柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ガッチャマン』 -「これぞ科学忍法火の鳥だね!」・・・頭を空っぽにして見に行ってみるが、やっぱりあんたらただのバカ (柳下毅一郎) -[増量]5,011文字-

FireShot Pro Screen Capture #129 - '映画『ガッチャマン』公式サイト' - www_gatchaman-movie_jp__type=fc

『ガッチャマン』

監督 佐藤東弥
脚本 渡辺雄介
音楽 ニマ・ファクララ
出演 松阪桃李、綾野剛、剛力彩芽、初音映莉子、岸谷五朗、光石研、中村獅童

ico_yan 公開前から「今年のラジー賞は決まりだ」とかまびすしい本作である。さてそういう風潮がたってしまうと見に行くのもちょっとためらわれてしまったりするのだが(これはあまり信用してもらえないのだが、ぼくは一応「映画をけなすために見に行く」つもりはないので)、じゃあできるだけ頭を空っぽにして見に行ってみるかと……

……と、いきなり「劇場版おはよう忍者隊ガッチャマン」というアニメがはじまる。これ、日テレの朝番組で流している番宣用のショートアニメなのだが、これをここで流す意味がわからない。オリジナル・アニメのキャラを使ったギャグアニメなんだが、本編とも全然関係ないし、別におもしろいわけでもないし、なんでわざわざ流そうと思ったのだろう。もとより、本編のほうでキャラも設定もまったく変えてしまってるわけで、キャラの紹介になるわけでもなし。元のアニメを知っている人たちだって、こんなもん別に見たくはなかろう。内輪受けの空気でもともと寒い劇場がさらに冷えこんだところで、本編のはじまり。

砂浜で遊んでいる三人の子供たち。

「適合者がウィルスXに感染するとギャラクターになるんだって。でも石が守ってくれるの」

 まあこれが実は伏線、というか設定のすべてなんですが、それは置いといて……2015年、どこからともなくあらわれたギャラクターと名乗る謎の軍団がいきなり侵攻を開始。すべての武器を無効化する「シールド」を持つ彼らには人類の兵器はまったく通じず、わずか十七日のあいだに地球の半分が制圧されてしまう。もはや人類は滅亡を待つばかりの存在となっていた。それから十七年……

……って十七年間ギャラクターは何をしていたんでしょうか? 東京では人々は今と変わらぬ生活をくりひろげております。町中を戦車が走り、FREEDOMがどうとかいう旗が翻っているもの、人々は中野サンプラザでコンサートを見て、新宿副都心でショッピングにいそしむ。この「FREEDOM」云々、どうやらこの映画のキーワードらしいのだが、何からの自由なのかいまひとつ判然としない。ギャラクターの支配からの自由なのか、それとも対ギャラクター戦争のために築かれた戦時体制下で奪われた自由のことなのか。どうも後者らしいんだけど、でも別にディストピア描写があるわけじゃないので、登場人物がお題目のように唱える「自由」がなんのことなのかわからないんだよな。こいつらそんなに不自由な暮らししてるんだろうか?

東京ではギャラクター対策のために世界中で科学者を集めたISO(国際科学技術庁)会議が開かれている。そこを狙って襲ってくるギャラクターの巨大車輪(『バトルシップ』に出てきたような奴)。車輪からはわらわらとギャラクター戦士(なんとなく押井守風味の全身プロテクター)が登場する。自衛隊は戦車や火器で応戦するもののまったく通用しない(てか十七年前に通用しないってわかってるものをなぜいまだに使ってるのか)。もはやこれまで……というところにあらわれた白い影、潜入捜査していた(どこに?)科学忍者隊ガッチャマンだ! 彼ら科学忍者隊こそ、18世紀に発見された「石」のパワーを使い、ギャラクターに対抗できる唯一無二の存在だった。「石」の力を活用できるのは「適合者」と呼ばれる選ばれた人間のみ。選ばれた「適合者」たちは厳しい訓練を受け、ついにパワーを発揮することができるようになった。お寒い感じのCGバトルが延々続きますが、そこは突っ込まない方向で。

紅一点のジュン(剛力彩芽)は車輪内に侵入して爆弾を解除する。タイマーこそ謎の象形文字だが、内部はCAUTIONと書いてあったりしてギャラクターの技術水準にいろいろと疑問符がつく爆弾を面倒だから丸ごと破壊して解除するジュン。突然あらわれた凄腕の「適合者」ジョー(綾野剛)の助けも借りてギャラクターを撃退したガッチャマンであった。

ラブラブのジュンの夢は、ガッチャマンのリーダー、ケン(松坂桃李)に自分の手料理を食べてもらうこと。だが任務第一のケンはそっけない。そんなぼやきを耳にしたジョーは「それはナオミのせいだな」といわずもがなの一言。ケンの過去にいったい何が? もやもやが止まらないジュン。そこへ思わぬ任務が舞いこむ。権力争いに敗れたギャラクターのナンバー2、イリヤが亡命を求めてISOに接触してきたのである。

イリヤの保護のため、ヨーロッパ解放を訴えるパーティに潜入するジュンとケン。招待状をハックしてパーティ会場に潜入するとか「忍者」的な見せ場もあるんだが、実のところ必然性はまったく感じられない(この世界で「科学忍者隊」はどういう立場の存在なのか?)。しかもパーティはなぜか仮面舞踏会。ヨーロッパ解放はどこへ行ったのか。剛力さん的にはいちばんの見せ場であるはずの唯一ドレスを着る場面なのだが、じっくり写すでもなく流されてお気の毒な感じ。だがそれにもめげず、「ねえちゃんと見てよお。そう言えばナオミって誰?」とアピールに必死な剛力さん。

よく、日本映画の欠点として、なんでも恋愛を持ちこんでしまうことが指摘されるのだが、思うに、恋愛要素を持ちこむこと自体が悪いわけではない。問題は作戦遂行中に痴話喧嘩をはじめてしまうことである。これをやるといきなりアマチュアくさくなってしまう。かつて『海猿』シリーズで救出作業中に延々プロポーズをはじめて観客を呆れさせるという事例があったものだが、ここもまったく同じ。ジュンさんも乙女心をアピールしたいなら、こういう場面ではぐっとおさえておかなきゃならない。ただひたすら押しまくるだけだと痴女になっちゃうよ!

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tags: SF アニメ実写化 中村獅童 佐藤東弥 光石研 初音映莉子 剛力彩芽 岸谷五朗 松阪桃李 渡辺雄介 特撮 綾野剛

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