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【無料記事】【新東京書簡】第七十八信『林陵平がピッチを去る』海江田(20/11/20)

 

今季限りでユニフォームを脱ぐ林陵平。おつかれさまでした。


■もっと強く、もっと巧く、もっとゴールを
 
 一度でいいから東京ダービーでの雄姿を見たかったなあ、と夢想する選手がまたひとりスパイクを脱ぐ。
 
 東京ヴェルディからザスパクサツ群馬に期限付き移籍している林陵平が、今季を限りで現役を引退すると発表した。12年間のプロ生活。いずれオンラインの会見が開かれることになっており、決断に至った経緯や今後の身の振り方についてはそこで彼の口から語られるだろう。
 
 東京Vのアカデミーで育ち、明治大を経て、2009シーズンに加入。ルーキーイヤーから32試合6得点と活躍した。以降、柏レイソル、モンテディオ山形、水戸ホーリーホックを渡り歩き、2018シーズン、9年ぶりに復帰した。
 
 プロとして東京Vに在籍した期間はトータルで2年半に過ぎない。さわやかな笑顔と、何よりプレーにクラブを背負って立つ覚悟がひしひしと感じられ、サポーターからは高い人気を獲得していた選手だ。
 
 土壇場で頼りになる選手だった。
 
 宿願のJ1昇格に向かって突き進んでいた2018年のシーズン終盤。J2第35節の栃木SC戦、両者得点なく迎えた84分に林は投入され、コーナーキックからヘディングで決勝ゴールを叩き込んだ。しばらくベンチを温めるゲームが続いたが、チャンスを与えられれば結果で応える。さすがだなと感服した。
 
 また、同年最終節のFC町田ゼルビア戦で決めた先制点も印象深い。結果、ドローで終わったが、もしあのゲームを落としていれば7位に転落し、プレーオフの快進撃と最後の失望を味わえなかった。
 
 林と言えば、わが師と公言するズラタン・イブラヒモビッチの存在である。
 
 憧れを持ち続け、そこに少しでも自分を近づけようとした。もっと強く、もっと巧く、もっとゴールを。渇望は、引退を決めるその日まで変わらなかっただろう。
 
 若かりし日は、誰もが何者にでもなれるくらいにイメージをふくらませ、やがて自分を知り、身の丈のようなところを見つけて落ち着いていく。
 
 厳しい競争社会に生きるサッカー選手はさまざまな現実に直面し、自身の持つ価値をおおよそ把握する。ある程度のキャリアを積み、どこまで到達できるかを悟る。林もまた、イブラのような選手にはなれないとわかりながら、なりたい自分を臆さず語り、ピッチに立ってプレーの上達に挑んだ。成熟した大人の男と、子どものような精神が同居しているところも魅力だった。
 
 話題を呼んだ欧州直輸入のマニアックなゴールセレブレーションは、サポーターを楽しませるサービス精神の表れであると同時に、ボールを蹴ることに夢中だった根っこがいまも変わっていないだけの話ではないか。ユースの同期である塗師亮が「テレビで観た海外の選手のマネは、昔っからよくやっていましたよ」と証言するように、林は自分が楽しいことをひたすらやり続けた。
 
■毎日のトレーニングが刺激的だった
 
 そんな林にとって、ロティーナ監督とイバンコーチとの出会いは僥倖だったに違いない。
 
 東京Vにスペインの風が吹き込まれるなか、欧州フットボールに造詣の深い林は目を爛々と輝かせ、充実した日々を過ごした。
 
「毎日のトレーニングが刺激的で、サッカー選手として初めて教わったことがたくさんありました。トレーニングの組み立て、試合の指示、戦術的な要素。特にイバンとは誰よりもしゃべり、プロとして成長させてもらえましたね。全部が自分の財産になった」
 
 そう振り返り、別れを惜しんだ。残念ながら、ピッチでそれを活用する機会は限られたかもしれない。もっとも、腐るものではないから、今後のキャリアに生かしていけるだろう。あの性分からして、サッカーと離れて人生を送れるはずもなく、新たな道を見つけて極めようとするのではないか。
 
 人間関係では器用さを欠くところがあり、輪の外側に身を置いて、全体を冷静に見ているふしがあったと記憶している。和すれども同ぜず。柔和な表情の裏側に、ストライカーとして生きる孤高のプライドをのぞかせた。要領よく立ち回れる人より、そちらのほうがよほど信用が置ける。
 
 今季の群馬では28試合ノーゴール。残り8試合だ。キャリアを締めくくる一発を待っている。
 
 この際、一発といわず、ふたつ、みっつ、どさっとまとめて置いていっても構わない。まだやれるじゃないか! の大合唱におれも加えさせてくれ。
 
『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗
 

 
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