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中村憲剛という稀代の名手がいるかいないか、その差が勝敗を分けた多摩川クラシコ。幕引きを手伝ったFC東京はルヴァンカップ決勝に勝つべく、前を向く【J1第25節「川崎フロンターレvs.FC東京」観戦記~中村憲剛関連箇所無料範囲】

 

10月31日、J1第25節試合終了後の中村憲剛。飾り気のない、テンプレではない、真に迫ったトークで時に記者の間で笑いも。明けて本日11月1日、引退発表。


 今シーズンの試合後記事としてお届けする「観戦記」。今回は等々力陸上競技場で開催された10月31日のJ1第25節、川崎フロンターレ戦について書いていきます。
 
 いま11月1日の午後ですが、まさに、中村憲剛をテーマに昨晩の試合について書いている最中に、ご本人の今季かぎりでの引退という報せが飛び込んできました。川崎フットボールアディクトの江藤さんに聞いたところでは、和やかな雰囲気の引退発表会見だった様子。このあと同サイトで詳細な記事が出るそうですが、まずは憲剛さんおつかれさまでした。
 
 書こうとしていたテーマを最初にまとめると、攻守、守攻の切り替えが極端に速くなってきたこの20年間、古典的なファンタジスタが姿を消していくなか、現代サッカーのトレンドに埋もれるどころか、自身とともにJ2から飛躍し、Jリーグ最強にまで上り詰めた川崎フロンターレの重鎮として常に一味違う何かをもたらすことの出来る、そんな稀代の名手こそが中村憲剛であり、彼のような選手の在、不在の差が、10月31日の勝敗を分けた――というものです。
 この重要な点に於いて、FC東京が川崎を凌駕することは難しいです。たとえいまこの瞬間に、スペック的にはスーパーな選手を加入させることが出来たとしても、川崎には2003年以来中村憲剛とともに18シーズンに渡って重ねてきた歴史と内実があるわけで、これは東京にはないものです。もしタイムマシーンがあれば2002年に遡り、攻撃面での特色を持ち、かつ今後20年間に渡ってクラブを支える中心選手となるタレントを獲得せよと東京のフロントに入れ知恵したいところですが、それは無理な相談です。
 では来シーズンは川崎が与し易い相手になるか――というと、それも難しいでしょう。中村憲剛が引退したところで成長する軌道に乗り加速がついている川崎を止めることは容易ではない。それだけ、監督以外にピッチ内外で影響力を持ち好ましいパーソナリティを持つ選手がいるということはチームにとってクラブにとって大きな力となるのだと、背番号14は証明しました。
 東京の場合、戦術以前の継続的な基盤として東京ガスイズム的なものはありましたが、タイトルに手が届きそうな上位争いに常時加わるような域には達していませんでした。そこへ長谷川健太監督がやってきて、一段階押し上げた。今シーズンはルヴァンカップ準決勝で川崎を下し、この2020年三回目の対決でも、後半3バックへの布陣変更を施して一時は1-1の同点に追いつく采配。選手もそれに応えて出来るだけのことはやりきったと思います。それでも、最後は中村憲剛に屈した。東京を応援する立場ではとても悔しいことですが、チームとして悪かったわけではなく、川崎の14番という物理的に入手が不可能な聖杯の持ち主が向こう側にいたという差が明瞭であるだけに、諦めもつきやすいというもの。東京としては、中村憲剛を擁する川崎に肉薄した手応えを持ち、柏レイソルが待つルヴァンカップ決勝に赴くだけです。
 それにしても、サンフレッチェ広島戦を休んだあとの10月18日の第23節名古屋グランパス戦で第12節に敗れた借りを返し、二週間じっくりとトレーニングを重ね、ACLの日程変更のおかげで一度は消えた東京戦が当初の予定日に復活、しかも東京のファン、サポーターがビジターチーム側観戦解禁後初めてやってきた日に先発出場を果たし、40歳の誕生日を自ら祝う決勝ゴールをマークするとは、ストーリーとしては出来すぎですね。きつい一撃を見舞われてしまいましたが、引退の手土産としてゴールの記録と勝点3を納めていただければさいわいです。来年以降は青赤軍団が多摩川クラシコを制して憲剛さんに悔し涙を流してもらえるよう、強くなることを祈るばかりです。ありがとうございました。
 
◆3バックで実質的な攻撃参加人数を増やし、きっかけを掴んだが……
 
 それでは試合を振り返っていきましょう。

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