あゝ長崎は今日も雨だった。FC東京、クリスティアーノの一撃に沈む【天皇杯3回戦/vs.V・ファーレン長崎/無料公開】
6月22日、トランスコスモススタジアム長崎で開催された天皇杯3回戦のレポートをFC東京視点の観戦記スタイルでお届けします。
◆後半のなぜ
Jリーグの湘南ベルマーレ戦とサガン鳥栖との間におこなわれるミッドウイークの試合ということで、ある程度リーグ戦のメンバーを休ませたい、しかし何がなんでも勝ちたいというふたつの願いを重ね合わせるとこうなった……という攻撃的な布陣で東京は先発の11人を揃えた印象です。
松木玖生が不在、練習の様子から長友佑都の復帰が確実、また東慶悟、アダイウトン、紺野和也も入りそう──という状況を考えると想定の範囲内かなとは思います。中盤のかたちが正三角形なのか逆三角形なのか、渡邊を前にしつつ安部が臨機応変に位置を変えるといういつもの変化でやっているように見えましたね。安部本人に確認したところ、やはり4-2-3-1スタートで守備時はボランチとしてプレーし、攻撃ではアルベル監督から自由にやっていいと言われていたそうで、だからインサイドハーフ気味のポジションをとっていたと。敗れてしまいましたが、この布陣自体は機能していたと思います。
序盤は押し込む東京の勢いを長崎が御しきれないところを衝き、早々に先制。ここの東京は見事でした。ポケットの攻略について渡邊凌磨に訊ねると「センターバックをサイドに釣り出せればというのがチームとしての狙いだったし、ボールが来なくてもあの背後に走ることが大事かなと思っていたので、それがゴールにつながったかなという感じです」。あのタテ軸の動きが相手の守備を崩す要因になっていたことは間違いない。
ただここから長崎があわよくばボールを奪ったあとパスをつなごうという欲をかかず、シンプルに蹴り出して一度東京の攻撃を切ろうという守備に切り替えた結果、特に背後にスペースが出来がちなところを衝いて長崎のペースになっていきました。
長崎は失点の前の前半2分にカイオ セザールが安部から奪って右に展開、さらに前線のビクトル イバルボに送ろうとするシーンがありましたけれども、常時あの感覚というか、引き込んで引っ掛けて、それも出来るだけ高い位置で奪ってカウンターで攻めようという意図が明白。2点目のスーパーなミドルシュートは決まりそうな予感がビンビンに漂っていた。ミドルなんてめったに入るものじゃないという思い込みがあったのかどうかは定かではありませんが、あそこは寄せないといけない。
後半はもう少しで東京が仕留められそうな内容でした。しかも交代回数の上限に引っかかってカイケが傷んで外に出たのに延長戦に入るまで交代出来ず、ひとり少ない状態で 長崎が戦っていたにもかかわらず得点なし。長崎の粘りに根負けするかのように90分間で終わらせることを諦め、延長戦に入りました。エンリケ トレヴィザンの負傷もありましたし、なんとも言い難い空気でした。
長崎は枠があっても交代回数がないという状態だったので、延長前半に入る時点でカイケの分も含めて一気に三枚替え、選手の数を同数に戻すとともにフレッシュに。東京も長友とアダイウトンを下げてバングーナガンデ佳史扶と永井謙佑を投入、仕切り直しで決着を図ることになります。
たらればになってしまいますが、やはり延長戦にもつれ込ませるべきではなかった。前半で2点を奪われたとはいえ、2-2に追いついてハーフタイムに入ったところまでは全然悪くなかった。後半に1点を獲れば、カテゴリーがひとつ上の東京がそのまま時間を費やして閉じていた試合です。それさえ出来ていれば、延長前半アディショナルタイム、耐えに耐えた長崎がクリスティアーノの神業で勝ち越すことはなかった。
指揮官が後半に交代のカードを切らなかった理由は、チームが機能していてその必要がなかったから。「追加点が入る状態だった。入らなかったほうが不思議」と、アルベル監督。私と同様「90分間で決着をつけることを最後まで期待して戦っていた」そうです。そして無理ならば延長戦のなかで複数の交代をすると……。
後半は何かが足りなかった。
「後半もうちょっと決定的なチャンスをつくれれば展開も変わっていたのかなと。ボールを自分たちで握って回していましたけど、なかなか崩せずという展開だったのかなと思います」(安部)
「ぼく自身もっともっと中盤で前を向ける場面だったり……何本かシュートを撃ったし、それを決めきるところが必要かなと思います」(渡邊)
このメンバーを投入したからには天皇杯を獲りに行ったのでしょう。しかし攻撃的に行って決勝点を獲りきれず、2失点目の獲られ方を見るかぎりでは守備力が落ち、はたしてアルベル監督のチームマネジメントは正しかったのか……。
ともあれ、残る公式戦がリーグ戦だけになったことで、そのマネジメントはしやすくなったはず。開き直り、今後は攻守のバランスがとれたベストメンバーでベストの戦い方を追求してほしいものです。
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