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【新東京書簡】第五十八信『どんどん揺さぶれ』海江田(2019/6/5)

 
第五十八信 どんどん揺さぶれ
 

チームの軸として期待を集める井上潮音とルーキーの森田晃樹。さまざまな揺さぶりを栄養とし、伸びていってほしい。


◆為末大さんのパフォーマンス理論
 
 数年前、取材で面識を得たのをきっかけに、為末大さんのメールマガジンが届くようになった。これが毎回興味深く、とてもためになる。
 
 為末さんは400メートルハードルの日本記録保持者で、現役引退後はスポーツコメンテーターや指導者として活動の幅を広げている。じつはサッカー界とも浅からぬ関係があり、縁戚をたどれば、大叔父にサンフレッチェ広島の父であり、日本サッカー界に多大な貢献をした今西和男さん。近年はJリーグの非常勤理事、V・ファーレン長崎のフィジカルアドバイザーを務める。
 
 仕事上、会う前に抱いていた印象と実像との乖離がなかった数少ないひとりだ。率直に、この人いいなあ、面白いなあという思いがより深まった。メールマガジンの文末に〈※本コラムの転載はご自由にどうぞ〉としてあるのも、自身の思考法や考えが世に広く伝わることに価値を見出す為末さんらしい配慮だと感じる。
 
 以下、2018年12月3日付のDeportare Partners Newsletterの為末コラム『揺さぶりと成長』より。
 
〈競技人生では前半は技術を固めることに苦心しますが、後半は固まった技術を揺さぶって高めることに苦心します。前半は覚えようとしますが、後半は忘れようとします。この転換がうまくいかないと成長がぱたと伸びどまってしまいます〉
 
 と、為末さんはテーマを提示。成長を続けるための試行錯誤が始まる。
 
〈ああだこうだとしているうちにふとある瞬間、偶然やりたかったことができることがあります。そうなると今度は不思議なことに何度でもその技術が繰り返せるようになります。難しいのはこの偶然の1回目をどう意図的に出すのかという点です。(中略)スポーツ界においてパワハラ的指導がなくならない理由の一つもこれに影響していると思います。本人が限界だと思っているものを外部から無理やり揺さぶることで限界値を引き延ばす効果がそれなりにあるからではないでしょうか〉
 
 いわゆる、コツをつかむというやつだ。ただし、選手生命に限りのあるアスリートは、偶発性やまぐれ一発に懸けるわけにはいかない。意識的にショックを与える機会をつくり出し、身体の覚えた動き、感覚を揺さぶり、さらなるパフォーマンスの向上、到達点の飛躍を試みる。
 
〈一体どうすれば揺さぶりを組み込むことができるのか。私は比較的簡単に揺さぶり効果を入れるには、多様性を保つのがいいのではないかと思っています。(中略)例えば、自分と違う人間がたくさんいれば予想しない反応や摩擦が日々起こります。いちいち説明をしたり、対応をしたり、めんどくさいこともたくさんあるかもしれません。ところが、このプロセスの中で予想しない偶然の気づきや、自分でも知らない自分のある側面が見える可能性があります。つまり、ある程度計画的に偶然の出会いを作るには、多様性のある状況は効率が良いとも言えます〉
 
 そして、最後に〈大人になるとなかなか揺さぶってくれる人がいなくなります。仕方ないので自分で自分を揺さぶる機会を求めていくしかなさそうです〉と為末さんはコラムを結んでいる。

(残り 1423文字/全文: 2911文字)

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