柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『桜、ふたたびの加奈子』 まさかの時速百キロのホラー映画・・・ (柳下毅一郎)

『桜、ふたたびの加奈子』

監督・脚本・編集 栗村実
撮影 ニホンマツアキヒコ
音楽 佐村河内守
出演 広末涼子、稲垣吾郎、福田真由子、高田翔、吉岡真由子、江波杏子

 さてこうして映画当たり屋商売をやっていると、ときどき思いがけない大当たりにぶつかることがあって、たとえて言えばあたりをつけてふらふらと車道に飛び出したら向こうがスピードを落とすどころかアクセルを踏みこんできて時速百キロではね飛ばされて星の彼方に消えてしまったというような映画が! そういうわけで、広末とゴローちゃん共演でおくる「観る人すべての胸を揺すぶるヒューマンドラマ」まさかこんな作品だとはお釈迦様でも気がつくまい!

栃木県足利市の主婦桐原容子(広末涼子)は優しい夫(稲垣吾郎)と可愛い娘加奈子に恵まれ、幸せな日々を過ごしていた。今日は加奈子の小学校の入学式。夫に娘と一緒に学校まで送ってもらい、あ、入学式の写真ちゃんと撮らないと!……あれデジカメどこ?カメラカメラ……とカメラに夢中でコドモの手を離したと思ったら

キーッ、ガシャーン

いきなり加奈子は轢かれて死んでしまった! 広末はショックでそのまま寝込み、葬儀の手配はすべてゴローちゃんがする。だが焼き場から戻ってきた骨壺を見ても、広末には娘だとは思えないのだ。

「加奈子はそこにいないと思う」
「じゃあどこにいるっていうんだよ!」

 ゴローちゃんが死亡届を提出しているあいだ、家に一人いた広末は憎いデジカメを「おまえのせいで!」と床に投げつけて踏みにじる。広末の凶暴性がすでに発現しております。

初七日

もちろん法要には参加せず、一人家で娘に会いたい気持ちをつのらせている広末

「会いたい……会いたい……会いたい……会いたい……」

 いつの間にか目の前には(広末の主観カメラで)ロープの輪が下がっている。おい!

「会いに行く……会いに行く……会いに行く……」

 いやそれだめだって!足下の椅子を蹴り飛ばして暗転……

だがかろうじて助かった広末。ようやく復活して家族の朝食を作っている。夫と自分の分、それに加奈子にオムライス。

「いいかげんやめないかそれ」
「加奈子はここにいるのよ。あなたには見えないの?」

 とエアで手をにぎり、エアいいこいいこ

「あなたは加奈子を愛してないからわからないのよ! あたしはあなたよりずっと加奈子のことを知ってるんだから……!」

 四十九日

もちろん広末は法要には出てきません。だって加奈子はそこにいるんだもん……!

そんなある夜、加奈子が可愛がっていた愛犬ジローが鎖を引きちぎって走りだす。ジロー!ジローどこへ行くの? 犬のあとを追っていった先に倒れていたのは妊婦の正美(福田真由子)。正美は高校生だったが大学生にこまされて妊娠し学校を中退、将来をはかなんで欝に沈んでいたのだった。正美の看護をする広末。そこへ来たのが正美の元担任である小学校教師(吉岡真由子)。

「わたし……子供を亡くしたばかりなので、他人とは思えなくて……」
「おいくつになるんですか?」
「生きていれば……この春から小学校に入るはずでした」
「ひょっとして……桐原さん! わたしが担任になるはずだったのに!」

 こんな偶然があっていいものか? これはジローの(つまり加奈子の)引き合わせに違いない! 完全にサイコな広末は正美の腹にいる子が加奈子の生まれ変わりに違いないと決めこむのだった。

なんだこのサイコ展開は! また佐村河内守の音楽が神経を引き裂くように不安感をそそる強烈さで、どこからどこまでも恐怖映画。なお、佐村河内守の経歴があまりにすごいので、是非HPの紹介を見て欲しい。

こんな人が作ってる音楽なんだから、さぞやー!

正美は偶然広末の母が経営する古本屋を訪れると、そこで彼女の後輩のイケメン少年(高田翔)に出会う。

「あの、野口先輩ですか……ぼく、小中と後輩だったんです。本当は高校でも後輩になるはずだったんですが……」とさりげなくストーカーアピール。

「そう、新入生でも(妊娠のこと)知ってるんだ……」

(残り 2521文字/全文: 4142文字)

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tags: サイコ ホラー 佐村河内守 吉岡真由子 広末涼子 栗村実 江波杏子 福田真由子 稲垣吾郎 高田翔

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