるようにならないと――とは、たまに耳にする文言ではあるが、安間さんはここをずばりと言うのだなと、少々驚かされた。

以前はフィジカルの不足を度々指摘された。しかしもはやそのような声はない。プレーの強度はまちがいなく上がっている。足りないものがあるとすれば別のところだ。その別のところの成長を見せた。
「以前だったら、あの距離を走ってシュートのところまで行っていないと思います。ヨコについてサポートの距離にいたと思います」
安間監督はこうつづけた。

 

このあと、久保にイエローカードが提示された。久保が「反スポーツ的行為」シミュレーションをおこなったという判定だった。

驚きを隠せない久保。

PKをもらえず、むしろシミュレーションと判定され、イエローカードをもらうはめに陥ってしまったが、果敢に突撃するさまは、先制ゴールのそれと合わせ、ひとりの巧い選手から、点を獲るために最速の行動をとる、責任感の強いストライカーへの“変身”を示すものではなかったか。

永井謙佑とディエゴ オリヴェイラにつづく第3のフォワードだけが懸念材料と言ってもいいトップチームで、その候補になろうとしていた矢島輝一が負傷により若干遅れ、移籍加入のリンスが合流を果たすもまだ東京での試合に出てもいない状況で「新しい星がほしい」という長谷川監督の言葉を受け止める存在は決まっていない。
ここでもし久保がプレーの強度を十分なものとするだけでなく、本格的なフォワードへの脱皮を果たすのであれば、第3の男への挑戦権を得ることになる。かりに久保が18歳になったとき、海外に去るのだとしても、まだ1年もの長い時間が残っている。その間、やらなければならないことはまだまだあるはずだ。そのためにもJ3でなすべきことを身につけ、J1で戦う可能性を高めていかなくては。

警告を受けたこともあり、久保は後半22分に平岡翼と交替。らしからぬゴール、らしからぬPK獲得失敗とものすごい悔しがりよう、熱いふたつのシーンを観る者の心に刻み、ピッチを去った。なぜ彼がロシア帰りに高揚感を得ていたか、いまならわかる。
何かが起こりそうなのだ。いままで蓋をしていた天井が取り払われ、のぞいた空に飛び上がっていきそうな、そんな予感が漂う67分間だった。

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『青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン』は、長年FC東京の取材を継続しているフリーライター後藤勝が編集し、FC東京を中心としたサッカーの「いま」をお伝えするウェブマガジンです。コロナ禍にあっても他媒体とはひと味ちがう質と量を追い求め、情報をお届けします。

 

 

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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