青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン

純粋培養ですさまじいメンタリティを獲得した富士大学と、その難敵を下したFC東京【天皇杯2回戦/vs.富士大学/無料公開】

 

 6月8日、味の素スタジアムで開催された天皇杯2回戦のレポートを今節もFC東京視点の観戦記スタイルでお届けします。

◆東北から出てこなかった東北の雄

 対戦相手は東北地区大学サッカーリーグ1部にトップチーム、東北インディペンデンスリーグに富士大学U-22と富士大学B、東北社会人サッカーリーグ1部に富士クラブ2003を送り込んでいる富士大学サッカー部。文字通り、東北の雄です。

 試合内容はご覧になったとおりで、富士大学はプレッシャーをかけてボールを奪うスタイル。ギアを上げる段階になってプレッシャーをかけに行くのではなく、プレッシングがスタンダードで、ギアを上げるとさらにプレッシャーが強力になり極端に前から追うようになるという、ある種過激なサッカーです。攻め込まれた局面でもしっかりと東京の攻撃を防いでいました。試合後の記者会見で高鷹雅也監督に守備のやり方について訊ねると、攻め込まれた状態での指示は「押し返せ」というもの。引いて構える選択肢をとらなかったのは、そもそもこの強烈なプレスが本来の富士大学の戦い方だから。キャプテンの6番志村滉も「キーワードは『いつもどおり』。前からリスクをかけて奪いに行く守備、スピードのある攻撃をしようという話をして試合に入りました」と言っていました(念のため、元FC東京、現大宮アルディージャの選手とは同姓同名の別人です)。

 格上相手の戦い方というと5バックで自陣にベタ引きになり跳ね返しに徹する──というものになりがちですが、富士大学は引かずにプレッシャーをかけてボールを奪い、パスをつないで崩し、フィニッシュに持ち込んでいました。東京に伍して戦い、やるべきことはやっていたわけです。そして心が折れたり身体が疲れたりする様子は微塵も感じさせず、タイムアップの笛が鳴るまで脚が止まりませんでした。前半、15番の阿部柊斗が東京の安部柊斗に仕事をさせないぞとばかり、ときに張り付くマッチアップにも見応えがありましたね。フォーメーションを見れば富士大学のドイスボランチが東京の2インサイドハーフと対峙するかみ合わせ。これが富士大学にとってはやりやすかったのかもしれません。

 2-0で勝利を収めた東京の2得点は、率直に言えばいずれも“アダイウトンきっかけ”であり、1点目の光景もアダイウトンが左からチャンスをつくって渡邊凌磨が決めるという既視感のあるものでした。もしアダイウトンが富士大学の側にいたら結果はひっくり返っていたかもしれない。東京にしてもその2得点以外は獲れなかったわけで、実力差はあるにしても、この1試合にかぎっては富士大学が勝つ可能性もゼロではなかったと思います。そのくらいの驚異的な戦いをしていました。

 海外のサッカーや社会人サッカーを観たときにおもしろく感じるのはJ1基準とは異なるサッカーに触れることが出来る新鮮さもあります。その意味で富士大学はJリーグを見慣れた目からするとかなり異色であり、インパクトがありました。

 問題はなぜこうしたチームが生まれたかですが、当然やる気のある人材が集まっているのだろうという前提で、それに加えて環境要因もあったのではないかと推測します。

 ヒントは高鷹監督の試合後会見冒頭での総括の言葉です。
「まずコロナ禍でもあるなか、学校としても選手を出させたいということから、いろいろな後押しをいただきまして、また限られたメンバーでしたがこちらのほうに、試合をしに。なかなかふだん東北、岩手にいて、身近にグルージャさんとかがいますけれども、こういったスタジアムでJ1の方々と──またびっくりしたことに、メンバーが、この間の鹿島とかエスパとの試合に出ていたような選手が出てくるとは今日メンバー表を見たときにびっくりだったのですが──そういった方々と真剣勝負と言ったら相手に失礼かもしれないですけれども、残念ながら負けてはしまいましたが、ゲームとして戦わせていただいたことと、最語にFC東京のサポーターさんからただ拍手だけではなく、スタンディングオベーションと言ったらちょっと極端ですけど、立った状態で拍手をいただいて、また(アルベル)監督さんにも選手に激励の言葉をいただいたというところが、この舞台をめざしてきてよかったな、と。ただ、ここだけで満足しているつもりはないので、ここを基準に、次、また大学の大会に挑みましょうということで、ちょっといまさっき締めてきました。よろしくお願いします」

 おそらくはコロナ禍も手伝い、不必要な行動を避け、東北から出る機会が少ない環境で、何かに惑わされることなく自分たちのサッカーを磨くことに集中出来ていたのではないか。自らが掲げた理念に基づき積み上げていき、それを味スタでの他流試合でぶつけることになったのではないかと推測します。己の力を測りながら目標に向かって邁進していき格上相手の公式戦でも気圧されるそのメンタリティはすさまじかった。

 カート コバーンで有名なバンド、ニルヴァーナは、流通しやすいハードロックとパンクくらいしか入ってこない環境だったからこそグランジを生み出せたという説がありますが、それに近いものを感じます。純粋培養の強みを感じます。

 後半に関しては0-0でした。富士大学の勢いが増したようにも見えました。ハーフタイムの修正は以下のものだったようです。
「本来はもう少し左サイドから仕掛けて崩す、左サイドでタメたところから右に展開というのが今季の理想であったのですが、15番の選手(左ウイングのアダイウトン)とウチの5番(右サイドバックの金野泰治)とのマッチアップでボールを奪う場面はあるのですがそこを展開して厚みのある攻撃に左サイドが転じる回数が少なかったところを、もう一度確認していこうということと。リスタートがあまりとれないでいたので、しっかり攻めきってリスタートをとろうと。この戦いを迎えていく準備段階で、ゲームコンセプトに『プレッシング、カウンター、セットプレー』というのをキーワードに持ってきて、そこである程度ゲームをコントロールすることが出来たのですが、そこのセットプレーをあまりとれなかったので、『0-2まではOK』と言っていたので、飲水タイムはなかったですけど後半の半ばまでになんとか1-2にして、終盤おそらく相手も替えてくるだろうからバランスが崩れているところを衝いていければと送り出しました」(高鷹監督)

 自分たちが何をしているかに自覚でそれを把握し、そのうえで90分間をどう戦っていくかが明確でした。頭でわかっているからこそ迷いがなく肉体も全力で動かせるという状態だったのかもしれません。

 私が直接訊ねたことへの高鷹監督の答えもフルで載せておきましょう。以下のとおりです。

「ちょっと前の時期までは練習も含めて守備のことにフォーカスをして、勝ち上がっていくにはやはり攻撃力がなければいけないと、攻撃の基本ベースのところを、今日はあまり引き出せなかったのですが、ダイヤモンドをつくってパスコースを常時確保して、ひと昔前のアヤックスではないですけれども、それをこういった方々に挑んでしっかり発揮して、というところで。守備については、ここに至るまでに身近なJFLの方々との練習試合をする機会があったときに、前でのプレッシングを軸としながら、押し込まれたときには『押し返せ』と。タテに行ってリスタートをとられるのではなく、押し返せ押し返せと今日ももみんなで何回かコーチングをみんなでしていたのですけれども、そういう守備を心がけて。セットプレーもそうですが、高さで負けていて何回かゴール側にボールが行きましたけれども、堅守ということを。ふだんは選手間でも『こんなセットプレーじゃやられるでしょ』と言いながらも、実際、同じ大学リーグもそうですし、JFLとの練習試合でも、今日も、やられないんですよね。そんな、サイズ感ないですけど。チームのスタンダードとしてやられないところは──ちょっと至らぬところで失点してしまいましたが、自陣の守備はそういったところで、なんとか対応していこうかなというところでやっていました」

 その結果があの90分間です。試合後、富士大学の選手たちを激励したアルベル監督に称賛があつ混ていますが、高鷹監督もまたすばらしい指導者であり、選手たちを鍛え上げて実戦でもめざすプレーを遂行出来る状態に仕立て上げた手腕は評価されるべきだと思います。

 気がつくと富士大学の話ばかりになってしまいましたので、東京の話も。
 ゴールキーパーを波多野豪、アンカーを東慶悟、センターフォワードを山下敬大に替えながら、ほぼレギュラーの中村帆高と永井謙佑を起用、渡邊凌磨をインサイドハーフで先発させ、清水エスパルス戦と鹿島アントラーズ戦のような、またはルヴァンカップのジュビロ磐田戦のような、よくボールが動くサッカーが出来ていて、チームづくりは順調に進んでいると感じました。

 会見の終わりにアルベル監督が「東慶悟がブスケツみたいな~」と言ったときには茶目っ気たっぷりの笑みが浮かんでいました。最後に冗談めかして言えばこれくらい言っても怒られないだろうということなのか、みんなバルサ好きだからこの喩えわかってもらえるでしょうということなのかはわかりませんが、こちらもつられて笑顔になったことは確かです。小川諒也との交代で途中出場し、小川がやっていた左サイドバックとキッカーの仕事を引き継いだバングーナガンデ佳史扶を含めて選手は軒並みいいパフォーマンスでした。今後につながる一戦だったのではないかと思います。

 なお先日おこなった個別取材の対象選手は最終ラインの右側、木本恭生と中村帆高でした。LINEの青赤援筆とこちらの青赤20で出していく予定ですのでお楽しみに。特に帆高の話は、ああ最近メンバーに入ってきている選手はやっぱり相応の努力を重ねたんだなということがわかる内容で、みなさんにとっても興味深いかと思います。もう少々お待ちください。なんとか中断期間中にはと。よろしくお願いします。

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『青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン』は、長年FC東京の取材を継続しているフリーライター後藤勝が編集し、FC東京を中心としたサッカーの「いま」をお伝えするウェブマガジンです。コロナ禍にあっても他媒体とはひと味ちがう質と量を追い求め、情報をお届けします。

 

 

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
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