柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『幕末高校生』 フジテレビの予算消化映画?太秦映画村を走りまわったりするだけ。空騒ぎに勝海舟もありがた迷惑 (柳下毅一郎) -2,658文字-

 

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幕末高校生

監督 李闘士男
脚本 橋部敦子
撮影 藤石修
音楽 服部隆之
出演 玉木宏、石原さとみ、柄本時生、川口春奈、千葉雄大、佐藤浩市

 

ico_yan日本映画を見ていると、この映画、誰のために(なんのために)作ってるんだろう?と自問してしまうことが(悲しいことに)よくあるのだが、この映画でもやはりそう思わずにはいられなかった。いったい誰に見せようと思ったらこんな企画が出てくるのか。

本作はフジTVと東映の共同製作。ぼくの推理するところでは、この映画の作られ方はこうである。フジはいつものテレビドラマの作り方で、人気俳優(この場合は石原さとみ)のスケジュールを押さえ、それからネタを考える→東映に話を持ちかけると「じゃあウチ(太秦映画村)をロケに使えば安く作れるよ」と言われる→でも石原さとみに本格時代劇は無理だな→あーそう言えば20年前にフジテレビで細川ふみえ主演で作ったドラマがあったわ~→その映画版ってことでいいよね! というわけで太秦映画村狭しと石原さとみが着物姿で駆けまわるバラエティ番組が出来てしまったわけなのだった。まあこれが見事なバラエティ。映画として公開されたりしなければなんの問題もなかったんですけどね……

高校の社会科教師の川辺未香子(石原さとみ)は事なかれ主義とアリバイ授業ですっかり生徒からも見くだされているダメ教師。そんな彼女と生徒三人(柄本時生、川口春奈、千葉雄大)はいきなりタイムスリップして江戸時代に行ってしまう。着いたのは1868年3月11日、江戸無血開城の四日前のことだった! なお、タイムスリップはダメ生徒マサヤ(柄本時生)がテストのカンニングで江戸時代アプリかなんかをいじくっていたら発生するというものでなんの理由もない。しかもスマホには帰還までの時間がカウントダウンされているという親切設計。そういうわけでふらふらと町をさまよっていた二人、不審人物として捕らえられてしまう。連れて行かれた奉行所のとなりで油を売っていたのが陸軍総帥の勝海舟(玉木宏)である。「その二人、おれに預けちゃあもらえねえか」というわけで勝海舟預かりとなった二人。それはいいのだがあと四日のうちに残る二人の生徒を見つけて帰るという仕事がある。それはたまたま江戸城無血開城の日なのだが……勝が西郷隆盛(佐藤浩市)に送った書状に返事はなく、城内では主戦論が高まるばかり。このままでは江戸は火の海になってしまう! 歴史が変わってしまったら、帰るべき未来もなくなるかもしれない。歴史をあるべきコースに戻すため、二人は奔走する!

……と思うじゃん普通。

 

 

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tags: 佐藤浩市 劇場版 川口春奈 李闘士男 柄本時生 玉木宏 石原さとみ

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