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【無料記事】【新東京書簡】第六十信『観客動員を考える2019』海江田(19/8/8)

 

0周年記念ユニフォームを着用する佐藤優平。よくお似合いで。 ©TOKYO VERDY


今年の途中からお目見えした、コンコースのスターティングメンバーボード。こういうわかりやすい親切を増やしていってほしい。


第六十信 観客動員を考える2019
 
■過去5シーズン最少の1試合平均5,277人
 
 毎日、よくお日さまが照りますね。この暑さにやられて夏バテしようが、重要な選手が抜けて気落ちしようが、次の試合はやってくる。チームはそれに向けて準備し、前進しなければならない。
 
 11日、J2第27節の鹿児島ユナイテッドFC戦、そして18日、第28節のモンテディオ山形戦と続くホーム連戦は、今季の集客作戦における山場だ。鹿児島戦からホーム4試合、選手たちはブラックとゴールドの50周年記念ユニフォームを着てプレーし、オリジナルキッズユニフォームのプレゼント企画などを用意。多くの方々の来場を呼びかけている。
 
 今季の1試合平均入場者数は、14試合で5,277人。現時点、この数字は過去5シーズンで最も少ない。
 
 他方、FC東京は31,022人。例年は26,000人前後だから、およそ5,000人近く上積みしている。リーグトップを走るチームの好調が大きく影響しているのだろう。
 
 入場者数において、チームの成績は直接的に影響を与える大きな要素のひとつだ。だが、クラブは勝ち負けと無関係にベースアップしていく施策を打っていかなければならない。「勝たないと客は増えない」。サポーターが言うならまだしも、クラブサイドの人間がそれを言っちゃおしめえよ、というやつである。
 
 秋にラグビーワールドカップが開催される都合、シーズン前半にホームゲームを多く開催し、アウェーサポーターの来場が見込める人気カードも消化済み。このチャンスで空振れば、先に挽回できる機会はほぼ残されていない。
 
 LED照明を搭載した味の素スタジアムは、劇場空間の趣が大きく増し、ビジュアル面の強化に貢献している。観る者の心に語りかけてくるような、質の高いショートムービーも好評だ。しかし、いまのところ目立った成果は数字に表れていない。
 
 ここで気をつけたいのが、手間ばかりかかって費用対効果が悪い、だったらやめちゃえば、という安易な発想である。
 
 こういった小賢しい考えは、地味な取り組みにも目が向きやすい。たとえば、東京Vは数年前から英語版、スペイン語版などの公式サイトを運用し、それぞれゲームレポートを掲載している。
 
 この取り組みから得られる効果は、短期的にはまったく期待できない。手応えのなさは仕事のモチベーションにも影響し、続けていくのがしんどい仕事だ。翻訳パートナー契約を結ぶ、Xtra株式会社のサポートを受けるとはいえ、それに割く時間はゼロにはならない。
 
 長期的な視座に立つとどうか。時は、外国人労働者150万人時代。在留外国人の数はその倍に達し、大部分は都市圏に集中する。
 
 今後、日本の少子高齢化は加速する一方で、国の移民政策はさらにドラスティックな転換を余儀なくされると見て間違いない。カネを稼ぐため日本にやってきた彼ら、彼女たちに、サッカー観戦の余裕がどの程度あるかは見当もつかないが、その人たちをどのように取り込んでいくかは都市に根を張るクラブにとって、将来的に重要なテーマになる。
 
 そこで、入口のインフォメーションに通じる言語があるか、チームの輪郭に触れられるかは貴重なフックになり得る。いくら目に見える結果が出ないとしても、粘り強く続けていってほしい。
 
 事業を仕分けしつつ、これは絶対に必要なんだ、発展性が見込め、面白い転がり方をするはずなんだと信じるものは、強い気骨をもって継続する。現状に至った東京ヴェルディの歴史は、この判断を間違えてきた集積と言っても過言ではない。
 
■負の局面に接してこそ、クラブの本質や姿勢が見える
 
 この際、おれがずっと気になっていることも書いておこう。攻撃から守備へと切り替わる、いわゆるネガティブトランジション。突如として逆風にさらされる負の局面。この深刻度が高いときほど、本来、クラブから責任者の声明が出されるべきなのだが、それがことごとくスルーされていることだ。
 
 近年、責任者によるオープンな説明の必要を感じた事例は少なくとも3つあった。
 
(1)2018年2月、アカデミー育ちの郡大夢氏が条項に違反する「クラブの秩序風紀を乱す行為」があったとして契約解除。
(2)2018年11月、2年間メインスポンサーを務めたISPSが関係を継続できない事情を公表。
(3)2019年7月、ギャリー・ホワイト監督を解任し、永井秀樹監督の就任。
 
(1)は竹本一彦ゼネラルマネージャーがSBGの取材に応じたのみ。羽生英之代表取締役社長、普及育成を長く担当してきた山本佳津強化部長の両者は声明を出すべきだった。ひとりの選手を心から大事に扱えずして「育成のヴェルディ」を謳う資格がどこにあるのだろう。たとえ周囲が止めても、自分からひと言だけでも言わせてほしいと矢面に立つ、あるいはせめてもの報いとして減俸を自らに課すのが上に立つ人の役目ではないのか。(2)と(3)についても同様に、クラブから能動的に発せられる説明があってほしい。
 
 本来、サッカー観戦において、社長がどうだとか、強化が誰だとかを気にする人はいない。入口の段階では関係ないが、その後の定着率には大きく関わってくる。負の局面に接してこそ、クラブの本質や姿勢が見えるからだ。そこで、人は自分のお金と時間を費やすに値するかをシビアに見定める。
 
 こういった世の注目を集める由々しき事態で、東京Vがクラブとして取る態度はふたつしかない。静観と黙殺。ただひたすら嵐が頭上を通り過ぎるのを待つ。戦略と言えるほど上等なものではなく稚拙に映るが、方針として見えるのはそれだけだ。
 
 一見、これは賢い策に見えなくもない。その場で受ける傷は最小限で済み、時間の流れが問題を薄めてくれる。晴れの舞台に立ち、景気のいいことをぶち上げれば、きれいに印象を上書きできる(本当はそうではないけどね)。
 
 不祥事に際してアグレッシブに泥をかぶり、人々に情理を尽くして説くことは、信頼を強固にできる好機でもあるのだが、決してそのリスクは取らない。
 
 リスクマネジメントを重視し、とにかく損をしないことを第一に考える生き方と似ている。よかった、今日も損をせずに済んだ。明日も決して損はすまい。そんな賢い選択を積み重ねてきたはずなのに、マイナスは計上していないはずなのに、目の前に巨大な損の塊が出来上がっているのはなぜだ。どうして、自分だけ周囲から取り残されてしまったんだろう。
 
 そこに至って、ようやく気づくのだ。ああ、ほかの何ものにも代えがたい「時間」を失ってしまったんだな、と。
 
『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗
 
(了)
 

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