柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『マダム・マーマレードの異常な謎[出題編]』 -短編三本見てクイズを解きましょう!お話が終わると三分間のシンキングタイムの「ナゾトキネマ」 (柳下毅一郎) -3,020文字-

FireShot Screen Capture #152 - 'ナゾトキネマ「マダム・マーマレードの異常な謎〜解答編〜」' - nazotokinema_jp

 

『マダム・マーマレードの異常な謎[出題編]』

監督 中村義洋、鶴田法男、上田大樹
脚本 堀田延、中村義洋、鶴田法男
出演 川口春奈、高畑淳子、中越典子、江口のりこ

 

ico_yan「ナゾトキネマ」だそうである。映画本編で観客に向けてクイズを出し、観客がそれに解答する。映画の途中にはシンキングタイムが設けられ、そこでは照明がついてメモ書きをする時間もある!という考えた人はいくらもいそうだけど実行するのはこれがはじめてか?というインタラクティブシネマ。[出題編]見に行った人はほぼ確実に[解答編]も見に行くわけで、一本の映画で二度美味しいと言えないこともない。ただ、経費はかなりかかってるだろうから、この入りで元が取れてるかというとちょっと疑問か。いちばん驚いたのはメモ取り用に上映中も照明が完全には消えず、薄明かりのままだったことだ! これはもう、映画とは違う何か別なものだよね……

「わたしはマダム・マーマレード、時間と空間を越えてあらゆる謎を解く宿命を持つ女……」

のナレーションとともに登場するのが美少女マダム・マーマレード(川口春奈)。助手のマダム・バルサミコ(高畑淳子)を連れて世界中を飛びまわり、高額な報酬で解けない謎を解いている。

「謎は解かれるのをまっているのです……!」

今日やってきたのは亡くなった映画監督・藤堂俊之介の邸宅である。三十年前に亡くなった藤堂は日本を代表する映画監督であった。その彼はいまわのきわに

「最初のセリフだ……」

の言葉を残してなくなった。

一同頭をひねったが、やがてその意味が判明する。「短編映画三本に秘密がある」と書いた手紙が妻宛に残されていたのである(どうでもいいけど、普通これは逆ではないのか? いまわのきわに「短編映画を見ろ……」と言い残して、それ見てもわからないでいたら“最初のセリフ”がヒントになるんじゃないの?)。藤堂監督は生涯でわずか三本しか短編映画を撮っていない。それもいずれも自主製作で、人にもまったく見せていない。ならばこの短編映画の中に秘密があるはずだ!……というわけで依頼主の未亡人と二人の息子、執事(元助監督)らはくりかえし映画を見たものの、謎はさっぱり解けぬまま。いつしかそのことすら忘れ去っていた。だが未亡人の隊長が悪化するにいたり、死ぬ前に夫の残した最後のメッセージの意味を知りたいと思い、マーマレードを招いたのであった。で、マーマレードの実力を信じない息子が嘲笑すると不倫デートを見抜かれて凹まされるといった一幕があって、「じゃー早いとこ映画見ましょうよ」とマーマレード(以外とあっさりしている)。

 

さて、そこから映画がはじまるわけである。実際に三本の短編映画を中村義洋『アヒルと鴨のコインロッカー』)、鶴田法男『リング0~バースデイ』『おろち』)といったキャリアも実力もある映画監督が撮っている。まさか鶴田法男の新作ホラーがこんなところで見られるなんて!

CUBE キューブ [Blu-ray]映画の企画はリアル脱出ゲームを作っているSCRAPが担当。「脱出ゲーム」とはいろんなヒントからパズルを解いて、閉じ込められた迷宮から脱出するという、まあ猿がバナナを取るような仕掛けである(『CUBE』あたりからヒントを得たのかなあ?)。なので映画がパズルになっていて、それを解くヒントが与えられるという構成。短編映画自体はこんな企画ネタにしては意外とよくできていて、結構楽しませてくれたりもする。まあ、見る側も意外と真剣に画面に見入ってたりするんで。

クイズの答えは五文字のかな。で、それを三本分つなげると藤堂監督のメッセージが出てくるわけである。なぜ監督が何十年もかけて飛び飛びにそんな謎を仕組んでいたのか……とかそういう基本設定を突っ込んではいけません。

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tags: 上田大樹 中村義洋 中越典子 川口春奈 江口のりこ 高畑淳子 鶴田法男

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