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第四十九信『1985年生まれの梶山陽平が去り、1995年生まれの矢島輝一が立つ、2018年のFC東京』後藤【新東京書簡/無料公開】

 

今シーズン、中央大学からFC東京に加入した矢島輝一。大学時代は、前回の新東京書簡に登場した山口陽一朗とチームメイトだった。今後は梶山陽平や吉本一謙のあとを受け、クラブを支える人材になってほしい。

◆ヨーイチとキイチ

「1年から試合に出ていたのは自分と、三島と陽一朗で――」
 身長186cmの巨躯を誇る矢島輝一の眼が、見るみるうちに4年前の彼方へと飛んでいく。骨の髄まで青赤の彼にも、東京ヴェルディユースから中央大学にやってきた山口陽一朗の印象は鮮烈だったみたいだよ、海江田さん。
 ちなみに三島というのは、現在FC岐阜でプレーする三島頌平のこと。大学2年のときに10番を背負っていた選手なんだ。大卒ルーキーながら、今シーズンのJ2では25試合に出場、第37節には14試合ぶりの勝利に貢献する貴重なアシストをマークしている。いわきFCの早坂翔もそうだし、ヴェルディだけでなく中央大学としても95年組は豊作だったんだろうね。

 世代の前後を見ると、1学年上にはV・ファーレン長崎の翁長聖とヴィッセル神戸の古橋亨梧――ともに1995年の早生まれ――がいて、1学年下には特別指定選手たち、ヴェルディ内定の安在達弥とFC東京内定の渡辺剛がいる。各ポジションにいい選手が多く、層が厚い。それだけを考えると、競争が激しくて試合に出られなくなったんだと思うけど、ヴェルディ出身の逸材が出場機会を減らしていったわけは、そう単純ではないみたいだ。

「チーム内で『巧いの誰?』と訊ねたら、誰もがヨーイチの名前を挙げると思います。仲間の信頼は厚かった」
 矢島がこう言うとおり、チームメイトにも、山口が持つ技術の高さやセンスのよさはわかっていた。でも、それだけでは試合には出られない。
 海江田さんが書いていたこととも関係するけど、大学サッカーでは気持ちを出して戦う選手が評価される。そうした環境で、淡々とプレーする山口は埋没していった。

 クサビを受けるタイプの前線である矢島は「自分が出場してパスを引き出すことができていれば、状況はちがっていたかもしれない」とも言っていた。
「自分たちの代でこういうサッカーができただろうというイメージはあったんですよ。須藤岳晟という小ぶりなセンターバックがつなぎ、それを陽一朗や三島が引き出し、自分に当てたところに、早坂翔辺りが絡んできて」

 でも矢島が負傷で離脱し、山口も出られず、それは実現しなかった。逆転が難しい状態で沈思黙考する機会も増えたはずだ。山口、もう山口さんかな、彼は以来考えを深めて、外からクラブのために何かをしようという境地にたどり着いたんだろうね。
 人生、どこかで決断しないといけない時機が来る。

◆ヨーヘイからキイチへ

 なんて考えることになったのも“東京の10番”の現役引退が発表されたからだ。

 山口陽一朗へのアンサーを、矢島輝一を主人公に、ユース大学目線で書く。そんな新東京書簡の掲載日に、FC東京下部組織出身Jリーガーの草分けである梶山陽平の引退発表が重なるなんて、考えもしなかった。

 まだFC東京U-18からトップチームに昇格する例が少なかった2004年、馬場憂太や尾亦弘友希といった先輩を追うようにして正式加入。既に2種登録でJリーグデビューを果たしていたから新人感はやや薄かったけれど、このルーキーイヤーがすごかった。
 リアソールではデポルをミドルズドンで倒し、国立ではヴェルディをミドルズドンで倒し。
 とにかく「梶山といえばミドルシュート」、そういうシーズンだった。

 アジアカップで代表組が大量に抜けた状態でのスペイン遠征は、まだ五輪セレソンの威光を保ったままであるかのようにルーカスが頼もしく、そして怖いもの知らずの若手である馬場、梶山の若手が奮起し、かなり高い水準のパフォーマンスを発揮していた。そしてスペイン遠征の名残があった8月はチーム全体の出来がよく、それが東京ダービーの勝利につながっていたのだろうし、ナビスコカップの優勝にもつながったのだろうと思う。とにかく、原博実監督率いる東京は上り調子だった。

 そうそう、翌2005年のダービーでも梶山はゴールを決めているんだよね。海江田さんが坊主刈りをする羽目になった、あの試合ですよ。嫌な記憶を掘り起こして申し訳ない。

 じつはその試合、森本貴幸の得点でヴェルディが先制しているんだ。梶山のゴールで追いついて、最後にササで逆転。
 といったように、ダービーではユースからの生え抜きが点を獲っている印象が強い。馬場もよく決めているし、ヴェルディでは飯尾一慶がそう。もちろんナビスコダービーで大活躍した平本一樹もそう。やっぱり燃えるんだろうね。

 話が逸れた。

 高い位置で攻撃的にプレーすると、味方も予測できないような変態パスを出す。何かをしそうな危険な匂いが漂っていた。梶山はスケールの大きな新人だった。
 スピードはないのに、うまくすり抜け、あるいはうまくからだを相手に当てながら、ボールを奪われない。
 ナビスコ初戴冠のあとのジェフ戦で、ひとり時間差シュートを決めて東京ファンを笑わせてくれたのも、いい思い出だ。

 膝を壊してからも、けがを抱えているなりによくがんばったと思う。
 若いときは取材では全然話してもらえなかったけど、年々言葉数が増え、最後は的確かつよく喋るコメント王みたいになっていた。お子さんが出来、父親となったこともあるのだろうけれど、子どものファンに対して基本的には優しいけれど、注意するべきところでははっきり伝えられる、そういう接し方もすばらしかった。
 おつかれさまでした。

 今夏は梶山とともに丸山祐市、そして選手会長だった吉本一謙にいたるまで、アカデミー出身の年長者たちが揃って移籍した。以後は橋本拳人、矢島といった選手たちが生え抜きとしてこのクラブを支えている。
 大先輩の梶山から受け取ったバトンを、しっかりと握りしめている。

『トーキョーワッショイ!プレミアム』 後藤勝

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後藤勝渾身の一撃、フットボールを主題とした近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(装画:シャン・ジャン、挿画:高田桂)カンゼンより発売中!
書評
http://thurinus.exblog.jp/21938532/
「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」とは

 

「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」について

『青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン』は、長年FC東京の取材を継続しているフリーライター後藤勝が編集し、FC東京を中心としたサッカーの「いま」をお伝えするウェブマガジンです。コロナ禍にあっても他媒体とはひと味ちがう質と量を追い求め、情報をお届けします。

 

 

青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジンは平均して週4回の更新をめざしています。公開されるコンテンツは次のとおりです。

主なコンテンツ

●MATCH 試合後の取材も加味した観戦記など
●KODAIRA 練習レポートや日々の動静など
●新東京書簡 かつての専門紙での連載記事をルーツに持つ、ライター海江田哲朗と後藤勝のリレーコラムです。独特の何かが生まれてきます

そのほかコラム、ニュース、などなど……
新聞等はその都度「点」でマスの読者に届けるためのネタを選択せざるをえませんが、自由度が高い青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジンでは、より少数の東京ファンに向け、他媒体では載らないような情報でもお伝えしていくことができます。すべての記事をならべると、その一年の移り変わりを体感できるはず。あなたもワッショイで激動のシーズンを体感しよう!

 

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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