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【頼コラム】岩政大樹・著『PITCH LEVEL』を読んだ

今年9月に発売されて以来、サッカー界では既にあちこちで話題になっている『PITCH LEVEL(ピッチレベル)』。鹿島の名センターバックとして活躍した岩政大樹選手の著作である。(まだ東京ユナイテッドFCでプレーしているので敢えて選手と呼びます)。「例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法」という、モンテファンが思わず手に取ってしまいそうな副題がついているが、文字通りこれは内容の一例で、「サッカーの言葉」「勝敗の分かれ目」など7つの論点に分けて39の考察を行っている。

当然のように、よくある「◯◯選手物語」的な著作では全くないのである。理屈っぽいことは自覚しているという岩政選手が、サッカー界にあふれる「なんとなくあたりまえのこととして流布している言葉や事柄」に対し、時にはその裏づけを論理的に説明し、時には自分が感じた違和感の理由を探り筋道を立てて解釈を試みる。あるいは、ピッチ上で行われているプレー、行われるべきプレーをメンタルと技術の両側からつまびらかにする。もういちいち「ううむ…確かに…」と唸るしかないのである。プロの選手の思考回路やプレーの本質をここまで可視化してくれた、つまり的確な言葉で記述してくれた本が今まであっただろうか。ないよね!

考察4の「『自分たちのサッカー』というマジックワード」の項では、取材を受ける選手が戦術的なことをぼかして言うのに「自分たちのサッカー」は便利な言葉だとしつつ、そこに潜む危険に警鐘を鳴らす。本来は「勝つ」という目的のために描かれた「自分たちのサッカー」のイメージが、いつの間にかプレーの目的にすり替わっていないか、と。まあこの問題自体はザックジャパンがブラジルW杯でグループリーグ敗退した時に散々議論されていたわけだが、岩政選手による「なぜこんなことが起こるのでしょうか」への一つの答えは本当に面白いので読んで下さい。おそらく当時のサッカージャーナリズムのどんな分析(あれ分析だったのかな)とも違う。孫子の言葉を引用して成される説明とそこから導かれる結論はとても納得性が高い。

もちろん、一つ一つの見解について岩政選手の言うことが全て正解だとは思わない。でも問題提起自体が画期的で、ほかの選手ならどう捉えているかがまた気になってくる。その点でもこの本は優れていると思う。

岩政選手自身は、山形とは縁のない選手だが、ディオマガの読者に本書を勧める理由はいくつかある。一つは前述のような、サッカーを見る視点が広がる問題提起にあふれていること。それゆえに、と言っていいと思うけれど、読みながら「ああ、これは山形でも……」と想起させる箇所がいくつもあった。その一つが考察38「選手たちはブーイングに何を感じているのか」である。

「選手は、サポーターの声を、言葉からではなく、雰囲気から感じています」で始まるこの項で著者は、試合中の観客が作り出す空気、反応がいかに選手のプレーにダイレクトに影響するものかを語っている。それで思い出したのは、今季第34節(9/24)のホーム熊本戦のことだ。0−0で進んでいた前半の終わり頃、山形のバックパスが2、3本続いた場面で、ホーム側のスタンドからブーイングに近い、明らかに不満の声が上がった。山形にとって流れの良くない時間帯ではあったが、「全然、下げることは悪いと思っていない。そんなに慌てるなと。下げてしっかり後ろ(CB)が2枚開いてゆっくり回していけば問題ない」(加賀選手)と、選手たちは攻撃を組み立てていこうとしていた。そのタイミングのブーイングは山田選手も試合後に「ショックだった」と語っている。

岩政選手はこう書いている。
《サポーターの皆さんは、選手たちの「いいプレー」の基準を示す存在だということです》

NDスタでは、試合終盤になってもラインぎりぎりまでボールを追う必死のプレーには、その成否に関わらず拍手が湧く。それが、監督や選手が入れ替わっても変わらない山形のカラーを作っている要因の一つなのだと、この記述を読んで腑に落ちた。岩政選手は鹿島や岡山で感じた「空気」がいかに自分を成長させてくれたかを言葉を尽くして書いている。おそらくそれは、全く同じではないにせよ、山形の選手たちにも共通した受け止め方に違いないと思うから、本当にこの本を読んで!(宣伝料はもらってませんよ)

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