『マザー』 ギャアアアアア!これぞ楳図マジック!その謎には先生本人も含め誰一人答えられないだろう (柳下毅一郎) -2,955文字-
『マザー』
監督 楳図かずお
脚本 継田淳、楳図かずお
出演 片岡愛之助、舞羽美海、真行寺君枝、諏訪太郎、中川翔子、
最初に書いておくが、この映画、まったく意味がわからない! これはぼくの理解力に問題があるのではなく、たぶん誰が見ても何ひとつわからないはずである。根本的に筋が通っていないので、理解しようとしてもするだけ無駄だ。だけど、じゃあつまらないのかというとそういうことではなくて、不条理な悪夢のように頭から離れないというか、脈絡がないまま怒濤のクライマックスに雪崩れこむあたりに楳図漫画の呼吸を感じるというか。どこからどこまでも無茶な映画だとはいえ、楳図かずお初監督作品に珍品以外のものを求める人はいなかろう。その期待には見事に答えてくれる今年最大級の珍作である。
楳図かずお(片岡愛之助)の仕事場に編集長(諏訪太郎)が新人編集者さくら(舞羽美海)を連れてやってくる。子供のころから楳図漫画の大ファンだったさくら、緊張して顔もあげられないガチガチぶり。諏訪にうながされておずおずと企画を切り出す。
「わたし、先生の生い立ちを本にしたいんです。独特の感性が何に由来するのかを知りたいんです!」
「ぼくのことなんか誰も興味持たないと思うよ」
と言いつつも悪い気はしない楳図、さくらのインタビューを受けて生まれについて語り始める。
「ぼくは高野山の山奥の生まれで……」楳図は父から夜な夜な妻が抜け出すという怪談を聞かされたこと、母イチエ(真行寺君枝)が死のまぎわに「わたしの葬式の夢を見たわ……高野山にもまわってきたの……お礼参りに……」と夢の話をしていたことをさくらに聞かせる。さらにイチエが死のまぎわに手に何者かの髪の毛を握りしめていたこと。楳図はその黒髪を今も手元に置いてある(これ、問題のひとつはイチエが死んだのが何年前なのかまったくわからない、ということである。たぶん楳図=片岡愛之助は30年くらい同じ容姿のままなんだと思うが)。
生い立ちをさらに取材しよう!と思い立ったさくらは単身高野山、楳図の生まれ故郷に出かける。車が故障して山道を歩いていると、見事な滝の前に出た。するとそこで水浴びをしている美少女がいる。そこへやってきた渡りの猟師、美しい水浴姿をスケッチしてヌードを描く。そしてその絵を見せて少女を脅迫し、襲いかかろうとする。見るに見かねたさくらは猟師を引きはがそうとするが、振り払われる。だが格闘の中で銃を奪い取った娘は猟師の右掌を撃ち抜いた……はっと夢から覚めると、さくらは楳図のふるさとの村にいた。さくらはイチエの妹を訪ねてきたのだが、妹はすでに亡くなっており、その息子(甥っ子)とそのまた娘が家の前に棒立ちで歓迎してくれる。この映画、人が三人以上居る場面ではたいへん棒立ちになる人が多いのだけど、それは作家性ということで。囲炉裏端で(これは現代の話である!)甥っ子はイチエにまつわる悲劇を語る。
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