柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『めめめのくらげ (カイカイキキ 2013)』 クールジャパンな村上隆の日本社会を焼きつくさんとする憎悪と歪んだ魂 (皆殺し映画通信)

 

『めめめのくらげ (カイカイキキ 2013)』

製作・監督・脚本 村上隆
監督補・編集・脚本協力 西村喜廣
脚本 継田淳
撮影 長野泰隆
出演 末岡拓人、浅見姫香、鶴田真由、黒沢あすか、斉藤工、津田寛治、染谷将太

 世界の村上隆、映画に挑戦の巻である。

さて、ぼくがこの映画についていちばんわからなかったのは、これをTOHOシネマズ六本木ヒルズはじめ全国ロードショー公開することである。

ブルー・ムーヴィー そもそも作品以上に文脈と見せ方を重視してきたのが村上隆の芸術なのであれば、映画においてもその公開方式を検討すべきではなかったのか。アラブの石油成金に100万ドルばかり出してもらって、作った映画はドバイの美術館で独占公開(一人一万円くらい払うと見せてもらえる)とかにするのがいちばん良かったのでは(ちなみにこの方式を最初に提案したのはテリー・サザーンの『ブルー・ムーヴィー』)。一般公開なんかしたら見せたくもない人間に見られてしまう。つまりぼくごときに見られて、書かれたくもない評を書かれてしまうではないか。ドバイで上映されてたらぼくなんか一生見ないままだったのに。

それでもなお一般公開するとしたら、それは本当にこの映画をみんなに見せたい理由があるからだろう。これがヒットして、作品が愛され、そこに社会的意義も見いだされると思っているからだ。それこそが実は最大の驚きであった。つまり、ぼくが思っていたよりもはるかに村上隆はアーティストであり、自分の表現を信じていたのである。計算ずくではなく自分の金でこの映画を作っている、というのはかなりとんでもないことである。村上隆って、かなりキチ××……いや芸術家なんじゃね? だってさ……

のどかな田園風景の広がる学園都市のマンションに引っ越してきた母子。水産業勤務の父親は津波で亡くなった。少年の好きなチーカマはパパの味。ある日、正志(末岡拓人)が帰ってくると、引っ越し段ボールが荒らされていた。何者かがチーカマを食い散らかしていたのだ。犯人は謎の妖怪だった。一目見て妖怪に好意を抱いた正志は「クラゲみたいだね」と言うので(そうか?)妖怪に“くらげ坊”と名をつける。

かばんに“くらげ坊”をひそませて、こっそり学校に連れてきた正志。ところが驚いたことにクラスには妖怪があふれていたのである。授業中、生徒たちがスマフォをいじると、そこに子犬サイズの妖怪があらわれるのだ。先生に気づかれないように、板書のあいだを縫って、子供たちはその妖怪で遊んでいたのである。クラスのガキ大将にいたずらをしかけられた正志は思わず“くらげ坊”で反撃。ガキ大将・竜也は驚くのだった。

「おまえのふれんど、デバイスないの?」

放課後、“ふれんど”勝負のまっただ中に紛れこんで虐められそうになった正志を救ってくれたのは巨大な“ふれんど”を持つ美少女咲(浅見姫香)だった。咲は正志に“ふれんど”の秘密を語ってくれる。ある日、全身黒づくめの中二病みたいな四人組があらわれ、孤独な子供たちに「絶対に裏切らないともだちをあげる」とデバイスをくれたのだ。デバイスを操作すると“ふれんど”があらわれる。やがて子供たちは“ふれんど”同士の戦いに血道をあげるようになり、学校はどんどん荒廃していったのだった。「けんかは嫌いよ」と咲は言うのだ。

この中二病軍団、実は大学の研究室で「天災を防ぐため」の研究をしている。宇宙をひとつの生命体と考えると、負のエネルギーがあふれたとき天災が発生するとかなんとか。負のエネルギーをもっとも持っているのは研究から人間の子供だと判明した。だから子供たちの負のエネルギーを集めるためにデバイスを配っている。研究室には中華の十二辰を記した“魔方陣”があってそこでエネルギーを集めてびびびびーっと……ここら辺の理屈は何度聞いてもよくわからないのだが、ともかく黒づくめで頭にフードをかぶりマントを羽織って「わははははは」と笑うような悪役だから(この格好で科学者と名乗ってるんだからすごい)、もちろん悪の研究をしているわけである。中二病軍団は効率よくエネルギーを集めるために“ふれんど”を一匹世にはなち、特異点となる少年を探していた。それが正志だったのだ。

“ふれんど”たちがなぜあんなかたちをしているのかに関しては特に説明はない。てっきり子供たちの精神力を反映しているのかと思いきや、その割には大きさも形状もでたらめだったりする。どうやら人造の存在らしいのだが、とくに作動原理はない。しかもちゃんと物理的実体はあって人も壁も殴れる。それがなぜデバイスにタッチするだけで無からあらわれたり消えたりするのか、は特に説明されない。そんなことを気にするのは理屈にうるさいオタクとSFファンだけで、子供にはどうせわからないんだからどうでもいいんだよ……いや、そういう態度自体がすでに子供を舐めているというのだ。だいたい子供向けに作ろうというなら、キャラクターをきちんと浸透させる努力がなければヒットなぞ望めまい。まず絵本でも作って、シリーズ化して、五年くらいかけてキャラクターが浸透したところでおもむろに映画にするのだ。そんな、丸っこくて目が大きければ子供は好き!とか甘いこと考えてるんじゃないよ。“ふれんど”たちにフェティッシュな快感を与えられないなら、子供が食いつくはずがない。

まあそんな幼稚な描写で進んでいくので、映画ではなくアニメならいいのかな……と思わされること多数。アニメならリアリティの問題で突っ込まれることもないだろうし、村上隆のフェティシズムも発揮できるのかもしれない。それにしても子供向けとして作るのであれば、水泳の時間に津波のせいでプールに入れなかった正志くんが、美少女にプールに突き落とされ、そのままスク水の少女とプールの中でたわむれるシーンがスローモーションで延々と続くのはどうかと思うんですがどうでしょうか?ちなみに公開二日目の土曜日昼間で50人くらいの入りだったので……

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